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中野 智紀(なかの・ともき)

何故、地域包括ケアに関する政策には違和感を感じるのか?

地域包括ケアはその崇高な理念に対し、具体的な政策レベルの目的においては不明確であり、対象も限定化され、形骸化していると著者は危惧する。地域包括ケアシステムは単にサービス供給を確保するためのものではない。サービスを含む社会関係の調整を行いながら、個人が抱える生きることの困難、生活問題にいかに対峙していくかがカギであり、生きること、生きるうえでの困難に真摯に向き合う政策がむしろ求められる。

目的のよくわからない「地域包括ケア」という政策

「住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるように」とした崇高な地域包括ケアシステムの理念は、その後の「住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築」という行で、一気に対象が縮小されてしまっている。さて、この政策は、単なるサービス供給を確保するためのものなのだろうか。

 

さらに、介護保険における新しい介護予防・日常生活支援総合事業では、在宅医療の推進や医療介護連携、認知症ケアなど、事業の対象がさらに限定されてしまっている。地域包括ケアの最大の問題点は、崇高な理念に対して、具体的な政策レベルの目的、すなわち、なぜ地域包括ケアを推進しなければならないのかが不明確であるのと、そのうえ、対象も限定的であることが挙げられる。

在宅医療のリソースをそろえて提供しさえすれば、あとは現場で上手く使ってください、医療や介護など多職種が互いに協力し合えれば責任は果たしており、それらが生活問題を解決したり、生活的価値や尊厳を守ったりすることとは関係ありません、といった打算が透けて見える。

 

問題は、サービスの提供ではなく、サービスを含む社会関係の調整を行いながら、個人が抱える生きることの困難、生活問題に対峙していくかということであろう。少なくとも、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けていくために、生きること、そして生きるうえでの困難(以下、生活問題)に真摯に向き合う政策ではないだろうか。

迷走する地域包括ケアシステム
利用者に介護予防や自立を強要する事業も出現

崇高な理念に対して政策としての目的が明確にされていないことから、実施主体となる市町村行政が置かれる状況や利害によって、取り組みの方向性が歪曲させられてしまう恐れがある。現在最も顕著な事例として、地域包括ケアシステムを財源問題への対策としてとらえる動きがある。

 

当初、地域包括ケアシステムは、その崇高な理念に反して、逼迫する医療や介護の財政難に対応するため、病院の入院医療に比べて「安上がりな医療」とした在宅医療や介護への移行を進め、それらを提供するための仕組みと認識されていた。

他方で、利用者の尊厳や生活的価値の議論はさておき、財政の負担抑制へ向けて利用者に介護予防や自立を強要する事業を行う自治体も現実に出現している。

つまり、介護保険を使うなら介護予防をしなさいというシステム要求である。

 

これらは、ICF(WHO 2001)に代表される多様な生活問題や障害、自立などの議論と歴史を恣意的に無視して、要介護度の改善こそが自立と限定してしまい、介護予防を積極的に行っている施設には経済的インセンティブを、そうでない施設にはディスインセンティブを、と明らかに財政難への対策として書き換えられてしまっている。

 

単に政策的に質が低いというだけでなく、介護保険サービスの利用行動を過剰に抑制する恐れがあると考えられる。仮に介護保険利用者の減少により介護保険財源への負担が抑制されたとしても、生活保護や救急問題、あるいは介護殺人や孤独死など社会の不安定化を招く大きな要因となることは容易に推測できるところであり、むしろよりマクロなレベルでは財源の負担をかける問題に発展する恐れもある。

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中野智紀医師
中野 智紀(なかの・ともき)
日本糖尿病学会認定指導医・専門医
日本内科学会認定内科医
厚生労働省 在宅医療連携拠点事業 都道府県リーダー研修修了

平成13年 獨協医科大学越谷病院 内分泌代謝・血液・神経内科
平成20年 社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス東埼玉総合病院 代謝内分泌科医員
平成21年 同院 地域糖尿病センター センター長 
平成23年 同院 経営企画室室長
平成24年 同院 地域医療推進部副部長
平成25年 同院 在宅医療連携拠点事業推進室(菜のはな)室長
平成26年 名古屋市立大学看護学部 非常勤講師
平成27年 埼玉県立大学 非常勤講師 
平成29年 埼玉医科大学医学部 非常勤講師

北葛北部医師会 在宅医療・地域包括ケア担当理事
第5回日本プライマリケア連合学会“地域ケアネットワーク優秀賞”受賞
演題名「幸手団地における地域包括ケアシステム(幸手モデル)の構築に関するプロセス研究」
厚生労働省 平成24年度 在宅医療連携拠点事業(東埼玉総合病院にて受託)
厚生労働省 平成25年度 地域医療再生基金在宅医療推進事業(幸手市にて受託)
厚生労働省 平成26年度 科学研究費事業 「地域医療連携の連携診療情報項目の全国的な共通化確立に向けた研究」研究協力員
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