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中野 智紀(なかの・ともき)

生活モデルを基盤とした「ケアする社会」幸手モデルの模索

筆者の勤務する埼玉県幸手市にある急性期病院・東埼玉総合病院は、在宅医療連携拠点「菜のはな」を院内に設置し、在宅医療の推進や医療介護連携等の連携拠点となっている。
ここでは医療介護資源が不足していると言われる幸手市・杉戸町において、すでにある取り組みや方法を活かしながら、住民一人ひとりの複雑な生活
と生活問題に向き合い、誰でもが利用できるセイフティーネットを張りなおすことに取り組んでいる。

在宅医療連携拠点「菜のはな」を院内に設置している東埼玉総合病院

多様な問題を地域の緩やかなつながりの中で吸収し
柔軟で強靭なセイフティネットを地域社会に張りなおす

埼玉県は、全国で最も郷土愛が希薄といわれ、人口10万人に対する医師数・看護師数、医療機関数は全国最低レベルであり、なかでも幸手市・杉戸町は医療介護資源の不足が深刻化している。このような、全国で最も速いスピードで高齢化が進行する埼玉県において必要な視点とは何だろうか。

我々が考えているのは、財政問題としての高齢化対策、すなわち効率化へ向けての議論ではなく、生活の複雑性や多様性について真摯に互いに向き合い、それらの暮らしや人生に伴走しながら、継続的な支援を実現するために必要とされる仕組みの構築である。

それは、かつての農村共同体のような「お互い様文化」あるいは「我が事化」のように、互いの暮らしや行動等を互酬性のために縛り合う古いコミュニティへの回帰ではなく、多様な問題を地域の緩やかなつながりの中で吸収していくことができる柔軟で強靭なセイフティーネットを地域社会に張り直していく作業であり、年齢や障害の種類にかかわらず、すべての住民を対象とし、各々の生活を支えることができる新たな社会形成を進める取り組みとも言い換えることができる。

現在、我々はこうした生活モデルを基盤とした「ケアする社会」と呼べる社会を模索している。

*編注:ブランド総合研究所「都道府県出身者による郷土愛ランキング」

地域医療連携・地域包括ケアシステムの
地域拠点としての東埼玉総合病院

社会医療法人JMA東埼玉総合病院(以下、当院)は、幸手市に所在する急性期病院(173床)である。在宅医療連携拠点「菜のはな」は、幸手市および杉戸町から北葛北部医師会(幸手医師会、杉戸医師会)として事業委託(介護保険事業)を受けた在宅医療の推進や医療介護連携等の地域拠点であり、医師会員である東埼玉総合病院に事務所を設置している。

これまで急性期病院であった当院が、地域医療連携や地域包括ケアの仕組みづくりに積極的に関わってきた背景は、以下の三島秀康病院長の文章に集約されている。

 当院では法人理念である『地域への貢献』を具現化するため、『地域密着型中小病院の新しいモデルになろう』という目標を立て活動している。当院はDPCⅢ群病院で、平均在院日数は13日前後、年間救急車受け入れ台数約2,500件、幸手市、杉戸町発生の救急案件の約3割をカバーしながら1年間の在宅看取り数は39人と、救急と在宅が併存している急性期病院である。この地域は全国でも医療資源が少ない地域で、最近忘れられている感のある『医療崩壊』をひしひしと感じている。そのためか、医師会を中心にして診療所と病院、病院間の関係が非常に緊密で、『地域をひとつの医療機関』とみなし、診療所、急性期病院、亜急性期病院等がそれぞれの機能に応じた役割分担をして効率的な医療を提供しようと努力している。(中略)疾病構造の変化から、地域医療の重点がCureからCareへと変わりつつある昨今、病院の中だけで医療を完結できなくなってきている。患者さんは慢性疾患を抱え入退院を繰り返すのだから、退院後の生活まで見据えた患者指導が必要であり、『地域包括ケアシステム』によって、退院後の生活を支える必要がある。
またこのシステムには、入院しないように健康を維持し、問題点を早期に発見し、重症化する前に早期治療介入することによって、地域の総医療費を削減することも期待されている。このシステムは、医療、介護、福祉、行政のみならず、地域住民が主体的に参加することによって有効に働くことができると考えている。安心して子供を育て、健やかに老いていける地域になることが『幸手モデル』の目標。超高齢社会の医療は、病気を治すのみでなく、治らぬ病気と上手に付き合う方法を提供していかなくてはならない。

(当院ホームページより院長挨拶を一部改変)

幸手市の地域包括ケアシステムは、決して当院が軸となって形成されたわけではない。確かに当院や法人内だけで進めていけば、比較的容易に進めていけたかもしれない。しかし、それでは幸手市や杉戸町の住民の一部を対象とした仕組みしか作れない。あるいは、現在の地域における協力関係を壊してしまう恐れもある。

あくまでも、当院の考え方に共感してくれた地域のさまざまな事業体や団体、そして個人が少しずつ増えて、各々の活動を寄せ合いながら取り組みが進められていったということが重要な点であろう。

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中野智紀医師
中野 智紀(なかの・ともき)
日本糖尿病学会認定指導医・専門医
日本内科学会認定内科医
厚生労働省 在宅医療連携拠点事業 都道府県リーダー研修修了

平成13年 獨協医科大学越谷病院 内分泌代謝・血液・神経内科
平成20年 社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス東埼玉総合病院 代謝内分泌科医員
平成21年 同院 地域糖尿病センター センター長 
平成23年 同院 経営企画室室長
平成24年 同院 地域医療推進部副部長
平成25年 同院 在宅医療連携拠点事業推進室(菜のはな)室長
平成26年 名古屋市立大学看護学部 非常勤講師
平成27年 埼玉県立大学 非常勤講師 
平成29年 埼玉医科大学医学部 非常勤講師

北葛北部医師会 在宅医療・地域包括ケア担当理事
第5回日本プライマリケア連合学会“地域ケアネットワーク優秀賞”受賞
演題名「幸手団地における地域包括ケアシステム(幸手モデル)の構築に関するプロセス研究」
厚生労働省 平成24年度 在宅医療連携拠点事業(東埼玉総合病院にて受託)
厚生労働省 平成25年度 地域医療再生基金在宅医療推進事業(幸手市にて受託)
厚生労働省 平成26年度 科学研究費事業 「地域医療連携の連携診療情報項目の全国的な共通化確立に向けた研究」研究協力員
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