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吉村仁さんの時代 「医療費亡国論」と昭和59年の医療保険改革 Ⅲ

昭和59〈1984〉年の医療保険の大改革(健保改正)は、「医療費の増加の抑制」が正面から目的として掲げられ、被用者本人定率負担が導入されるなど、その後の医療保険改革の枠組みをつくったものともいわれています。
改革を厚生省保険局長として牽引した吉村仁氏(昭和5〈1930〉~61〈1986〉年)の、いわゆる「医療費亡国論」をはじめとした言説の今日的な意義を考えていくために、社会保険旬報のバックナンバーで当時をふりかえります。

 

Ⅲ 医療保険改革はこう行われた(昭和59年)

厚生省原案の検討と政府案 

昭和58年8月にまとめられた医療保険改革(健保法改正)の厚生省案は、医療費の増加の抑制と医療保険制度をすべての国民に公平な制度としていくことを目標としていました。

1.保険給付の見直し
(1)被用者保険本人の10割給付の見直し(定率2割負担)
(2)保険の給付から除外
①入院時の給食材料費を保険外として患者負担を導入
②一定のビタミン剤や総合感冒薬・健胃剤を保険対象外とする
③年収2000万円をこえる高額所得者を保険適用から外す
(3)特定療養費制度の創設
2.医療保険制度の再編合理化による負担の公平化
(1)退職者医療制度の創設
(2)国保の国庫補助の合理化
(3)日雇健保の廃止と健保への統合
3.医療費適正化対策の推進

【厚生省原案→Ⅱ-12 医療保険改革の考え方を保険審に示す】

関係団体からの反対が相次ぐなか、自民党は厚生省原案の修正を表明(11月22日)。衆院解散(11月28日)・総選挙(12月18日)を経て12月26日に第2次中曽根内閣が発足(厚相:渡部恒三氏)します。

昭和59年に入り、政府・与党首脳会談、59年度予算案の閣僚折衝により、厚生省原案を次のように修正した健保改正の政府案が1月25日にまとまります。
(1)被保険者本人の給付率8割化は昭和61年度から(それまでは9割)
(2)入院時給食材料費の患者負担とビタミン剤の給付除外、高額所得者の保険適用外は見送り

国会での審議と修正

政府案は、社会保障審議会と社会保障制度審議会への諮問を経て、2月25日、原案どおりに国会に提出され【→Ⅲ-1/Ⅲ-3】、次のような審議経過をたどっています【→Ⅲ-10】。

4月3日:衆院本会議で改正案の提案理由説明
4月12日:衆院社会労働委員会で本格審議はじまる
4月27日:厚生省が「今後の医療政策の基本的方向」を衆院社労委理事会に提出
5月23日:自民党・新自由国民連合が8月8日までの大幅国会延長を強硬採決
6月21日:国会正常化、衆院社労委で審議再開

6月28日:自民党が衆院野党に第一次修正案5項目を示す
(1) 2割負担の実施時期は政府案(昭和61年度)から、「国会の議決承認を受ける日まで」か、「別に法律で定める日まで」に
(2)高額療養費の自己負担限度額の据え置き
(3)小額医療費(5,000円以下)の患者負担定額制(100円)の導入
(4)退職者医療ができる特定健保組合の制度を創設 など

7月3日:自民党が第二次修正案6項目を示す
(1) 2割負担の実施時期は「国会の議決承認を受ける日まで」に
(2)健保家族の外来と国保被保険者の給付率を現行の7割から8割に引き上げ など

7月10日:自民党と日医が健保改正で最終合意/自民党が野党に最終修正案8項目を示す
7月12日:衆院社労委で健保改正案を修正可決
7月13日:衆院本会議で修正健保改正案を可決

7月16日:参院本会議で趣旨説明
7月17日:参院社労委で提案理由説明、本格審議はじまる
8月3日:自民党が参院野党に修正案7項目を示す
(1)高額療養費制度の世帯合算の改善、多数該当の負担軽減など(政令改正)
(2)高額療養費が支給されるまでの間の融資制度の創設
(3)分娩や埋葬料の現金給付の引き上げ など

8月4日:参院社労委が健保改正案を再修正のうえ可決
8月6日:参院本会議が再修正健保改正案を可決、衆院に回付
8月7日:衆院本会議が再修正健保改正案を可決・成立

【改正内容→Ⅲ-9・Ⅲ-13/国会での修正点→Ⅲ-12】

 

Ⅲ 健保改正はこう行われた(昭和59年):旬報バックナンバー

オレンジ色・太字のタイトルをクリック(タップ)すると、その社会保険旬報バックナンバーのPDFファイルが表示されます。

1 59年度予算が決まり健保等改正案を諮問  -吉村保険局長の改正趣旨説明(社会保険審議会) №1456(59.2.1)
P10~P11動向
2 対照的な保険・年金両局長の発言 №1458(59.2.11)
P4座標
3 医療保険改革案の中身と制度運営 -吉村保険局長(全国保険・国民年金課長会議) №1458(59.2.11)
P6~P10レコーダ
4 健保連が退職者医療に修正意見   -組合が引続き管理しうる途を開く №1460(59.3.1)
P20ニュース
5 医療保険の統合が第一歩と日医が健保改正反対の声明、パンフレットも作成 №1467(59.5.11)
P21ニュース
6 医療費増加の基調変わらず   -吉村保険局長が皆保険の基盤強化説く №1467(59.5.11)
P22ニュース
7 健保修正点の“解釈”/ 健保改正“支持”のマスコミ №1472(59.7.1)
P4座標
8 統合・一本化に絶対反対と健保連が健保改正案の衆院通過に見解、一部定額負担導入は遺憾 №1474(59.7.21)
P17ニュース
9 健保法等改正はこう行われる №1476(59.8.11)
P7~P12解説
10 健保改正成立までの主な動き №1476(59.8.11)P15
11 健保法改正の主な推移 №1476(59.8.11)P17
12 現行と改正原案・国会修正の比較 №1476(59.8.11)P21
13 医療費への意識改革が進む  -吉村保険局長が健保法等改正の10月実施で指示・説明(全国保険・国保課長会議) №1478(59.9.1)
P9レコーダ
14 保険改革と医療改革 №1481(59.10.1)
P3視点
15 21世紀へ向かう医療保険  -健康保険制度の改革 №1481(59.10.1)
P14~P18資料

 

吉村仁さんの時代
「医療費亡国論」と昭和59年の医療保険改革    全体構成

解題 「医療費亡国論」を提唱し
医療保険の大改革をなしとげた
吉村仁さんの時代

「社会保険旬報」前編集長  笹川浩一
社会保険旬報No.2687(平成29年9月11日号)
掲載 【一部補正】

 1 「医療費亡国論」の発表まで
【10月25日掲載】
 2 昭和59年改革をめぐる「攻防」
【11月1日掲載】
 3 医療提供体制の改革に向けて
【平成29年11月8日掲載】
足跡・論文・インタビュー 【平成29年9月11日掲載】
 健保改正前夜の動向
(昭和58年)
【平成29年9月19日掲載】
健保改正はこう行われた
(昭和59年)
【平成29年9月27日掲載】
健保改正をめぐる国会審議
(昭和58~59年)
 【平成29年10月4日掲載】
健保改正後の課題
(昭和59年~63年)
【平成29年10月11日掲載】
医業問題研究会論文
(昭和52~55年)
【平成29年11月16日掲載】

アナザーストーリー

幸田次官と国民医療総合対策本部
平成29年11月22日掲載

※平成29年11月25日:一部補正

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