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中野 智紀(なかの・ともき)

私たちが考える本当の「住民主体の地域包括ケア」とは?

「住民主体の地域包括ケア」という言葉をよく耳にするが、地域の現状は必ずしも福祉的ではないし、支え合える場になっているとも限らない。連載最終回で筆者は、医療や福祉の知識と技術を持った専門職の役割を強調する。地域に出向き、住民と対話を重ねることが地域を少しずつ変えることにつながる。そのことは、医療・福祉の新しい可能性を広げるチャンスであると筆者は指摘する。

お寺に保健師が出向いて開催される幸手地区の「暮らしの保健室」

現状の「地域」は、必ずしも福祉的であったり、支え合える場とは限らない

昨今、「住民主体の地域包括ケア」という言葉が独り歩きしている印象がある。“住民主体”という言葉を、“住民でできることは住民”で、という意味に置き換えてしまっている。つまり、自助、互助、共助、公助における「互助」にあたるという理解だ。

人と人とが支え合うには、3つの感情が基盤になっている。すなわち、1)互酬、2)自己利益、3)共感 の3つだ。以下、この3つの支え合いの基盤となる感情について説明したい。

1)互酬
いわゆる“お互いさま”“他人のことを自分のことのように考える”社会を特徴づける感情だ。
かつての農村のように、農業の成果いかんによっては村全体が飢えに苦しむようになってしまう運命共同体においては、住民は、問題を抱えながらも多くを許容されてきており、しがらみが強いし、支え合いの関係は息苦しいものだ。もちろん、終身雇用制度が残っている企業などにも、これに相当する関係があった。

2)自己利益
主にまちづくりなどの過程において、生じやすい感情だ。
“楽しいから集まる”“共通の利益や目的を共有し協力する”といった自己利益型の支え合いは、ある意味、現代では受け入れられやすく、支え合いの基盤となる感情だ。
しかし、こうした種類の感情や支え合いは、地域のどこにでもあるというわけではなく、地域包括ケアにおける住民相互の支えあいの基盤をなすには、やや不十分という印象が否めない。

3)共感
誤解を恐れず述べれば、おおよそ「社会を形成する動物」であれば(ひとでなくとも)、存在する感情であり、地域に普遍的にあるものなので、地域包括ケアにおける支え合いでは、基盤となる感情とも考えられる。
しかしながら、読者も想像されるとおり、“共感による支え合い”は極めて脆弱である。だから共感の感情が生じたとしても、実際の支え合いの行動に至ることは少ない。

以上すべてに共通して言えるのは、生活と支え合いの場である「地域」とは、必ずしも福祉的であったり、支え合える場であるとは限らないということだ。
自分やだれかのためにひとを排除したり、攻撃したり、あるいは放置したりするということも、地域では決して珍しくない。
そもそも、上記のような感情を住民が抱くことによって、地域が支え合えるのであれば、専門職や行政による支援は、とっくに必要のないものになっているはずだ。

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中野智紀医師
中野 智紀(なかの・ともき)
日本糖尿病学会認定指導医・専門医
日本内科学会認定内科医
厚生労働省 在宅医療連携拠点事業 都道府県リーダー研修修了

平成13年 獨協医科大学越谷病院 内分泌代謝・血液・神経内科
平成20年 社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス東埼玉総合病院 代謝内分泌科医員
平成21年 同院 地域糖尿病センター センター長 
平成23年 同院 経営企画室室長
平成24年 同院 地域医療推進部副部長
平成25年 同院 在宅医療連携拠点事業推進室(菜のはな)室長
平成26年 名古屋市立大学看護学部 非常勤講師
平成27年 埼玉県立大学 非常勤講師 
平成29年 埼玉医科大学医学部 非常勤講師

北葛北部医師会 在宅医療・地域包括ケア担当理事
第5回日本プライマリケア連合学会“地域ケアネットワーク優秀賞”受賞
演題名「幸手団地における地域包括ケアシステム(幸手モデル)の構築に関するプロセス研究」
厚生労働省 平成24年度 在宅医療連携拠点事業(東埼玉総合病院にて受託)
厚生労働省 平成25年度 地域医療再生基金在宅医療推進事業(幸手市にて受託)
厚生労働省 平成26年度 科学研究費事業 「地域医療連携の連携診療情報項目の全国的な共通化確立に向けた研究」研究協力員
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