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吉村仁さんの時代【解題】 2 昭和59年改革をめぐる「攻防」

笹川浩一(「社会保険旬報」前編集長)

【解題】「医療費亡国論」を提唱し  医療保険の大改革を成しとげた  吉村仁さんの時代
1 「医療費亡国論」の発表まで【10月25日掲載】
2 昭和59年改革をめぐる「攻防」【11月1日掲載】
3 医療提供体制の改革に向けて【11月8日掲載】
※本論文は、社会保険旬報No.2687(2017年9月11日号)に掲載されたものです(一部補正)。

 

2 昭和59年改革をめぐる「攻防」

 

追い風になった臨調答申と中曽根内閣

ここで臨調の動きにふれておこう。昭和55年7月に発足した鈴木善幸内閣は、行政改革を公約に揚げ、中曽根康弘行管庁長官が臨時行政調査会を設置した。第2臨調といわれるもので、会長には前経団連会長の土光敏夫が就任、57年7月に基本答申をまとめた。

答申は「活力ある福祉社会の実現」を掲げ、老人保健法案の早期実現のほか、年々急増する医療費について、総額を抑制し医療資源の効率的利用をはかることや支払い方式の改善を提言した。

また、「税負担と社会保障負担とを合わせた全体の負担率(対国民所得比)は、現状(35%程度)よりは上昇することにならざるを得ないが、徹底的な制度改革により現在のヨーロッパ諸国の水準(50%前後)よりはかなり低位にとどめることが必要である」と強調した。国民負担率を物差しにしての社会保障費抑制論の登場であり、吉村もしばしばこれを援用した。

→Ⅰ-3 医療費適正化対策に全力-今後の保険行政がめざすもの-厚生省の新保険局長・吉村仁氏にきく №1408(57.10.1)P8~P13移動マイク

臨調答申は、老人保健法だけでなく健保法改正にも強い追い風になった。答申を推進した中曽根が次の首相になる(57年11月)のも、吉村には幸運であった。行革推進派から厚生省は「臨調の優等生」といわれたが、厚生省からみれば「医療保険改革を牽引してくれたのは臨調」であった。

 

健保改正・厚生省案の内容 国民に公平な制度に

厚生省の医療保険改革構想は、臨調の答申から1年あまりたった58年8月にようやくまとまり、59年度の政府予算概算要求に間に合わせた。吉村の保険局長就任から1年がたっていた。

→Ⅰ-5 医療保険がめざすべき方向-厚生省保険局長・吉村仁氏にきく №1439(58.8.11)P15~P21移動マイク
→Ⅱ-12 医療保険改革の考え方を保険審に示す №1443(58.9.21)P6~P9動向

この改正の背景の一つは国民医療費の増大であり、これを中長期的には国民所得の伸び程度にとどめることを最大の目標とした。もう一つは、給付と負担の両面で様々な格差がみられる医療保険制度をすべての国民に公平な制度にすることであった。改正の内容は次のように盛りだくさんである。

1.保険給付の見直し

(1)被用者保険本人の10割給付の見直し
この見直しは健保改正の重要な柱であり、本人の負担を、現行の定額制から、かかった医療費の2割を徴収する定率制にする。定率負担方式の導入により医療費コストの透明性と効率化を期待する。

(2)保険の給付から除外
①入院時の給食材料費を保険の対象から外し、1日600円を患者負担とする。
②一定のビタミン剤や総合感冒薬・健胃剤を保険対象外とする。
③年収2千万円をこえる高額所得者を保険適用から外す。

(3)特定療養費
改正前は保険外対象が入るとその診療は自由診療となり、費用はすべて患者負担となったが、医療技術の出現や患者ニーズの多様化などによって、保険診療と自由診療との調整が必要になった。
特定療養費制度はこうした要請に応えるもので、①大学病院などが行う高度先進医療、②特別の病室などのサービスや患者の選択に委ねる治療材料が含まれる診療について、保険でみることのできる基礎的部分を対象に特定療養費を支給(現物給付)する。

2.医療保険制度の再編合理化による負担の公平化

(1)退職者医療制度の創設
退職サラリーマンの多くは健保から国保へ移行すると給付率が7割に低下するが、退職者医療制度を創設して、退職被保険者には8割給付、家族には入院時8割給付を創設する。その財源は退職被保険者・家族が負担する国保保険料と健保からの拠出金によって賄い(財政調整)、構造的な財政負担の不均衡を是正する。

(2)国保の国庫補助の合理化
退職者医療制度の創設や医療費適正化対策の効果による国保財政の影響をふまえて、国保の国庫補助水準の見直しを行い、医療費ベースで45%であった国庫補助を給付費ベースで50%(医療費ベース換算で39%)とするとともに、給付率のカサ上げを内容とする地方の単独事業を行う保険者は、この事業による医療費の増加部分は国庫補助算定の対象外とする。

(3)日雇健保の廃止と健保への取り込み
日雇健保は単独の制度として維持していくのは極めて困難なので、健保に統合すると同時に、給付と負担の両面で就労の特性に応じて一般の被保険者との均衡をはかる。

3.医療費適正化対策

今回の大改正の重要な前提条件は医療費適正化対策であり、レセプトの審査、指導監査体制の強化と保険医療機関の指定制度の見直しを行う。また、濃厚過剰診療や不正請求を排除するための規定を整備する。

4.その他

傷病手当金と障害年金との支給調整、5人未満事業所への保険適用の拡大などの改正を行う。

以上のような改革で目新しいのは1の(1)、(3)、2、とりわけ1の(1)で、あとはモグラ叩きではないが、今まで何度か頭を出して叩かれ引っ込めたものが多い。しかし、手の内をすべてさらけ出して国民に示し、賛否を問い、国会の判断を待つというのが吉村流のやり方だった。

関係団体からは改正案反対の大合唱がおこった。日医は「健保本人の2割負担は医療費削減の財源を国民に求めるものだ。また、高額所得者を被保険者から除外するのは国民皆保険の原則を破るものだ」と反対を声明。

健保連も「適正な受益者負担は必要だが、一挙に8割給付に引き下げるのは問題がある。また、退職者医療に名をかりて安易な財政調整を行うのは絶対反対」との見解を発表した。総評も「絶対反対」を声明。経済界は「臨調答申に沿っている」として賛成した。

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