2017/12/08掲載
日常生活の環境と健康(奥村圭子)#3
地域で、訪問による栄養指導を行っていると、栄養障害リスクを抱えた人に出会う機会が多くなる。
また、生活困窮者を見ても、その不自由な環境から糖尿病や肥満、高血圧など、生活習慣病に罹患する確率は高くなる。
地域で孤立し、社会的貧困のスパイラルに落ち込む人を把握するような、疾患の重症化予防を目的とした公衆衛生的な支援が必要とされる。

訪問先でよく出会うのは、栄養障害リスクを抱えた人
地域で訪問栄養を行っていると、自立の度合いや疾患の有無に関係なく、栄養障害リスク(低栄養、糖尿病、高血圧など)の高い生活をしている人が多いと感じることがあります。
なぜ多いのか? それは「障がいを抱えて生きている」からではなく、「不可抗力的な、社会的に弱い立場の日常生活(社会の不平等)環境にいる」からではないでしょうか。
たとえば病状は安定していても、施設や病院で暮らす人もいます。あるいは、病気が重くとも、自宅で暮らし続けられる人もいます。その差は何か、を高齢者の在宅栄養支援を通じて、ずっと私は考えてきたような気がします。
WHOは「健康の社会的決定要因(SDH)に関する委員会最終報告書」のなかで、人の健康は、遺伝子や臓器などの生物医学要因や心理的行動だけではなく、日常生活のなかでの教育や所得、職業、人間関係、住居環境、文化などが影響し合って、成り立っていると言います。そして、社会の不平等が大きくなればなるほど、「健康格差」が生まれます。特に、高齢者、子ども、経済的貧困者、障がい者、女性はその立場に陥りやすいと言われます。このような社会の不平等改善のために、次の「行動の三原則」が示されています。
- 日常生活の状況、つまり人々が生まれ、成長し、生活して、働き、老いていく環境を改善する。
- 権限、資金、リソース、つまり日常生活状況を形成する構造的な推進力となるものの不公平な分配に、国際レベル、国家レベル、地域レベルでそれぞれ対処する。
- 問題を測定し、対策を評価し、知識基盤を拡大し、健康の社会的要因についてよく訓練された労働力を開発し、一般の人々の認識を向上させる。
社会の不平等の渦中にいる人は
不自由な環境から生活習慣病リスクが高い
日本ではいま、高齢者だけでなく、子どもの貧困や非正規雇用など、経済的困窮者が増えています。そして、こうした社会の不平等の渦中にいる人の肥満や糖尿病など、生活習慣病との関連性が課題になっています。
生活が困窮した方や自然災害により避難生活を強いられた方などの場合、時々配給される限られた食事や野菜、魚などを買うお金もなく、また調理スペースもありませんので、ついつい簡単にエネルギー補給ができる菓子パンやお菓子などで空腹を満たしがちです。孤食で閉じこもりがちな生活を続けることによって栄養が偏り、運動も不足するので、糖尿病や高血圧、肥満のリスクが高まります。
こういったヘルスリテラシーの欠如だけでなく、生活困窮によって病院に行けないということも大きく関係してきます。疾患の重症化を防ぐためには、保護的配慮を目的とした公衆衛生的な方法による早期発見が求められており、行政や医療関係者と連携した健診や保健指導が必要です。
生活困窮者の健康を守るボランティア活動
NPOささしまサポートセンター
ここで、生活困窮者の健康を守るボランティア活動に取り組んでいる、森亮太医師(医療法人八事の森 杉浦医院院長)と管理栄養士の西澤貴志さんについて、ご紹介したいと思います。
森先生は、NPOささしまサポートセンターの理事長も兼任されています。NPOささしまサポートセンターは、誰もが地域で共に生きられ、居場所をもてるような社会を目ざして活動しています。
1976年に、仕事にあぶれた日雇労働者が国鉄名古屋駅構内で野宿している姿に心を痛めた有志が、おにぎりや味噌汁を配り始めました。1985年には、医療面での支援を強化するため、ボランティアの医師らによって「笹島診療所」が設立されました。この診療所では、ホームレスへの無料診察などを実施しながら、生活保護をはじめとする福祉施策に適切につながるよう、支援活動に取り組んできた歴史があります。毎年、年越し越冬ボランティアも行っています。
さらに、森先生と西澤さんは、月1回、野宿者の健康を支える会で、そういった方々の健康管理をしています。健康管理は、森先生をはじめ歯科医師、歯科衛生士、看護師、管理栄養士で行っており、尿検査、血圧測定、体重測定、口腔機能の検査、問診などにあたっています。

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