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徳田 雄人(とくだ・たけひと)

認知症の人にも優しい仕組みがある社会をめざして

超高齢社会を迎え、これからますます増えると言われている認知症の人……日本国内では現在500万人いると言われている。
以前より、地域で認知症の課題を考える必要性があると言われて久しいが、コミュニティとしてのつながりを失った地域で、果たしてそれが可能なのか? 地域のつながりがなくても機能する社会をつくってきたはずの日本だが、今、そのカタチが揺らいでいる。
ここで新たに「未来の地域のカタチ」を再構築する必要があるのではないか? 認知症の課題を地域に限定せず、社会全体の課題として捉え、「認知症の人にも優しい仕組みがある社会」をつくるにはどうしたらよいかを考えたい。

期待は高まる一方で、機能そのものは低下していく“地域”

認知症の人は、日本国内に500万人。医療や介護の現場においても、認知症の人と関わりがまったくないという方はいないはずです。

また、最近では毎日のように「認知症」という言葉がニュースになっています。認知症の人の行方不明や交通事故、詐欺や横領事件、お店などサービス業におけるトラブル等々・・・ですから、認知症の課題は、特定の専門領域だけで解決できるものではなく、地域ぐるみで解決していく必要があると言われています。そして「地域包括ケア」、「地域共生社会」といった文脈でも、焦点が当たることが多くなってきました。

地域が大事だということは理解されつつも、その一方で、自治会などの加入率は低下しています。都市部では隣に誰が住んでいるかわからない、ということも決してめずらしくありません。

「地域で見守ろう」、「地域ぐるみで考えていきましょう」といった標語が、どこか空々しく聞こえるのも否めない状況です。

医療や介護の専門職の立場からすると、ただでさえやらなければならない業務や習得しないといけない技能が増えていく一方で、つながり自体が失われつつある地域のことにまで関与するのは無理だ、と感じている人も少なくないでしょう。

新たに「地域の未来のカタチ」を構築する

認知症の課題を掘り下げていくと、「地域のあり方が重要になってくる」、そして一方で、「地域のつながりはますます失われつつある」、この2点が明確に浮かび上がってきます。これらは矛盾するようにも思えますが、見方を変えてみるとあながちそうとも言えません。

私たちは、これまで、時間をかけて、地域のつながりがなくても、暮らしていけるような仕組みや社会を作ってきました。しかし、認知症の人や高齢者が増えていく世界では、そうした仕組みがうまく機能しないことが増えていきます。認知症の人や家族が暮らしの中で困っていることを解決するためには、新たな仕組みや、つながりの形を、再度考え直さねばならない時期に来ている。認知症の課題を考えることは、これからの地域の未来のカタチを考えることなのではないかと。

ひとつ例を挙げてみましょう。

ある町の銀行の支店が閉鎖され、ATMコーナーだけが残りました。多くの人にとってはそれほど影響がないことでも、その町に一人暮らしをしている認知症の高齢者の方たちにとっては、大きな影響がありました。今まで窓口ではお金を引き出せていたけれど、ATMだと操作が難しく、お金を引き出すことができなくなってしまった人がいたのです。

ATMの仕様は、詐欺の防止などを防ぐための確認操作などもあり、年々複雑化しています。若い人にとっては、困難を感じない画面操作も、高齢者、とりわけ認知症の人にとっては困難を伴います。結局、その方は、一人暮らしの継続が難しくなり、施設に入居することになりました。

認知症の課題の多くは、「認知機能が低下すること」と「周囲の環境のあり方」との間で起こります。

ATMの問題も、背景には当然、認知症による症状ということがありますが、困難を生み出している直接の原因は、お金を引き出す窓口が、人のいる支店の窓口から複雑な仕様のATMへと変化したことにあります。認知症にまつわり起こっている課題を、医療や介護の対象としてだけ見てしまうと、時に課題の本質を見失うことになります。

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徳田 雄人(とくだ・たけひと)
NPO法人認知症フレンドシップクラブ理事
株式会社スマートエイジング代表取締役
一般社団法人認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ代表

NHK番組ディレクターとして、医療介護に関する番組を制作。
2009年、NHKを退職後、認知症の人にやさしい地域・社会づくりの活動を開始。国内外の認知症の人にやさしい地域の調査やネットワークづくり、自治体や企業などと協働したイベントの運営、商品サービスの開発支援などを行う。
認知症フレンドリー社会を目ざす自治体、企業、NPOなどの有志により、2013年、認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(DFJI)を設立。認知症の人にやさしい社会づくりに向け、セクター横断型のプロジェクトが多数動いている。
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