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角野 孝一(かくの こういち)

自治体における認知症の人にやさしいまちづくり

2015年に国が策定した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では、認知症の人を「病人」としてではなく、生きづらさを抱えた「生活者」として捉え、認知症の人たちにやさしいまちづくりを進めることをうたっている。
これについて、川崎市は自治体として、独自の新たな取り組みをスタートさせている。新プロジェクトに携わった川崎市職員の角野孝一氏に詳細をきいた。

川崎市の図書館に設置された「認知症の人にやさしい小さな本棚」

新オレンジプランを実行するだけでは
認知症の人にやさしいまちづくりは不十分かつ困難である

現在、全国の自治体(47都道府県、約1,700市町村)は、2015年に国が策定した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」に基づいて、認知症施策を推進しています。たとえば、認知症サポーターの養成、認知症初期集中支援チームの設置、かかりつけ医や看護師等への認知症対応力向上研修など、その内容は多岐にわたります。

しかし、新オレンジプランに掲げられた施策を実行するだけでは、おそらく認知症の人にやさしいまちをつくることは不十分ですし、困難です。
これからの時代は、従来の「病気が問題を引き起こすので、予防や治療で問題を減らそうというアプローチ」(医学モデル)から、「認知症に関係する出来事を、認知症に伴う症状を持つ人々と周囲の環境との間で起こる現象としてとらえ、病気に対処するのではなく、地域や社会の側を変えていこうというアプローチ」(社会モデル)へと転換する必要があります。
つまり、認知症の人は「病人」ではなく、生きづらさを抱えた「生活者」と捉えるべきではないでしょうか。

生活者であれば、当然街へ買い物に行きますし、電車やバスにも乗ります。また、仕事やボランティア活動などを通して誰かの役に立ち、感謝されたいと思うかもしれません。
このように考えると、認知症の人にやさしいまちづくりを進めるうえでは、医療・介護・福祉などの専門的支援だけでは不十分です。まち全体やそこに住む市民の意識が変わらなければ、認知症とともに生きる「生活者」が住み慣れた地域で自分らしく暮らすことはできません。

川崎市が自治体として独自に進めている新たな取り組み

そこで川崎市では、認知症の人にやさしいまちづくりを推進するために、次のような取り組みを進めています。

1)認知症の人に優しい図書館
図書館において、認知症に関する情報発信や、認知症の人への絵本・紙芝居の読み聞かせなどを行う。

2)学生による認知症の人の課題解決プロジェクト
日本とオランダの大学(大学院)の学生が、認知症の課題解決策を考え、その社会実装を目指す。

3)認知症の人を主人公にした市のブランディングムービー
認知症のある人もない人も、当たり前のように混ざり合っている未来の社会を映像で表現する。

4)当事者目線にこだわった認知症ケアパス
「認知症の方が、生活機能障害の進行にあわせて、いつ、どこで、どのような医療・介護サービスを受けることができるのか、具体的な機関名やケア内容等をわかりやすく示したもの」である認知症ケアパスを、認知症と診断された人が最初の一歩を踏み出せるようにそっと背中を押すツールとして作成。

しかしながら、これらの取り組みは、決して計画的に企画・立案されたものではありません。たとえばあるものは現場のニーズから自然に立ち上がり、またあるものは市役所内の複数の部署がそれぞれの課題意識や実現したい社会像を持ち寄り立ち上がりました。
ではなぜ川崎市が、高齢者保健福祉計画や介護保険事業計画に位置付けられていなかったこれらのプロジェクトに取り組んだのでしょうか。

自治体職員としては、行政計画に書いてある事業さえきちんと実行すれば、合格点はもらえます。
しかし、現在では、社会も政治も科学も1年経てば情報が古くなる時代です。当然、認知症をめぐる問題や技術や考え方も目まぐるしく変化していきます。そのような時代に、何年も前に作った計画に書かれていることを実行するだけでは、社会のニーズに応えることはできません。
だからこそ、自治体は新たなことにも積極的にチャレンジすることが必要なのです。
このような想いから、川崎市では認知症の人にやさしいまちづくりを進めています。

 

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角野 孝一(かくの こういち)
川崎市健康福祉局地域包括ケア推進室地域リハビリテーション担当係長

2006年、川崎市役所に入庁。障害者福祉分野で相談援助業務や障害福祉計画、障害者相談支援事業などを担当。
2013年から4年間、認知症施策を担当。認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(DFJI)の協力も得ながら、「認知症の人にやさしい図書館プロジェクト」「『認知症の人の社会共生と課題解決』のための学生による国際交流・共同研究プロジェクト」、川崎市ブランディングムービー「COLORS」制作、川崎市版認知症ケアパス「認知症アクションガイドブック」制作などに携わる。
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