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中野 智紀(なかの・ともき)

地域レベルでの伴走型支援と社会資源を活用できるコーディネート機能の強化

埼玉県幸手市と杉戸町では、職域を超えた地域資源の緩やかな集約をはかってきたが、新たな課題、つまり集約されたはずの多様な地域資源が住民に周知されておらず、活用されていないことが明らかになってきた。受け皿は用意されたが、それを使いこなすための伴走型支援とコーディネート力をどう強化するか? 今回はその取り組みの内容について述べたい。

健康や生活に課題を抱える多様な住民が参加する暮らしの保健室

地域資源を均等に社会へ「分散」させる仕組みづくり

前回記述した取り組みを通じて、我々は職域を超えた地域資源の緩やかな「集約」をはかってきた。しかし、こうした取り組みが進めば進むほど、新たな問題が見えてきた。それは、集約されたはずの多様な地域資源が驚くほど住民に周知されておらず、活用されていないといった問題であった。一方、地域側においてもこのように「集約」された地域資源が十分に活用されず、相変わらず救急要請が必要な状態になるまで「医療介護との連携」が遅れる事例が、一向に減らない状況であった。

これらの原因の一つとして、地域レベルでの伴走型支援と、あらゆる資源を活用できるコーディネート機能に乏しいことが考えられた。
平成24年度から、厚労省および埼玉県による在宅医療連携拠点事業に基づき、地域に根ざしたあらゆる相談と集いの場として「暮らしの保健室」の開設を住民とともに推進している。暮らしの保健室は東京都新宿区の戸山ハイツにあるケアーズ白十字訪問看護ステーションの秋山正子氏らが最初に始めた取り組みだ。

現在、住民による開設・運営体制が整備され、2市町圏域内には31ヵ所の暮らしの保健室が住民主体で設置されている。ここでは、年間2,000人を超える健康や生活に課題を抱える多様な住民が参加している。暮らしの保健室では、必要に応じて適切な支援やサービスに結びつけるために、看護師(コミュニティナース)による定期巡回随時対応による多様なコーディネートが行われている。

その本質は「伴走型支援」であり、特に相談がなくとも、定期的な巡回訪問により顔を合わせ、生活の一部を共有していくことで信頼関係や相互理解が進み、より相談しやすい環境が醸成されるものと考えられる。また、暮らしの保健室への参加者同士も自然と互いに向き合うことで、より安心で居心地の良い関係が醸成されていく。

 住民が主催する地域ケア会議を実現させる取り組み

当地域の地域包括ケアシステムの特徴のひとつに、「住民が主催する地域ケア会議」がある。平成24年度、当院に隣接するUR幸手団地(3,021戸)に最初の「健康と暮らし支えあい協議会」が設置された。当協議会は住民が主催し、行政や地域包括支援センター、在宅医療連携拠点、民生委員を含む多様な支援の担い手を招聘する。我々の役割は協議会の活動支援である。暮らしの保健室、地域診断、地域防災、地域リーダー育成、協議会事務局機能の代行など、さまざまな支援プログラムを通じて、住民による主体的な問題解決を育む支援を行っている。現在、4ヵ所において、こうした取り組みが広がっている。

 

住民主催の地域ケア会議。

地域に出ると、気がかりな隣人の暮らしを主体的に見守っている人が実に多いことに驚かされる。そのような善意ある方々が一人で問題を抱え込んでしまわないように、菜のはなでは「みんなのカンファ」を月例開催し、事例検討を行う活動を続けている。このカンファレンスにより、住民の見守りや生活支援などのコーディネート技術は上がってくる。彼らのおかげで地域にどんな生活課題や健康課題を持った人がいるのかも明確になる。支える人も支えられ、さらに、さまざまな情報やスキルを共有して地域の支える力の成長を促していく取り組みと言えるだろう。

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中野智紀医師
中野 智紀(なかの・ともき)
日本糖尿病学会認定指導医・専門医
日本内科学会認定内科医
厚生労働省 在宅医療連携拠点事業 都道府県リーダー研修修了

平成13年 獨協医科大学越谷病院 内分泌代謝・血液・神経内科
平成20年 社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス東埼玉総合病院 代謝内分泌科医員
平成21年 同院 地域糖尿病センター センター長 
平成23年 同院 経営企画室室長
平成24年 同院 地域医療推進部副部長
平成25年 同院 在宅医療連携拠点事業推進室(菜のはな)室長
平成26年 名古屋市立大学看護学部 非常勤講師
平成27年 埼玉県立大学 非常勤講師 
平成29年 埼玉医科大学医学部 非常勤講師

北葛北部医師会 在宅医療・地域包括ケア担当理事
第5回日本プライマリケア連合学会“地域ケアネットワーク優秀賞”受賞
演題名「幸手団地における地域包括ケアシステム(幸手モデル)の構築に関するプロセス研究」
厚生労働省 平成24年度 在宅医療連携拠点事業(東埼玉総合病院にて受託)
厚生労働省 平成25年度 地域医療再生基金在宅医療推進事業(幸手市にて受託)
厚生労働省 平成26年度 科学研究費事業 「地域医療連携の連携診療情報項目の全国的な共通化確立に向けた研究」研究協力員
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