Web医療と介護

奥村 圭子(おくむら・けいこ)

日常生活の環境と健康(奥村圭子)#3

野宿者への健康診断当日のお弁当作りと食支援を通じて
健診参加者の健康状態を把握

ここでの西澤さんの役割は、健康診断の前日にフードバンクから配給される食材を使い、持ち帰り用のお弁当を当日、準備します。西澤さん曰くお弁当のポイントは、ふだん健診参加者は、パンやカップ麺などの糖質を摂取することが多いので、野菜を中心にした薄味のヘルシー弁当にしているとのこと。参加者にはそれぞれ役割があり、ご飯を炊いたり、西澤さんが作ったおかずをお弁当パックに盛り付けていく人もいます。

西澤さんは、お弁当を作りながら、参加者とおしゃべりをします。
「ふだんの食事はちゃんとしている?」とか、「たばこやお酒は飲み過ぎちゃダメだよ」とか、「ふだん運動している?」など……何気ない会話から日常生活が見えてきます。
身体の調子を栄養の側面から確認し、健康的な食生活を送るにはどうすればよいのかを、日常生活のなかでアドバイスしていきます。また、何が食べられるのかといった食事内容を知ることで、口腔内の炎症や機能を予測し、歯科医師に伝えたりもします。
参加者の皆さんに西澤さんの作るご飯の感想をきいたところ、「野菜がたくさんあって、味付けも美味しい」と嬉しそうに答えてくれました。

西澤さんのお弁当を食べることで、選ぶ食材が変わってきた人もいます。
私はここにまだ3回ほどしか参加していませんが、西澤さんの取り組みを参考に、私たち管理栄養士も日常生活に困窮した方が罹患しやすい糖尿病など、生活習慣病の重症化予防を行い、加齢に伴う高齢者の健康寿命を延伸できる食支援、社会的に恵まれない環境にいる子どもたちへの食支援ができないかを考えているところです。
課題は、この活動に予算がついているわけではないこと。あくまでも募金活動に頼っているため、活動の継続性を担保する方法をもっと考える必要があります。

健診当日に出すお弁当の材料をチェックする管理栄養士の西澤さん

生まれた地域や社会などの社会的環境の不公平さが
健康寿命延伸を妨げる現状を改善し、地域共生社会創造へ

日本では現在、「いつまでも住み慣れた地域で暮らせるように」と地域包括システムを推し進めています。
そして、健康寿命の延伸を目的とした地域資源の質の充実を目ざし、医療や介護の支援体制を整えています。しかし、住み慣れた地域のなかで孤立し、社会的貧困のスパイラルに落ち込む人を把握し、疾患の重症化予防を目的とした公衆衛生的な支援ができているとはいえません。

森先生は著書『長寿大国日本と「下流老人」』のなかで、高齢者の貧困や介護離職、医療費の増大による生活困窮の問題が加速する、と予測しています。日本は、高齢化率(全人口の65歳以上の割合)が7.1%(1970年)から27.3%(2016年)と、46年間で世界に類をみないほどのスピードで進んでいます。
誰もが当事者となる可能性はあります。

経済、教育、娯楽、医療、介護など、住む場所や職業、生まれた地域など社会的環境の不公平さが健康寿命の限界を作る原因の一つであるならば、自己責任だけで結論づけず、実践的な地域共生社会をつくれる仲間の1人になりたいと考えます。

 

(次回に続きます。1月12日掲載予定)

 

  • 1
  • 2
著者近影
奥村 圭子(おくむら・けいこ)
杉浦医院地域ケアステーション「はらぺこスパイス」(栄養ケアステーション)室長
管理栄養士
ケアマネジャー

短大で栄養学を修め、食品会社の研究所に10年勤務。患者の血液分析などに携わった後「人と直接会って健康づくりのために役立ちたい」と、管理栄養士に。
病院、特別養護老人ホーム、デイサービス、有料老人ホーム、歯科クリニック、在宅医療、訪問介護の現場を経験し、「将来自分たちが高齢になったときに自分が暮らしたいと思う環境を自分たちでつくり、居場所をしたい」と思うようになり、医療や介護が届きにくい在宅での栄養支援に力を注ぐことを決意。ケアマネジャーの資格を取得する。
2012年より「在宅栄養支援の和・あいち」(現:在宅栄養支援の和)に参加。
2013年4月から名古屋学芸大学大学院(栄養学修士)。
2015年から三重大学大学院医学系研究科にて博士課程で研究。
2016年より杉浦医院地域ケアステーション「はらぺこスパイス」を拠点に在宅栄養支援や訪問栄養士の育成に取り組む。
Web医療と介護