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奥村 圭子(おくむら・けいこ)

栄養パトロールで、健診や受診につながらない高齢者の低栄養改善を(奥村圭子)#4

平成27年度から地域で栄養パトロールを行ってきた筆者は、要介護認定を受けていなかったり、健診や病院を受診しない高齢者が必ずしも健康ではない事実と直面した。
「誰の世話にもなりたくない」とサービスを利用しない人の中にも支援を必要とする人はいる。本人の意志に添いながら、低栄養リスクを改善していくことが重要だ。今回、次回と2つの事例を通して、栄養パトロールの取り組みを紹介する。 ※文中の写真はイメージです。

2つの地域でプライマリーケアの視点で栄養評価を実施

新年あけましておめでとうございます。
今年は、地域包括ケアシステムが動き出します。
私は、平成27年度から地域特性のまったく異なる2つの地域で、厚生労働省の「高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進(モデル事業)事業」に関わっています。いずれも保健センターを拠点とした事業であり、以下がその概要です。

  • 低栄養、筋量低下等による心身機能の低下の予防、生活習慣病等の重症化予防のため、高齢者の特性を踏まえた保健指導等を実施。
  • 後期高齢者医療広域連合において、地域の実情に応じて、地域包括支援センター、保健センター、訪問看護ステーション、薬局等を活用し、課題に応じた専門職(管理栄養士、歯科衛生士、薬剤師、保健師等)が、対応の必要性が高い後期高齢者に対して相談や訪問指導等を実施。

私たちが事業を実施している2つの地域では、これらモデル事業のことを「栄養パトロール」と呼んでいます。
栄養パトロールの対象者は、行政の健康診査(以下、健診)の受診の有無には関係ありません。介護保険の認定を受けておらず、入院などをしていない75歳以上の方が対象で、医療や介護の手が届きにくい人、としています。

私たちはここで、本人の望む暮らしの継続を目的に、プライマリーヘルスケアの視点で栄養評価をしていきます。
低栄養になりそうな食生活、身体の不調などがわかれば、本人にお伝えし、一緒に対策を考えます。さらに、本人だけでは対策が取れない場合は、必要な医療や介護との連携によって支援体制を整えます。

健診や病院に受診しない高齢者すべてが必ずしも元気とはいえない実情がある

高齢者の体重が減ったからといって、食事量や水分量が増加する栄養指導やサプリメントを配布するのが目的ではありません。
あくまでも高齢者の特性をふまえ、食欲低下や抑うつなどによるモチベーション低下を予防し、「本人のプライド」を守ることで、食べる意欲へとつなげ、もう一方で、客観的評価による栄養代謝異常リスクの課題抽出と地域資源と多機関との連携を、過不足なく行います。

栄養パトロール開始当時は、「元気な高齢者に栄養問題はないのではないか」と言われていました。
しかし、3年後の今では「高齢者の低栄養は、本人だけでは何ともならない。健診や病院を受診しない理由には『行けない』理由が存在する。早期に低栄養になりそうな生活環境を把握し、『行けない』高齢者の食の支援を地域で行うことは、医療の観点からも重症化予防にも繋がるのではないか」という印象を持っていただいています。

このような栄養パトロールの実例について、今回と次回でお話ししたいと思います。

今回は、チヨさんの話です。

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著者近影
奥村 圭子(おくむら・けいこ)
杉浦医院地域ケアステーション「はらぺこスパイス」(栄養ケアステーション)室長
管理栄養士
ケアマネジャー

短大で栄養学を修め、食品会社の研究所に10年勤務。患者の血液分析などに携わった後「人と直接会って健康づくりのために役立ちたい」と、管理栄養士に。
病院、特別養護老人ホーム、デイサービス、有料老人ホーム、歯科クリニック、在宅医療、訪問介護の現場を経験し、「将来自分たちが高齢になったときに自分が暮らしたいと思う環境を自分たちでつくり、居場所をしたい」と思うようになり、医療や介護が届きにくい在宅での栄養支援に力を注ぐことを決意。ケアマネジャーの資格を取得する。
2012年より「在宅栄養支援の和・あいち」(現:在宅栄養支援の和)に参加。
2013年4月から名古屋学芸大学大学院(栄養学修士)。
2015年から三重大学大学院医学系研究科にて博士課程で研究。
2016年より杉浦医院地域ケアステーション「はらぺこスパイス」を拠点に在宅栄養支援や訪問栄養士の育成に取り組む。
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