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奥村 圭子(おくむら・けいこ)

栄養パトロールで、健診や受診につながらない高齢者の低栄養改善を(奥村圭子)#4

「まだ一人で頑張れる、知らない人に自分のことは話せない」

栄養パトロールが終了して1年後、チヨさんを再び訪問しました。
チヨさんの手は浮腫み、「痛みはなくならないし、もう、一人で暮らすのは疲れた。お金がないから値段の安い施設に入れてくれないか」と、泣きながら訴えました。
立ち上がり動作も危なく、転倒はしていないものの、台所で5分と立っていられないので、流しやコンロのところに椅子が置いてありました。
体重は1年前に比べ4kgほど低下し、食生活を確認すると3食はかろうじて食べているが、固い物が食べられないためたんぱく質はあまり摂れていない様子でした。

このままでは歩けなくなってしまうと考え、食事を届けてもらったり、介護保険でリハビリが出来るところに行けるようお願いしようか、と伝えました。
今までは、「そんなに弱い人間ではないから」と嫌がっていた地域包括支援センターへの連携も、すんなり了解してもらえました。
私たちは、たとえ本人が「お世話になりたくない」と言っても、栄養パトロール活動報告はしていますので、すぐに地域包括支援センター職員も動いてくれ、チヨさんにお金のことや介護保険申請の説明に行ってくださいました。

ところが、1週間後に地域包括支援センター職員から「『まだ、自分のことは自分でできるから、介護保険も何も必要ない』と断られました。栄養パトロールで引き続き見守っていただけますか」と連絡がありました。
そこで、チヨさんに確認すると「まだ、一人で頑張れる。知らない人に自分のことは話せない」と言われました。そして、今後も定期的に栄養パトロールに来てほしいとお願いをされました。

チヨさんがなぜ介護保険申請を断ったのか、定かではありませんが、恐らく、今までの自由な生活がなくなり、お金もかかってしまう不安。そして何よりも「誰にも迷惑をかけたくない」のではないかと考えています。
それからも、地域の巡回日にはチヨさんのご自宅を訪問して様子を伺い「もしものときはどうする?」と確認しています。
そして、地域の関連機関とも、「もしものとき」はどうするか、いまも話し合いを進めています。

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著者近影
奥村 圭子(おくむら・けいこ)
杉浦医院地域ケアステーション「はらぺこスパイス」(栄養ケアステーション)室長
管理栄養士
ケアマネジャー

短大で栄養学を修め、食品会社の研究所に10年勤務。患者の血液分析などに携わった後「人と直接会って健康づくりのために役立ちたい」と、管理栄養士に。
病院、特別養護老人ホーム、デイサービス、有料老人ホーム、歯科クリニック、在宅医療、訪問介護の現場を経験し、「将来自分たちが高齢になったときに自分が暮らしたいと思う環境を自分たちでつくり、居場所をしたい」と思うようになり、医療や介護が届きにくい在宅での栄養支援に力を注ぐことを決意。ケアマネジャーの資格を取得する。
2012年より「在宅栄養支援の和・あいち」(現:在宅栄養支援の和)に参加。
2013年4月から名古屋学芸大学大学院(栄養学修士)。
2015年から三重大学大学院医学系研究科にて博士課程で研究。
2016年より杉浦医院地域ケアステーション「はらぺこスパイス」を拠点に在宅栄養支援や訪問栄養士の育成に取り組む。
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