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奥村 圭子(おくむら・けいこ)

栄養パトロールで、健診や受診につながらない高齢者の低栄養改善を(奥村圭子)#4

訪問栄養士は市民に馴染みがないのでかえって警戒されず早期介入がしやすい

チヨさんのような人は、地域にたくさんいます。

医療や介護のサービス利用のきっかけは、家族や私たち専門職の意志ではなく、本人の意志によるものです。しかし、意志のある方のなかにも、経済的、あるいは環境的な理由で施設に通えない人もいます。
さらに、保健センターや地域包括支援センターの保健師、職員による訪問は、何か悪い知らせかと不安に思う人が多く、警戒されやすいようです。その点、訪問栄養士は市民に馴染みがないので「元気だからこそ、いま会いに来ました。何食べて元気でいるのか教えてください」と伝えると、不安をもたれにくいことが分かってきました。
行政栄養士に対する市民のイメージは「料理の先生」ですので、自分の悪いところを指摘されないという安心感があって、食をキーワードに世間話が広がり、自分のことを話してくれる人が多くいます。

かつての私の役割は、話すことも動くこともままならなない本人の食生活を、支えることでした。
口から食べられなくなったときにどうするかを答えるのは、いつも本人ではなく、家族、病院や施設の職員、ケアマネジャーなどでした。
私は、「本人の想いが分からない」まま食の支援を経験や知識だけで積み重ねてきました。時に、遺族が、「口から食べさせなかった」という想いを背負って生きる姿も、垣間見てきました。
本人のアイデンティティを崩壊してまで行う支援は、そこにどんなに素晴らしい医療や介護、栄養的技術があったとしても、無力であるという思いをずっと抱えてきました。

だからこそ、チヨさんの例のように、栄養パトロールによって元気なときから出会い、互いに信頼関係を築き合い、虚弱を自覚しながらも自分の意志で医療や介護の保険サービスを使わず、低栄養の次の段階に備えているということは、本人にとっても関わる者としても、とても幸せなことなのではないかと考えています。

次回は、栄養パトロールから介護保険サービスへと繋ぎ、担当していた訪問栄養士がそのまま継続支援をしている正一さんのケースをお話ししたいと思います。

(次回に続きます。2月9日掲載予定)

著者近影
奥村 圭子(おくむら・けいこ)
杉浦医院地域ケアステーション「はらぺこスパイス」(栄養ケアステーション)室長
管理栄養士
ケアマネジャー

短大で栄養学を修め、食品会社の研究所に10年勤務。患者の血液分析などに携わった後「人と直接会って健康づくりのために役立ちたい」と、管理栄養士に。
病院、特別養護老人ホーム、デイサービス、有料老人ホーム、歯科クリニック、在宅医療、訪問介護の現場を経験し、「将来自分たちが高齢になったときに自分が暮らしたいと思う環境を自分たちでつくり、居場所をしたい」と思うようになり、医療や介護が届きにくい在宅での栄養支援に力を注ぐことを決意。ケアマネジャーの資格を取得する。
2012年より「在宅栄養支援の和・あいち」(現:在宅栄養支援の和)に参加。
2013年4月から名古屋学芸大学大学院(栄養学修士)。
2015年から三重大学大学院医学系研究科にて博士課程で研究。
2016年より杉浦医院地域ケアステーション「はらぺこスパイス」を拠点に在宅栄養支援や訪問栄養士の育成に取り組む。
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