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河野 禎之(かわの よしゆき)

「認知症にやさしいまち」を実現するために――地域の取り組みをどう評価するか?

これまでの連載―認知症の課題を地域で考える―では、「認知症にやさしいまち」を目ざしたさまざまな取り組みが紹介されてきました。では、そうした取り組みの先には何があるのでしょう。つまり、何をもってすれば「認知症にやさしいまち」を実現することができた、と言えるのでしょうか。これは、「認知症にやさしいまち」をどのように「評価」するのかという問題とも言えます。

今回より2回にわたり、「認知症にやさしいまち」に関する「評価」について考えます。そして、「認知症にやさしいまち」が誰のためのものであるのか、何のためのものであるのかにまで考えを広げてみます。

なぜ評価が必要なのか

そもそも、なぜ「認知症にやさしいまち」を評価する必要があるのでしょうか。
これにはいくつかの理由がありますが、私が考える最も基本的なところは、「取り組み(介入)の効果を把握するため」です。取り組みがどのような効果をもたらしたのかを把握できなければ、その取り組みに意味があったのか、意味があったとしてもなぜ意味があったのか(取り組みの何が効果的だったのか)、具体的な成果を示すことができません。
その逆も同様で、意味がなかったとしたらなぜ意味がなかったのか(取り組みの何が問題だったのか)、見直しと改善につなげることもできません。

よりマクロな観点、例えば施策評価という点では、取り組みの費用対効果を検証することができず、適切な予算や人材配分の検討ができないといった問題につながります。
よりミクロな観点、例えば取り組みに参加する人の動機づけという点では、自分たち(取り組みに参加する人)は「なんとなく良い」取り組みをしたが、それが具体的にどういう「良い」なのか分からないため次に続かない、あるいは漫然と取り組みを「こなす」ことだけが続いていくといった問題につながります。「何を目的に、どこに向かって自分たちが取り組みを進めているのか迷ってしまう」という状況に陥ってしまうこともあります。

いずれにせよ、取り組みの効果を把握できないということは、取り組みを推進する側にとっても、参加する側にとってもデメリットが多いのは間違いありません。
それでも「認知症にやさしいまち」に取り組む多くの地域が、自分たちなりの経験や感覚を頼りに評価を模索しているのが現状と言えます。

「トップダウン型」と「ボトムアップ型」……評価の2つのアプローチ

「認知症にやさしいまち」を評価する方法は、現状では大きく2つに分けることができると考えられます。それは、「トップダウン型」と「ボトムアップ型」です。

トップダウン型

トップダウン型」は、図1に示したように理論的で、構造化され、標準化された評価手法です。地域をある一定の枠組み(尺度)に照らし合わせて評価する、トップダウン的な要素が強いため、そのように名付けています。例えば、妥当性の担保された質問紙調査や疫学調査等を用いた計量的なアプローチが当てはまります1)。極端な例を挙げれば、「認知症にやさしいまち」を100点満点で一律に評価するものです(実際には「認知症にやさしいまち」の要素を理論的に整理し、さらに要素を出来る限り正確に得点化する作業等が必要です)。

図1 トップダウン型アプローチとボトムアップ型アプローチ

この場合、標準化された評価手法なので地域単位で比較することができます。取り組みの効果を測定するという点でも、取り組みの前後で数量的な比較(統計解析)ができます。より客観的に「認知症にやさしいまち」を評価することができるアプローチと言えるでしょう。しかし、数値で評価されるということは、数値化が難しい、できない側面については評価できません。
特にある取り組みを直接の評価対象とした場合、例えば、認知症サポーター養成講座を例にとると、取り組みの参加人数(例:オレンジリングの取得者数)は評価できても、参加人数を増やすための仕組みの工夫(例:学校へ声掛けして若い世代の参加者を増やす)や取り組みの質を高める工夫(例:認知症の本人を講師として招く)を数値として評価することは困難です。

ボトムアップ型

一方、「ボトムアップ型」は理論的に構造化されてはいませんが、より実践的で現実に基づいた評価手法です。ある一定の枠組みに照らし合わせるというよりも、地域の実状を踏まえて評価を積み上げていく要素が強いため、こう名付けています。

実際、私たちは地域に住む認知症の本人、家族を含むさまざまな立場の人々が自分たちの地域の「認知症にやさしいまちの指標」を作り、評価に活用することを目ざしています。こうした評価方法は、厳密に地域単位で比較することや、取り組みの前後評価を測定することはできませんが、上述したような数値化が難しい側面を評価することが工夫次第で可能です。数値化が難しい情報は、取り組みを見直す、あるいは広げる点からすると、非常に重要です。なぜなら、取り組みのノウハウや留意点といった具体的で有用な情報は、数値以外の情報に含まれることが多いからです。仮にこうした取り組みの具体的な情報がなく、評価された数値だけが取り組みを進める地域に与えられたとしたら、そこから改善策や取り組みを広げるための具体的なヒントを得るには苦労することでしょう。

ボトムアップ型アプローチによる評価の例

数値化が難しい側面を評価するための工夫として、私たちが認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(DFJI)のプロジェクトとして進めてきた「認知症にやさしいまちの指標プロジェクト」を例に示します。ここでは、評価のコアとなる要素を整理したうえで、その要素を5つの段階(レベル1:最初の一歩の状態~レベル5:理想のゴールの状態)で記述するようにしました。
表1は、認知症サポーター養成講座を評価対象にして、「ボトムアップ型」アプローチにより作成した指標の一例です2)
認知症サポーター養成講座の重要な要素として「認知症の本人のプログラムへの関わり方」を設定し、レベル1(最初の一歩)は「(認知症の)本人が関わっていない」段階、次が「本人が参加者として出席する」段階、レベル3は「本人が体験を話す段階」、レベル4が「プログラムの中で何らかの本人の役割がある」段階、最終的なゴールとしたレベル5を「本人がプログラムの企画に参加する」段階としました。このように評価方法を工夫することで、数値化が難しい一方で、ノウハウや留意点として重要な情報を評価することが可能になります。

表1 ボトムアップ型アプローチによる評価の一例(認知症サポーター養成講座)
要素 レベル1 レベル2 レベル3 レベル4 レベル5
認知症の本人のプログラムへの関わり方 本人が関わっていない 本人が参加者として出席する 本人が体験を話す プログラムの中で本人の役割がある 本人がプログラムの企画に参加する

トップダウン型」も「ボトムアップ型」も、どちらかだけでは「認知症にやさしいまち」を評価するには不十分です。「トップダウン型」アプローチでマクロな視点から評価を行いながら、「ボトムアップ型」アプローチで具体的な取り組みを推進していくといった、多角的な視点を持つことが重要です。
「認知症にやさしいまち」はさまざまな要素を含み、かつ複雑な構造を持つものです。
曖昧で抽象的なイメージを共有することはできますが、具体的にイメージしようとすると、それは人によって異なってくるものです。

「評価」は私たちに「認知症にやさしいまち」の姿を示し、具体的な形を与えてくれます。しかし、それは絶対的なものではありません。

次回は、さらに歩を進めて「評価」の具体的な発展例や限界に触れるとともに、「評価」を通じて「認知症にやさしいまち」の未来にはどんな風景があるのかを考えてみたいと思います。


1)代表例として、以下の厚生労働省の研究班による調査事業が挙げられます(厚生労働科学研究費補助金認知症政策研究事業「認知症発生リスクの減少および介護者等の負担軽減を目指したAge-Friendly Citiesの創生に関する研究」平成28年度研究報告書、研究代表者:尾島俊之)

2)表1は町田市で実際に認知症ケアに関わる関係者や一般住民を対象としたワークショップで作成された内容です

 

(次回に続きます・2月23日掲載予定)

 

河野 禎之(かわの よしゆき)
筑波大学ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター助教/臨床心理士。研究領域は認知症の認知機能障害や行動・心理症状、QOLのアセスメント、非薬物的アプローチの開発・実践と効果測定、認知症の人と家族のソーシャル・インクルージョン、認知症フレンドリー・コミュニティの評価等にまたがる。近年では、ダイバーシティの観点から従来の認知症ケアの概念を拡張させ、さまざまな属性の人々の存在が尊重される「多様性社会」の実現に向けた新たな研究領域(ダイバーシティ・サイエンス)としての再定義を試みている。

認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(Dementia Friendly Japan Initiative)、世界認知症若手専門家グループ(World Young Leaders in Dementia)の一員。平成23年度日本老年精神医学会奨励賞、平成28年度日本認知症ケア学会石崎賞を受賞、平成29年度筑波大学BEST FACULTY MEMBER 2017を受賞。
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