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奥村 圭子(おくむら・けいこ)

一人ひとりの栄養課題を明らかにして、地域全体のフレイルを防ぐ(奥村圭子)#5

栄養状態を探ることで、本人の生活機能、疾病リスクが浮かび上がる

これらの正一さんの栄養状態から、毎日畑に行ったり、買い物や調理をすることが難しいのではないか、と予測されました。さらに、咀嚼や飲み込みの機能低下、転倒リスク、また歯周病や心臓の状態が悪くないか、皮膚の状態や口腔乾燥から脱水のリスク、入浴が出来ているのか、パンは食べにくいのではないか、火を通すと固くなるたんぱく質など食べにくく、脱水もある場合は便秘になっていないかなど、対話からひととおりの栄養状態を探っていました。

さらに対話を続けていくと、転倒が頻回にあること、最近は息切れがひどいこと、義歯が合わず固いものが食べにくいこと、トイレにはあまり行かないこと、私と話しているうちに息切れがあること、生活圏内でも道に迷ってしまう可能性などがわかりました。

そこで私は、低栄養や脱水、腎機能の低下などを疑い、次回は地域包括支援センターの職員さんと来てもよいかを正一さんに確認し、約束して帰りました。
事務局へ戻って、地域包括支援センターの職員(以下、包括)に正一さんの栄養状態や生活状況、転倒回数などから介護の必要性があるのではないかといったことを伝えました。そして、ご家族から何らかの情報が入っていないかを確認しました。

医療・介護を拒否する人も栄養パトロールなら受け入れ受診につながる

すると、家族からは、何度も家に帰れなくなり心配で相談を受けていたことがわかり、包括から訪問をしたが、医療や介護サービスなんていらないと何度も拒否をされたことがわかりました。
その後、地域包括支援センター職員からご家族に連絡をしていただき、介護保険の話が目的ではなく、栄養パトロールの結果を正一さんとご家族、地域包括支援センター職員と聞くという目的でご自宅に行くことを、許していただきました。

初回訪問から1週間後、ご家族や地域包括支援センター職員と再度、正一さん宅を訪問しました。結果を説明しながら畑仕事を今後も続けてほしいので一度病院へ行ってみないか、と伝えたところ、身体に不調があって心当たりがあると、受診勧奨を受け入れてくださりました。
受診後、血糖値が高く腎機能や心臓も弱っているので、このままでは透析の危険性もあったことがわかりました。もう少しで入院しなければならなかったかもしれず、医師からも自宅で1人暮らし続けるためには、期間限定でもよいのでリハビリや食事の管理ができるように介護保険を申請することを勧められ、了解されました。

私たちは、医師からの指示で介護保険での訪問栄養(居宅療養管理指導)に切り替わり、低栄養や腎機能低下の重症化予防、血糖値コントロールで引き続き支援しています。
初めて訪問してから10ヵ月以上経ったいま、正一さんはご家族や多職種の見守りのなかで配食サービスやデイケアのリハビリを使いながら、入院や新たな病気が発生することもなく栄養状態も安定して、今までどおりのんびりと1人で暮らしています。

断られても、一度伸ばした手は絶対引っ込めず、根気よくサポート

「栄養パトロール」の対象者は、いままで行政の手が届いていない高齢者が多く、お約束していない日程に訪問しても拒否される心配があって、行政も一歩が踏み出せなかったようです。

しかし、実際行ってみると、突然の訪問で相手から拒否されることはほとんどありません。やはり、市民の行政への期待は高いのだな、と実感しています。

私たちは通常、栄養評価に必要な道具(体重計、握力計、自動血圧計、ふくらはぎを測るメジャー、身長を測るメジャー、問診記録用紙)を持ち、訪問して栄養評価を行いますが、なかには、重症化してすでにベッドの上で動けない方、転倒を頻回している方、認知機能が低下して食べているかわからない独居の方などもいらっしゃいます。そんなふうに動けなくとも、問題が起きているとは気づいていない「無自覚」な人が多く、私たちの言葉を受け入れることができずに拒否する人もいます。しかし、一度伸ばした手は絶対に引っ込めず、根気よくおつきあいさせていただきたいと思っています。

今回の正一さんのケースは、地域在住高齢者にとっては他人ごとではありません。
このような個人の課題を集約することで、地域社会の課題を同時にとらえることができるからです。
これからも、「一人ひとりの栄養課題を通して地域全体のフレイルを支援していく」そんなつもりで、栄養パトロールを続けていきたいと思っています。

 

(次回に続きます。3月9日掲載予定)

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著者近影
奥村 圭子(おくむら・けいこ)
杉浦医院地域ケアステーション「はらぺこスパイス」(栄養ケアステーション)室長
管理栄養士
ケアマネジャー

短大で栄養学を修め、食品会社の研究所に10年勤務。患者の血液分析などに携わった後「人と直接会って健康づくりのために役立ちたい」と、管理栄養士に。
病院、特別養護老人ホーム、デイサービス、有料老人ホーム、歯科クリニック、在宅医療、訪問介護の現場を経験し、「将来自分たちが高齢になったときに自分が暮らしたいと思う環境を自分たちでつくり、居場所をしたい」と思うようになり、医療や介護が届きにくい在宅での栄養支援に力を注ぐことを決意。ケアマネジャーの資格を取得する。
2012年より「在宅栄養支援の和・あいち」(現:在宅栄養支援の和)に参加。
2013年4月から名古屋学芸大学大学院(栄養学修士)。
2015年から三重大学大学院医学系研究科にて博士課程で研究。
2016年より杉浦医院地域ケアステーション「はらぺこスパイス」を拠点に在宅栄養支援や訪問栄養士の育成に取り組む。
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