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河野 禎之(かわの よしゆき)

「認知症にやさしいまち」を実現するために――未来にどんな風景があるのか?

前回は、「認知症にやさしいまち」の「評価」がなぜ必要なのか、どのようなアプローチがあるのかについて取り上げました。特に、取り組み(介入)の効果を把握するために評価が必要であること、評価する方法として「トップダウン型」と「ボトムアップ型」の2つのアプローチがあること等を紹介しました。
「認知症の課題を地域で考える」シリーズ最終回となる今回は、ボトムアップ型アプローチの発展例として、筆者も協力している町田市の取り組みを最初に紹介し、取り組みを通じて得られた示唆を整理してみます。そして、そこから「認知症にやさしいまち」が誰のためのものなのか、何のためのものなのか、「認知症にやさしいまち」の先にある未来の風景について考えを広げます。

町田市の取り組み(1)個別の事業や活動の評価から

町田市は平成28年より、私を含めた専門家やNPOの協力のもと、ボトムアップ型アプローチを取り入れ、市内で実施されている個別の事業や活動の評価を開始しました。

最初に取り組んだのは「認知症カフェ」の評価です。
町田市は、市内に複数の認知症カフェが立ち上がることに成功した一方で、それらのカフェを横につなげるにはどうすればよいか、お互いに情報や目標を共有し、一体感を生み出すにはどうしたらよいかを模索していました。そこで、市内で認知症カフェの運営に関わっている人を中心に、一般にも公開する形で「町田市の認知症カフェの評価指標をつくる」というワークショップを実施しました(平成28年1月)。

ボトムアップ型アプローチとして前回紹介したように、評価のコアとなる要素を整理したうえで、その要素を5つの段階(レベル1:最初の一歩の状態~レベル5:理想のゴールの状態)で記述する、という方法をグループに分かれて議論しながら進めたのです。同じようにして、「認知症サポーター養成講座」についてもワークショップを実施しました(平成28年3月)。

表1は上記のワークショップのうち、「認知症カフェ」で作成された評価指標の一部です(「認知症サポーター養成講座」の例は前回紹介しました)。重要な要素として、「認知症の本人にとっての場の意味」を設定し、レベル1(最初の一歩)は「(認知症の本人が)行きたくない場所」、レベル2が「しぶしぶ連れて来られる場所」、レベル3は「定期的に来られる場所」、レベル4が「友人を連れて来られる場所」、最終的なゴールとしたレベル5では「(本人だけではなく)誰もが参加でき、来てよかったと思える場所」を目ざそうということになりました。

 

表1 町田市で作成されたボトムアップ型アプローチによる認知症カフェの評価指標の一例
要素 レベル1 レベル2 レベル3 レベル4 レベル5
認知症の本人にとっての場の意味 行きたくない場所 しぶしぶ連れて来られる場所 定期的に来られる場所 友人を連れて来られる場所 誰もが参加でき、来てよかったと思える場所

 

ワークショップではこの評価指標をもとに、現在の自分たちの取り組みはどの段階であるのかを話し合い、さらに次の段階に進むにはどうすればよいのか、活発な意見が交わされました。その後もフォローアップのワークショップが開催され(平成29年7月)、この間に段階に変化はあったのか(なかったのか)、その変化はなぜ生まれたのか(生まれなかったのか)を評価し、その議論の中でさまざまな課題や解決法のアイデアが共有されました。

町田市の取り組み(2)市の施策ビジョンとしての評価へ

ワークショップを通して町田市や関係者との話し合いを重ねるなかで、個別の事業や活動だけではなく、市全体として目ざす「認知症にやさしいまち」の評価をボトムアップ型アプローチで実現できないか、という議論になりました。そこで、参加者1人ひとりが認知症の人(あるいはこれから認知症になりうる人)の視点に立ち、「町田市がこうあったらいい」という状態を話し合う住民参加型の公開ワークショップを実施しました(平成28年9月)。

具体的には、先進事例として主に英国の事例をもとに1)、主語が「私」から始まる文章をもとに、理想とする「認知症にやさしいまち」の状態像を表現するグループワークを行いました。そのなかで、参加者は自分たちの町がどうであれば認知症の人も住みやすいのか、自分が認知症になったとしてもどうしたら安心して住み続けられるのかを議論しました。

その後、専門家によるレビューを数回行った後、再び住民参加型の公開ワークショップを開催し(平成29年1月)、最終的に図1の「認知症の人にやさしいまち まちだビジョン」を策定・公表するに至りました2)。現在では、この16のメッセージをもとに、町田市の個々の認知症に関する事業や活動をあらためて評価し、取り組みを拡大させていく動きへとつながっています。

図1 認知症の人にやさしいまち まちだビジョン

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河野 禎之(かわの よしゆき)
筑波大学ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター助教/臨床心理士。研究領域は認知症の認知機能障害や行動・心理症状、QOLのアセスメント、非薬物的アプローチの開発・実践と効果測定、認知症の人と家族のソーシャル・インクルージョン、認知症フレンドリー・コミュニティの評価等にまたがる。近年では、ダイバーシティの観点から従来の認知症ケアの概念を拡張させ、さまざまな属性の人々の存在が尊重される「多様性社会」の実現に向けた新たな研究領域(ダイバーシティ・サイエンス)としての再定義を試みている。

認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(Dementia Friendly Japan Initiative)、世界認知症若手専門家グループ(World Young Leaders in Dementia)の一員。平成23年度日本老年精神医学会奨励賞、平成28年度日本認知症ケア学会石崎賞を受賞、平成29年度筑波大学BEST FACULTY MEMBER 2017を受賞。
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