Web医療と介護

神田 裕二(かんだ・ゆうじ)

第3回 本人の意思を尊重した人生最終段階の医療・ケア

本人の価値観が尊重され、最期まで望む人生を全うできる環境を

話し合いの結果よりも、繰り返し話し合うプロセスの大切さ

平成20年当時、後期高齢者医療制度において、終末期相談支援料が導入され、「高齢者に死ねというのか」という厳しい批判を浴び、3か月で凍結されたという経験に照らすと、今回の円滑な導入は隔世の感がある。

ただ、当時も、意識調査では国民の約8割は終末期の治療方針について話し合いたいとしており、国民の意識が激変したとは言いがたい。
今回と当時の違いを考えてみると、次のような点があげられる。

①高齢者医療制度では、終末期の治療方針を話し合い、文書にまとめること自体が「終末期相談支援料」という独立した算定項目になっていたことが、そのネーミングとともに「国民に誤解と不安を与えた」が、今回の改定では、入院料やターミナルケア加算等の要件の一つであり、独立した算定項目にはなっていないこと

②報酬の算定要件の基となるガイドラインが、話し合いの結果より、繰り返し話し合うというプロセスに焦点を当てたACPをベースにしていること

③当時、衆参で与野党ねじれの状況にあり、高齢者医療制度自体、また、高齢者という年齢に着目した診療報酬自体が政治問題化し、厳しい批判に晒されていたこと

 

丁寧な話し合いの重要さを物語る特養での看取りへの高評価

聖路加国際大学の池上直己教授が、病院内で死亡した要介護者の遺族の方が、特別養護老人ホーム(以下「特養」という)で死亡した者の遺族と比べ、医師の説明が不十分、本人の意思を尊重していなかったという割合が高く、特養の看取りの方が高く評価されているという調査結果を発表しておられる。
これは、QOD(Quality Of Death:死に向かう医療の質)にとって、医療の関与もさることながら、丁寧に話し合いをすることがいかに重要であるかを物語っていると思う。

→参考5:遺族による評価の比較【上図PDF版】

今回の改定を機に、ACPの手法が人生最終段階の医療・ケアに関する意思決定支援のスタンダードとして普及し、患者本人の価値観が尊重され、最期まで本人が望む人生を全うできる環境がわが国でも広く整備されることを期待している。

そのためには、専門職に対する研修の他、人生の最終段階の医療・ケアについて自ら意思決定することやその支援の重要性を理解してもらえるよう、国民に対する普及啓発も重要である。更に、本人の意思に反して救急搬送、延命治療が行われることがないよう、在宅患者本人の意思がかかりつけ医・救急隊員・救急医療機関の間で共有される仕組みづくりも、先進地域を参考に各地域で整備していく必要がある。

神田 裕二(かんだ・ゆうじ)
県立広島大学大学院経営管理研究科特任教授
兵庫県立大学経営研究科客員教授
---
昭和57年厚生省入省。老人福祉課、広島市高齢者福祉課長・社会課長、保険局医療課を経て、平成8年の法案提出から平成12年の施行まで介護保険制度の立ち上げに携わる。
平成18年から保険局国民健康保険課長と高齢者医療制度施行準備室長を兼務し、平成20年の高齢者医療制度の施行に携わる。
その後、保険局総務課長、内閣官房審議官(経済財政運営担当)、大臣官房審議官(医政、医療・介護連携担当)、医薬食品局長を経て、平成27年10月医政局長。平成29年7月厚生労働省退職。
Web医療と介護