Web医療と介護

神田 裕二(かんだ・ゆうじ)

第4回 市町村は自ら在宅医療の目標を

都道府県の医療計画と市町村の介護保険事業計画の整合性を図るため、医療介護総合確保推進法に基づいて総合確保指針が定められることになった。30万人の在宅医療等の追加需要を見込んで、介護サービスと在宅医療の整備目標のすり合わせがポイントとなるが、都道府県と市町村の協議はまだまだ十分とはいえない。
在宅医療は、地域包括ケアにとって欠くべからざる要素だ。一方、都道府県が日常生活圏域の在宅医療をプラニングするのは現実的ではない。そこで神田氏は、市町村の介護保険事業計画に在宅医療の整備目標を記載することを提案する。あわせて、医療政策の経験の少ない市町村に対し、都道府県や郡市区医師会、地元の大学などが専門性をもって支援することも検討する必要があると述べている。

医療計画と介護保険事業計画の整合性

 両計画について整備目標にまで踏み込んだ実質的な整合性を図る段階に

平成26年の医療介護総合確保推進法により、6年ごとに医療計画と介護保険事業計画が同時に策定されることとなり、また、両方の計画を整合的なものにするため両方の計画の基本方針をブリッジする総合確保方針(正式には「地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針」)が策定されることとなった。


参考1:地域における医療及び介護を総合的に確保するための仕組み【→上図・PDF版】

最初の総合確保方針は平成26年9月に定められたが、その時点では既に第6期の介護保険事業計画の基本方針はできあがっており、両方の計画の整備目標の整合性にまでは実質的には踏み込めなかった。

その意味では、平成30年度から始まった第7期の医療計画と介護保険事業計画の昨年度の策定過程こそが、総合確保方針に基づき初めて両方の計画について整備目標にまで踏み込んで実質的な整合性を図ったものと評価できる。

 

新しい総合確保方針では、策定過程での都道府県と市町村の協議と追加的なサービス需要への対応を求める

改定された総合確保方針では、①両方の計画の策定過程で、都道府県や市町村の医療・介護担当者等の関係者による協議の場を設けること、②地域医療構想で療養病床の入院受療率の地域差の解消等を織り込んでいることから、これに伴い生じる在宅医療等(居宅以外に特別養護老人ホーム、老人保健施設や居住系施設等、医療機関の病床以外のものを広く含む)の追加的なサービス需要に関して、介護保険事業計画の介護と医療計画の在宅医療の整備目標とを整合的なものとするとされた。

■地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針〔抜粋〕(平成26年9月12日告示/平成28年12月26日一部改正)

二 都道府県計画、医療計画及び都道府県介護保険事業支援計画の整合性の確保等

(前略)また、医療計画、市町村介護保険事業計画及び都道府県介護保険事業支援計画については、平成30年度以降、計画作成・見直しのサイクルが一致することとなるが、これらの計画の整合性を確保するためには、当該年度を見据えつつ、それぞれの計画において、医療及び介護の連携を強化するための以下の取組を推進していくことが重要である。

 計画の一体的な作成体制の整備

医療計画、市町村介護保険事業計画及び都道府県介護保険事業支援計画を一体的に作成し、これらの計画の整合性を確保することができるよう、都道府県や市町村における計画作成において、関係者による協議の場を設置し、より緊密な連携が図られるような体制整備を図っていくことが重要である。

 計画の作成区域の整合性の確保

医療・介護サービスの一体的な整備を行う観点から、医療計画で定める二次医療圏と、都道府県介護保険事業支援計画で定める老人福祉圏域を、可能な限り一致させるよう、平成30年度からの計画期間に向けて、努める必要がある。 (後略)

 基礎データ、サービス必要量等の推計における整合性の確保

医療及び介護の連携を推進するためには、計画作成の際に用いる人口推計等の基礎データや、退院後に介護施設等を利用する者、退院後又は介護施設等の退所後に在宅医療・介護を利用する者の数等の推計について、整合性を確保する必要がある。特に、病床の機能分化・連携に伴い生じる、在宅医療等の新たなサービス必要量に関する整合性の確保が重要である。市町村が市町村介護保険事業計画において掲げる介護の整備目標と、都道府県が医療計画において掲げる在宅医療の整備目標とを整合的なものとし、医療・介護の提供体制を整備していく必要がある。

全国では、2025年に向けて、約30万人の在宅医療等の追加需要が生ずるが、昨年8月には、これに対応した在宅医療・介護や介護施設等の整備目標の見込み方が示された。

具体的には、①療養病床から介護保険施設への転換については、介護療養病床は6年間で全て介護医療院等に転換し、医療療養病床については転換意向調査を踏まえて転換分を見込むこと、②介護医療院等への転換以外の需要については、患者調査等を参考にしつつ、在宅医療・介護と介護保険施設で按分することといった考え方が示された。


参考2:2025年に向けた在宅医療の体制構築について【→上図・PDF版】

 


参考3:在宅医療等の新たなサービス必要量の考え方について【→上図・PDF版】

 


参考4:療養病棟から介護医療院等へ転換する見込み量の把握【→上図・PDF版】

 

第7期医療計画では、在宅医療の機能ごとの目標や主要な職種による在宅医療の目標の記載を求める

そもそも、これまで医療計画の在宅医療に係る指針では、在宅医療で積極的役割を担う医療機関や連携拠点、また、退院支援・日常の生活支援・急変時の対応・看取りといった各機能(以下「在宅医療の機能」という。)を担う医療機関の名称を記載することや数値目標の設定をすることを求めてきた。


参考5:在宅医療の体制について【→上図・PDF版】

しかし、これまでの医療計画は、具体的な記述に欠け、また、数値目標も在宅療養支援診療所に関するものが大半で、在宅医療の機能ごとの指標が少ない等の問題があったことから、今回の指針では、機能ごとの目標や訪問看護・訪問歯科診療・訪問薬剤管理指導といった主要な職種の在宅医療の目標を可能な限り記載してもらうこととした。


参考6:第7次医療計画における「在宅医療」追加見直しのポイント【→上図・PDF版】

計画の策定プロセスでの都道府県・市町村との協議の状況や、具体的な在宅医療・介護サービスや介護保険施設の目標が整合的に設定されたどうかは、今後、十分検証される必要があるが、先般、検討会に出された資料を見ると、追加需要について十分なサービス量を見込んでいない都道府県も散見される。


参考7:第7次医療計画における在宅医療の4機能に関する目標設定の状況【→上図・PDF版】

また、筆者が、市町村の介護保険の担当者から聞いた範囲では、都道府県から提示された追加需要の割り当てをそのまま介護保険事業計画に上積みしているだけで、まだまだ協議というレベルに至っていないように感じられる。
今回は初回で時間もなくやむをえない面もあったが、今後、3年後の中間見直しに向け、実質的な協議が行われるよう改善が求められる。


参考8:総合確保方針に基づく協議の場の開催状況【→上図・PDF版】

 

市町村による在宅医療の計画策定

地域包括ケア研究会報告では、将来的な市町村による在宅医療の計画策定の必要性を指摘

平成29年3月の地域包括ケア研究会の報告書(以下「報告」という)では、市町村は医療政策を担当した経験もなく、また、政令市等を除く多くの市町村では在宅医療の担当部署も決まっていないこと、しかし、地域包括ケアは、日常生活圏域で医療・介護・日常生活支援等の必要なサービスが提供される体制を整備することであり、都道府県が日常生活圏域での在宅医療の整備をプラニングするのは現実的ではないことを指摘している。

その上で、報告では、先進的に東京都稲城市や武蔵野市が市独自の在宅医療の計画を策定しているが、「将来的には」市町村が在宅医療の計画の策定することは欠かせないものになるだろうとしている。

■2040年に向けた挑戦 地域包括ケア研究会 報告書(2017年3月)

行政における在宅医療・介護連携推進事業のあり方
◆在宅医療政策における責任の所在の明確化

・地域における医療政策は、広域的な観点から基本的に都道府県が担ってきており、市町村立病院の整備・運営や学校保健などを除けば、市町村が主体的に地域の医療政策を主導した経験はほとんどない他方で、日常生活圏域をひとつの単位とした地域包括ケアシステムの議論では、都道府県による各地域レベルでの診療所の機能や連携体制の検討・計画立案は現実的ではない。市町村において在宅医療・介護連携の具体的な取組を議論するためには、その担当部局についても、市町村は早急に定めていく必要があるだろう。

・「住み慣れた地域における生活の継続」が地域包括ケアシステムの目標として設定され、在宅医療もまたこの目標を共有する以上、地域包括ケア・介護保険事業計画を所掌する部局と連携・協働可能な部局が在宅医療について担当するのが妥当である。

そのためには、・・・市町村にとって新しい業務となるため、国・都道府県からの適切な技術的支援が欠かせない。

◆市町村による在宅医療の整備方針の検討

・多職種連携の推進にあたって、市町村における在宅医療及び介護の整備に係る計画等の策定は、将来的に欠かせないものになるだろう。すでに、東京都稲城市や武蔵野市が市独自の在宅医療の整備に係る計画の策定を行っており、介護保険事業計画とは別建ての計画として位置づけられている。ただし、第六期計画期間より、介護保険事業計画は「地域包括ケア計画」と位置付けられている点から考えれば、こうした在宅医療の整備に係わる計画は、既存の介護保険事業計画の中に包摂されるのが適当であるため、両計画の整合性を確保する必要があるだろう。

・実際に、計画を立案するにあたっては、地域内の医療機関及び医師等の関心を高め、十分な時間をかけて計画を立案する必要があり、そのためには、地域の現状の把握と目標の設定に加え、規範的統合(目標の共有)への相当の時間の投入が必要になるだろう。これまでの介護保険事業計画のように、国が計画のフォーマットを示して市町村が計画を立案するといった方法では、地域の医療関係者の理解を得るのは困難だろう。

 

市町村が医療・介護連携推進事業で培った医療に関するノウハウと「当事者意識」を活かすことが必要

医療介護総合確保推進法で、医療・介護連携推進事業が地域支援事業に位置づけられ、平成30年4月には全ての市町村で実施することとされた。
その過程でも、ノウハウがない、人材がいない、医師会とどう連携していいかわからない等が、市町村で実施が難しい理由として挙げられていた。


参考9:在宅医療・介護連携推進事業【→上図・PDF版】

 


参考10:在宅医療・介護連携推進事業の実施する中での課題【→上図・PDF版】

しかし、医療・介護連携推進事業のうち、在宅医療・介護連携に関する相談支援や切れ目のない在宅医療・介護の提供体制の構築等では、医師会に委託するところも多くみられ、事業の実施過程自体が医師会等医療関係者と対話をし、医療に関するノウハウを学ぶ機会となっていると思われる。


参考11:在宅医療・介護連携推進事業の委託状況【→上図・PDF版】

医療計画の在宅医療に係る指針では、在宅医療の圏域を、二次医療圏にこだわらず、市町村単位や保健所圏域等、地域の医療・介護資源の実情に応じて弾力的に設定することを求めてきたが、ほとんど都道府県で地域医療構想区域となっている。
「弾力的」な圏域設定という曖昧さが、市町村の在宅医療に関する当事者意識を殺いできた面も否定できないのではないか。


参考12:都道府県の在宅医療圏設定状況【→上図・PDF版】

 

在宅医療の圏域は原則「市町村」とし、整備目標は介護保険事業計画に記載を

以上を総括すれば、将来と言わず、できるだけ早い時期に、在宅医療の圏域については、(市町村内に在宅医療の資源がない等特段の事情がある場合には都道府県の調整による複数市町村による圏域設定も可能という例外を認めてもよいと考えられるが)原則市町村とするとともに、市町村が介護保険事業計画に(法制的には医療計画に位置付けるべきかどうか検討が必要であるが)、在宅医療の整備目標を記載することとすべきではないだろうか。

その理由を要約すれば、次のようなことである。

(1)そもそも、在宅医療は日常生活圏域での地域包括ケアにとって欠くべからざる要素であること。ちなみに、診療報酬上も、訪問診療・往診は緊急時の対応等を考えれば患家に近い方が望ましいことから原則として16km以内とされている。

(2)既に、市町村は、介護保険事業計画において、訪問看護や、居宅療養管理指導として、医師・歯科医師の訪問診療や往診をベースにした情報提供・指導助言、訪問薬剤管理指導、訪問歯科衛生指導等のサービス量の見込みを立てていること。

(3)医療・介護連携推進事業の実施を通じて、市町村も医療に関するノウハウや関係機関との協力関係を築きつつあること。

ただし、市町村のノウハウ不足を補うための方策として、①医療・介護等の分野で一定の専門性を育むという市町村職員の人事や研修の在り方、②都道府県の支援はもちろん、郡市区医師会が積極的に関わり、市町村と協力して政策立案する体制を整備すること、③地元の大学やシンクタンク等が専門性をもって市町村を支援すること等を、併せて検討することが必要であろう。

神田 裕二(かんだ・ゆうじ)
県立広島大学大学院経営管理研究科特任教授
兵庫県立大学経営研究科客員教授
---
昭和57年厚生省入省。老人福祉課、広島市高齢者福祉課長・社会課長、保険局医療課を経て、平成8年の法案提出から平成12年の施行まで介護保険制度の立ち上げに携わる。
平成18年から保険局国民健康保険課長と高齢者医療制度施行準備室長を兼務し、平成20年の高齢者医療制度の施行に携わる。
その後、保険局総務課長、内閣官房審議官(経済財政運営担当)、大臣官房審議官(医政、医療・介護連携担当)、医薬食品局長を経て、平成27年10月医政局長。平成29年7月厚生労働省退職。
Web医療と介護