Web医療と介護

神田 裕二(かんだ・ゆうじ)

第5回 地域包括ケアを支える保険の在り方を考える

社会保障制度改革国民会議の報告が示すように、『医療から介護へ』『病院・施設から地域・在宅へ』という政策を進めると、それをファイナンスする仕組みとの間でねじれが生じる。療養病床を減らし、その入院患者を在宅や介護施設で受け止めると、後期高齢者医療の保険料軽減として還元されない一方で、市町村の介護保険料が上昇してしまうからだ。
そこで、神田氏は解決策として、①介護保険と後期高齢者医療制度を統合し「地域包括ケア保険」とする、②後期高齢者医療制度を市町村別の保険料とする-という2つの方法を提案。そのメリット・デメリットを論じる中で、社会保険における保険者機能とは何かを問いかけています。

「医療から介護へ」という政策とファイナンスに生じているねじれ

地域包括ケアを総合的にプラニングできるのは市町村

前回、地域包括ケアの欠くべからざる要素である在宅医療について、市町村が介護保険事業計画で整備目標を記載すべきである旨述べた。

その背景は、社会保障制度改革国民会議の報告書にもあるとおり、「『医療から介護へ』、『病院・施設から地域・在宅へ』という政策を進めるためには、・・・川上に位置する病床の機能分化という政策の展開は、退院患者の受入れ体制の整備という川下の政策と同時に行われるべき」で、「介護保険事業計画を『地域包括ケア計画』と位置づけ、都道府県が策定する医療計画は、市町村が策定する地域包括ケア計画を踏まえた内容にするなど、医療提供体制の改革と介護サービスの提供体制の改革が一体的・整合的に進むようにすべき」だからである。
→参考①:社会保障制度改革国民会議 報告書(抜粋)〔平成25年8月6日〕【PDF】

より具体的に言えば、療養病床の入院受療率の地域差の是正等の医療機能の分化を踏まえ、その受け皿となる在宅医療・介護や介護施設の整備を整合的に進める必要があるが、日常生活圏域での地域包括ケアを総合的にプラニングできるのは市町村をおいて他にないからである。

「地域包括ケア保険」への統合か、後期高齢者医療への市町村別保険料の導入か

しかし、この『医療から介護へ』、『病院・施設から地域・在宅へ』という政策に従って、療養病床を減らして、その入院患者を在宅医療・介護や介護施設で受け止めることとすると、後期高齢者医療制度は都道府県単位なので、療養病床が減っても、その保険料の軽減効果は都道府県全体で稀釈されてしまい、市町村には還元されない。
一方、その受け皿となる介護サービスの費用を賄う介護保険は市町村単位なので、介護保険料が上昇してしまうという問題が生じている。「医療から介護へ」という現在進めている政策とそれをファイナンスする仕組みにねじれが生じている。

このねじれを解消する方法としては、大きく二つの方法が考えられる。
一つは、介護保険と後期高齢者医療制度を統合し、「地域包括ケア保険」とすることである。
今一つは、現在の後期高齢者医療制度において、少なくとも、市町村別の保険料とすることである。

選択肢として検討すべきメリットがある「地域包括ケア保険」

前者の「地域包括ケア保険」については、都道府県単位の広域連合が実施主体(以下単に「保険者」という)である後期高齢者医療制度と市町村主義をとる介護保険を統合する場合の保険者をどうするか、保険料を負担する若人の範囲をどこまでにするのか、若人と高齢者でどのように費用を分担するか等、難しい課題も多い。

しかし、単に政策とファイナンスのねじれの解消という以上に、地域包括ケアを総合的にファイナンスすることにより、次のようなメリットも大きいことから、選択肢として検討しておく価値は十分あると考えている。

(1) 生活習慣病の指導管理から主治医意見書や介護相談に至るまで保健・医療・福祉を総合的に診る「かかりつけ医」や、本人の人生観・価値観を尊重した「治し支える医療」が実現できること、
(2) 同一制度内で医療・介護サービスを総合的に調整する仕組みや、生活習慣病対策・フレイル対策・介護予防の一元的な実施といった保健・医療・介護の連携がとれたサービスが実現できること、
(3) 医療と介護の提供体制を総合的にプラニングする地域包括ケア計画を制度的に位置づけられること、
(4) 医療・介護を総合して、高齢者の負担能力に応じた保険料や利用者負担(その上限)が設定できること、
(5) 制度の統合により、被保険者管理、保険料の賦課・徴収、年金からの特別徴収、医療保険者からの若人の支援の拠出といった多くの保険者事務の重複が解消できること

 

次ページ » 後期高齢者医療の保険料を市町村の医療サービスに応じた水準に

ここから先はログインしてご覧ください。

神田 裕二(かんだ・ゆうじ)
県立広島大学大学院経営管理研究科特任教授
兵庫県立大学経営研究科客員教授
---
昭和57年厚生省入省。老人福祉課、広島市高齢者福祉課長・社会課長、保険局医療課を経て、平成8年の法案提出から平成12年の施行まで介護保険制度の立ち上げに携わる。
平成18年から保険局国民健康保険課長と高齢者医療制度施行準備室長を兼務し、平成20年の高齢者医療制度の施行に携わる。
その後、保険局総務課長、内閣官房審議官(経済財政運営担当)、大臣官房審議官(医政、医療・介護連携担当)、医薬食品局長を経て、平成27年10月医政局長。平成29年7月厚生労働省退職。
Web医療と介護