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神田 裕二(かんだ・ゆうじ)

第7回 医師偏在是正法でバケツの穴は塞がるか?

今年7月、医師偏在の是正策を盛り込んだ医療法・医師法の改正法が成立し、長年の懸案だった医師確保対策が本格的に動き出した。医師不足地域での勤務経験を認定し、一定の病院の管理者要件とすることなどが柱だが、検討段階では、既存法令との整合性や医師不足解消の実効性などが議論となった。医政局長としてとりまとめに当たった立場から、筆者はこれまでの議論を振り返るとともに、医師需給問題の解消に向けた道すじを概観する。

今年7月17日に医師偏在是正法(医療法・医師法改正法)が成立した。平成27年12月に医療従事者の需給に関する検討会の医師需給分科会(以下「分科会」という)で検討開始から2年半余りを経ての成立で、検討過程では紆余曲折もあり、感慨深いものがある。今回は、法案の検討過程における大きな論点の一つであった「(1)医師少数区域等で勤務した医師を評価する制度の創設」を中心に、個人的な意見を含めて論じることとしたい。

→参考①:医療法及び医師法の一部を改正する法律案の概要

→参考②:医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会

 

従来の医師偏在対策の反省に立ち、地域住民の不利益是正のため、新たな制度的枠組みを導入

医師少数区域で勤務した医師を認定、一定の病院の管理者の要件に

今回の法律は、「(1)医師少数区域等で勤務した医師を評価する制度の創設」の他、(2)都道府県の医師確保対策の実施体制の強化、(3)医師養成過程を通じた医師確保対策の充実、(4)地域の外来医療機能の偏在・不足等への対応、という4本の柱からなる。

「(1) 医師少数区域等で勤務した医師を評価する制度の創設」について、今回の改正では、次のとおり定めている。
①医師少数区域等での勤務経験を有する医師を厚生労働大臣が認定できる。
②医師少数区域等の医療確保の支援を行う病院その他の厚生労働省令で定める病院の開設者は①の認定を受けた医師等に管理させなければならない。

→参考③:医師少数区域等で勤務した医師を評価する制度の創設について

 
なお、医師が少数かどうかを判断する指標(「医師偏在指標」)については、単純な人口対比医師数ではなく、地域の性・年齢階級別人口を踏まえた医療ニーズ、患者の流出入、医師の性・年齢分布を考慮した供給力等を考慮した全国的に比較可能な客観的な指標の検討が分科会で始まっている。

 

偏在対策が図られなければ地域の医師不足解消にはつながらない

平成28年6月の分科会の第1次中間とりまとめは、筆者も直接担当したが、それまでの医学部定員の大幅増員と医師偏在対策を総括し「(小児科医の漸増や産婦人科医が増加に転じる等一定の改善がみられたが)医師不足の指摘は引き続き強いものがある。医学部定員の増員により医師数の全国的な増加を図ったとしても、医師の偏在対策が十分図られなければ、地域の医師不足の解消にはつながっていかない」としている。

分科会では、病院団体の委員から「都会のバケツに水を注いで溢れた人が地方に来る。まだ地方には来る人がほとんどいないのは都会のバケツも一杯になっていないのではないか」との意見が出され、偏在対策が不十分な「穴の開いたバケツ」に、いくら医学部定員を増員して水を注いでも、水は必要な地域に行きわたらないという認識は共有された。

→参考④:医学部入学定員と地域枠の年次推移

分科会には、日本医師会・全国医学部長病院長会議の医師偏在解消策検討合同委員会からの緊急提言も提出された。
その中では「一部にはさらに医学部を新設し、医師養成数の増加を図るべきだとの意見もあるが、現状の医師不足の本質は、医師の地域・診療科偏在であり、これらの解消こそ喫緊の課題であると考えられる。この課題解決のためには、医師自らが新たな規制をかけられることも受け入れなければならない」として、「一定期間、医師不足地域で勤務した経験があることを病院・診療所の管理者の要件とする」という提案がされている。

→参考⑤:医師の地域・診療科偏在解消の緊急提言-求められているのは医学部新設ではない

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神田 裕二(かんだ・ゆうじ)
県立広島大学大学院経営管理研究科特任教授
兵庫県立大学経営研究科客員教授
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昭和57年厚生省入省。老人福祉課、広島市高齢者福祉課長・社会課長、保険局医療課を経て、平成8年の法案提出から平成12年の施行まで介護保険制度の立ち上げに携わる。
平成18年から保険局国民健康保険課長と高齢者医療制度施行準備室長を兼務し、平成20年の高齢者医療制度の施行に携わる。
その後、保険局総務課長、内閣官房審議官(経済財政運営担当)、大臣官房審議官(医政、医療・介護連携担当)、医薬食品局長を経て、平成27年10月医政局長。平成29年7月厚生労働省退職。
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