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神田 裕二(かんだ・ゆうじ)

第8回 介護予防・日常生活支総合援事業の実情を踏まえた、フレイル対策等の高齢者の保健事業の相乗りを

人生100年時代を迎え、健康寿命の延伸が課題となっている。予防・健康づくりを効果的に進めるには、介護予防・フレイル対策や生活習慣病等の疾病予防・重症化予防の一体的な実施が求められる。このため厚生労働省に「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」が設置され、年内の取りまとめを目指して検討が進められているところだ。保健事業や介護予防は、それぞれ制度や財源、実施方法などが異なり、その一体的実施には多くの課題がある。筆者は、現場の負担を増やさないためにも、保健事業と介護予防の「一体的実施」から一歩進め「一本化」して、市町村が一元的に実施することを提言する。

保健事業と介護予防の一体的実施が目下の方針

総理が来年10月の消費税率引上げを明言し、2025年を念頭に進められてきた社会保障・税一体改革が完了することから、ポスト一体改革が社会保障政策の焦点となっている。厚労省は今年5月、経済財政諮問会議に、団塊ジュニア世代が高齢者となり、現役世代が大幅に減少する「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」を示し、こうした労働制約の下で必要なサービスを確保していくためには、健康寿命の延伸と医療・介護の生産性向上が政策課題だとし、健康寿命延伸のための政策の柱の一つとして、高齢者に対する保健事業と介護予防の一体的実施を位置づけている。

図1◆2040年を展望した社会保障改革の新たな局面と課題

図2◆健康寿命延伸に向けた取組

骨太方針2018でも、「高齢者の通いの場を中心とした介護予防・フレイル対策や生活習慣病等の疾病予防・重症化予防、就労・社会参加支援を都道府県等と連携しつつ市町村が一体的に実施する仕組みを検討する」とされており(図3)、現在、有識者会議で、実施のスキームの検討が行われている。

厚労省が会議に示した資料でみると、介護予防の通いの場で、これまで後期高齢者に対する保健事業として行われてきたフレイル対策や生活習慣病の重症化予防等を行うことを目指しているように考えられる。

図3◆後期高齢者医療制度事業費補助金を活用した保健事業

図4◆高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施

そもそも、後期高齢者医療制度として広域連合が保健事業を実施するには、有識者会議でも指摘されている点も含め、次のような問題があることから、市町村数ではわずか60~70程度と普及していない(図5)。

  1. 広域連合には、保健師が若干いるものの、保健事業を担う専門職が配置されていないこと。
  2. 1に述べた理由から多くの広域連合では市町村に委託をして保健事業を実施しているが、市町村にとっては、後期高齢者の医療費を適正化しても、保険料は都道府県単位であるため、その効果は都道府県全体で稀釈されてしまい、地元住民の保険料の軽減につながらないこと。
  3. 後期高齢者医療制度では、その財源構成からして、治療をして給付を行うと、高齢者の保険料(全体の約1割なので)の10倍の使いでがあるのに対し、予防のために保健事業を行うと、例えば健診では国・地方・保険料で1/3ずつ負担するので、保険料としては3倍の使いでしかなく、予防に費用をかけるインセンティヴが働きにくいこと。

図5◆現状の課題①

図6◆現状の課題②

 

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神田 裕二(かんだ・ゆうじ)
県立広島大学大学院経営管理研究科特任教授
兵庫県立大学経営研究科客員教授
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昭和57年厚生省入省。老人福祉課、広島市高齢者福祉課長・社会課長、保険局医療課を経て、平成8年の法案提出から平成12年の施行まで介護保険制度の立ち上げに携わる。
平成18年から保険局国民健康保険課長と高齢者医療制度施行準備室長を兼務し、平成20年の高齢者医療制度の施行に携わる。
その後、保険局総務課長、内閣官房審議官(経済財政運営担当)、大臣官房審議官(医政、医療・介護連携担当)、医薬食品局長を経て、平成27年10月医政局長。平成29年7月厚生労働省退職。
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