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古澤 香織(ふるさわ かおり)

第3回 チームケアに求められる「リスクマネジメント」とは?

地域完結型医療への転換によって、在宅ケアの現場でも医療ニーズの高い要介護者が増え、「変化に対応できる力」、スピード感が要求されるようになっています。連載3回目は、「にしのわ」のコーディネーターとして、看護師の立場から在宅療養者を支えるチームケアの連携をサポートしている古澤香織さんに、ケアマネジャーに必要なリスクマネジメントの視点について、書いていただきました。

看護師から見たケアマネジャーに必要なリスクマネジメントの視点

私は、医療法人財団緑秀会田無病院という地域のケアミックス病院で、看護師として、外来・病棟・訪問看護を経験してきました。この経験を活かし、2017年10月より西東京市在宅療養連携支援センター「にしのわ」のコーディネーターとして、専門職からの相談を受け、在宅療養者を支えるチームの連携をサポートしています。

複雑な医療介護連携の問題を解決するために、私が病院で経験したことを強みにし、これからも病院と在宅、医療と介護をつなぐための支援をしていきたいと考えています。
今回は看護師として、また病院・在宅ケアを経験した者として、ケアマネジャーの皆さんにぜひ知っておいてほしいことを、お伝えしたいと思います。

医療と介護のスピード感の違い

「医療・介護連携が上手くいかない」、「医療ってやっぱり苦手……」そんなケアマネジャーの皆さんや他の専門職を支援するために、医療・介護連携の相談窓口が各市区町村に配置されました。そこにはさまざまな相談内容が寄せられることからも、複雑な連携の課題が見えてきます。

連携を困難にさせている要因の1つに、双方の「スピード感の違い」があります。
これは、私が病院勤務時代にもしばしば感じたことでした。例えば、病状が安定し退院の許可が出た患者さんの担当ケアマネジャーに在宅調整の依頼をしても、一向に返答がなかったり、身寄りのない患者さんの連絡先を何年も確認していなかったり……そんなときに「どうしてもう少し早く調整できないのだろう」と不思議に思っていました。

現在、私は病院から離れ、在宅療養者を支える方々と仕事をしています。すると、この「スピード感の違い」は、必要な違いであることも少しずつわかってきました。「早く」進めなければいけないこともあれば、「ゆっくり」関わらなければならないこともある。それぞれが在宅療養者を支えるためには必要な違いなのだ、と考えるようになったのです。

もともと病院の医療は、常に状態に変化がある人を対象としています。微細な変化をキャッチし、予測を立てることで、最善の治療・ケアへとつなげます。そのため、「早く」動くことが求められます。

在宅で「早く」動かなければならないときは、在宅療養者に変化があったときです。
例えば、病状に変化があったとき、物忘れが前より多くみられるようになったとき、日常生活動作(ADL)に変化があったときなどです。
在宅でのこの状態の変化は、今までと同じ生活を送ることが困難になることを意味しています。
それは、「早急に」在宅ケアチームが動かなければならないときです。早急に医療につなげ、変化が起きている原因を探るとともに、変化した状態に合わせ、適切なプランの変更を速やかに行う必要があります。このとき、「ゆっくり」と調整していると、あっという間に急激な状態変化を起こさないとも限りません。

高齢の在宅療養者はあっという間に状態が悪化するケースも……

在宅療養者、特に高齢者はあっという間に状態が悪化することがあります。例えば、いつもよりご飯が食べられてないなと思っていたら、数日で動けなくなるほど衰弱してしまったり、歩行のときに前よりもふらつくことが増えたなと思っていたら、自宅内で転倒してしまったり……。

一度急激な状態変化が起きると、なかなか元の生活に戻ることができないのも、在宅療養高齢者の特徴の一つです。
いつもと違う変化がみられたときは、チームの専門職に「早く」相談することを心がけてほしいと思います。

一方、「ゆっくり」関わったほうがいいときは、どんなときでしょうか? 例えば、療養者に寄り添いながら本人の思いを引き出したり、時に頑固な人・拒否がみられる人に関しても、時間をかけ信頼関係を築きながら少しずつケアの必要性を理解してもらったりする場合です。
時間をかけて接することで理解を得たり、受け入れてくれることがあると感じています。これは私のような医療職ではなく、介護・福祉の専門職が得意としているケースだと思います。
療養者の人生に寄り添い、人となりを理解して支援をすること……これは病院では難しい在宅でのケアの魅力の一つではないでしょうか。

このスピード感の違いは、それぞれが自分たちの分野において「強み」としてきた部分ですが、医療と介護による複雑な支援が必要な療養者が増加している現状では、お互いが得意としているスピードを、「早め」たり「ゆっくり」したりしながら支援しなければならないときがあると感じています。
それはどんなときでしょう?

地域完結型医療で求められるもの

「地域完結型医療」への転換によって、病院・在宅に求められるものが変化してきています。

今まで、医療と介護、在宅と病院は、それぞれのスピード感でそれぞれのケアを行ってきました。
しかし、医療は「地域完結型医療」に転換され、「おおむね在宅、時々入院」という言葉にあるように、病院は患者を生活者として捉え、地域に帰すことが求められる時代になりました。ところが、病院が在宅を知り、患者の生活に寄り添うという視点は、まだまだ始まったばかりです。
常に状態の変化がある病院の医療では、「ゆっくり」と患者に関わることは容易ではありません。しかし地域病院も生活者としての視点を持ち、本人に寄り添い意向に沿ったケアを心がけていく姿勢が、問われていると思います。

では、在宅ケアチームに求められているものは何でしょうか。
先ほども述べたように、私が病院で勤務していたときや、現職の看護師などの相談内容からしても、「なぜこんな状態になる前に対応しなかったのか」と思うことが度々ありました。
例えば、食べられなくなって何週間もしてから入院相談にくる、インスリン注射を管理できなくなって何ヵ月も経ち、状態が悪化して入院となる等……ケアチームでもっと早く相談し、対応することはできなかったのかと疑問に思うことが何度もありました。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

在宅介護が開始した当初は、病状の安定した在宅療養者がケアマネジャーの援助対象だったと思います。そのころは病状の安定した要介護者に「ゆっくり」と寄り添いながら援助をしているのですから、急な変化を予測しながら対応することは難しいのかもしれません。
しかし今日、医療は「地域完結型医療」に転換され、以前より医療依存度の高い人・介護度の高い人が在宅療養者となり地域で暮らすことができるようになりました。
今までのように病状が安定した人だけでなく、状態が変化する可能性が高い要介護者がケアマネジメントの対象となり、今後も増加していく、そして病状の変化はいつ起こるかわからないという認識をケアマネジャーの皆さんにまずは持ってほしいのです。この「変化」に対して求められるもの、それは「早く」動き出すことのできる力、つまり「変化に対応する力」だと思います。

それでは、この「変化に対応できる力」とは、どのようなものでしょうか。
次に「リスクマネジメント」という視点から考えていきましょう。

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古澤 香織(ふるさわ かおり)
東京都立北多摩看護専門学校・聖母看護学校卒業  看護師
一般企業に就職後、看護学校へ進学。
地域一般病院経験後、2001年医療法人財団緑秀会田無病院に入職。
病棟・外来・訪問看護を経験し、2017年10月より西東京市在宅療養連携支援センター「にしのわ」にコーディネーターとして配属。
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