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#01 介護労働者は確保できるのか?(小竹雅子)

介護労働者の給与が低い理由

週刊誌の記者に「なぜ、介護職の給与は低いのでしょう?」と質問されたことがあります。「女性労働だからです」と即答したところ、言葉に詰まっていました。

公益財団法人介護労働安定センターが毎年公表している『介護労働実態調査』を見れば、ホームヘルパーの約9割、介護施設などの介護職員の約7割は女性が占めています(データ3参照)。

主要産業で働く人を対象とした『2018年賃金構造基本統計調査』の「賃金」(月間決まって支給する現金給与額)は、男性が37.1万円、女性が26.4万円で、女性は男性より10.7万円も低いのです。

なお、『2018年度介護従事者処遇状況等調査』の平均給与額(月給・常勤)は30.1万円で、男性が32.0万円、女性が29.2万円です。その差は2.8万円で、主要産業平均と比べれば、介護労働者は給与が低いために、「性別による賃金格差」が小さいともいえます。

慢性化している「介護人材の不足」

2007年に介護労働者の離職が問題になった頃、全産業平均の月額給与と比較して、ホームヘルパーの14万円、介護職員は15万円も低い状況にありました。12年がかりで「全産業平均と6万5000円の差」(朝日新聞)までこぎつけたのは、数字のうえでは評価するべきでしょう(データ4参照)。

ただし、「介護職員処遇改善加算」を取得していない事業所が約1割あり、民間会社(営利法人)が多く、その理由は「事業作業が煩雑」がトップです。書類手続きの簡素化は、すぐに着手できそうなテーマです。費用の約9割が公費(介護保険料と税金)で運営される全国同一サービスのはずなのに、所属する事業所の規模や事務能力によって給与が異なるという課題は早く解消してもらいたいと思います。

とはいえ、小刻みな引き上げを積み上げても、「介護人材の不足」は解消されません。今年2月の有効求人倍率(パートを含む)は、1.63でした。常用労働者(一般労働者と短時間労働者)では、1.54です。しかし、職業別をみると、「介護サービス」は4.19で、他産業に比べて人手不足が際立ちます(厚生労働省「一般職業紹介状況(2019年2月分)について」)。

介護労働者は2016年度現在、183.3万人と報告されていますが、2020年度末に約216万⼈、2025年度末に約245万⼈が必要とされています。単純計算すれば、2020年度までに約33万人、その後、2025年度までに約29万人を増やさなければならないのです。

社会保障審議会や厚生労働省の検討会では10年以上、さまざまな「人材確保策」が打ち出されています。しかし、前提としている課題の設定に誤りがあるのではないか、と思わざるをえません。

給与以外の課題はどこにあるのか

『介護従事者処遇状況等調査』は給与の調査で、ほかに労働環境など介護労働者の実情を把握する調査は見当たりません。ある程度、推測できそうなのは以下の調査です。

3月23日、『2017年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』が公表されました。調査では、介護家族(養護者)による虐待(1.7万件)が圧倒的に多く、介護労働者(養介護施設従事者等)による虐待(510件)は少ないのですが、厚生労働省が「特に近年、養介護施設従事者等による高齢者虐待が大幅に増加しています」と市区町村に通知を出すほど、明るみに出るケースが増えています。

社会保障審議会介護給付費分科会が設置する介護報酬改定検証・研究委員会では、3月14日の第17回委員会で、特別養護老人ホームと老人保健施設の「安全・衛生管理体制等」の調査結果が公表されました。2017年の死亡事故について、特別養護老人ホームは1,117件(772施設)、老人保健施設は430件(275施設)になることが報告され、「介護施設 事故死1547人 転倒・誤薬など 17年度、厚労省初調査」(東京新聞)など各紙が一斉に報道しました。介護事故では、特に業務上過失致死を問われるケースで、誤嚥をめぐる判決への疑問(長野県)や殺人容疑の不起訴処分(奈良県)など、事実関係や真相がゆらぐ事例が気になります。

一方、2018年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金で実施された「【PDF】介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書」(株式会社三菱総合研究所)では、介護労働者が利用者や家族から受けるハラスメント(身体的暴力、精神的暴力、セクシャルハラスメント)が、労働組合(日本介護クラフトユニオン)の要請で初めて調査されました。

ハラスメントの実態把握をしている事業所は半数を超えますが、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」が約6~7割、「発生状況の把握が難しい」が約2~4割で、本格的な調査とはいえません。

この調査の詳細を分析し、さらに労働環境の実態把握につなげることが、介護労働者の定着に向けた現実的なヒントの発見になるのではないかと思います。

現在、「人材確保」のために、EPAや特定技能「介護」などによる外国人労働者の採用や、「介護助手」という補助的な労働力の導入もはじまっていますが、局地的な解決にしかならないことも懸念されます。これらの調査の詳細を分析し、給与と労働環境の改善に向けて、現実的な解決策を見いだしてほしいと思います。

データ

データ1. 介護労働者の平均給与

データ2. 介護職員処遇改善加算の取得状況

データ3. 介護労働者の労働形態と性別

データ4. 介護労働者の給与の引き上げ状況
小竹 雅子(おだけ・まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰

1981年、「障害児を普通学校へ・全国連絡会」に参加。障害児・障害者、高齢者分野の市民活動に従事。
1998年、「市民福祉サポートセンター」で介護保険の電話相談を開設。
2003年、「市民福祉情報オフィス・ハスカップ」をスタート。
現在、メールマガジン「市民福祉情報」の無料配信、介護保険の電話相談やセミナーなどの企画、勉強会講師、雑誌や書籍の原稿執筆など幅広く活躍中。2018年7月に発刊された『総介護社会』(岩波新書)は日経新聞に取り上げられるなど、話題を呼んだ。

【主な著書】
『こう変わる!介護保険』(岩波ブックレット)
『介護保険情報Q&A』(岩波ブックレット)
『もっと変わる!介護保険』(岩波ブックレット)
『介護認定』(共著・岩波ブックレット)
『もっと知りたい!国会ガイド』(共著・岩波ブックレット)
『おかしいよ!改正介護保険』(編著・現代書館)
『総介護社会』(岩波新書)

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