年金時代

財政検証の経済前提【2014年4月号「特集Ⅱ」掲載】

●賃金上昇率

海外経済との関係も考慮 より中立的な推計へ

前述の方法で長期の経済前提を導き出すには、全要素生産性(TFP)上昇率や資本分配率、資本減耗率、総投資率、労働投入量の変数(パラメータ)を設定する必要がある。なかでも技術水準の進歩によって経済が成長する度合いを表すTFP上昇率は、将来の不確実性がとりわけ大きいとされている。21年の財政検証ではこれを3とおり設定したが、専門委員会はその他のパラメータも不確実性を伴うとして、パラメータごとに幅をもたせることにした。

「TFP上昇率」は、35年度までは内閣府試算に準拠して足下の0.5%から経済再生ケースでは1.8%まで、参考ケースでは1%まで上昇すると設定。36年度以降は経済再生ケースにつながるものとして1.8%で推移するケースを上限に、0.2%刻みで1%までの5ケース(A~E)を設けた。参考ケースにつながるものは1%で推移するケースを上限に、0.7%と0.5%の3ケース(F~H)を設定した(図表1参照)。

資本に分配される付加価値を示す「資本分配率」や、有形固定資産の減耗分である「資本減耗率」は、21年の財政検証ではそれぞれ直近過去10年間の実績の平均値が用いられた。ただ、2000年代の賃金が低下する時期に資本分配率の上昇が見られたため、今回は直近過去10年平均の42.8%のほかに、長期的な動向という観点から過去30年平均の40.8%も採用。資本減耗率も同様に過去10年平均の7.1%と過去30年平均の7.5%を設定し、過去10年平均どうしと、過去30年平均どうしを組み合わせた。

「総投資率」は名目GDPに対する固定資本形成の割合を表すもので、21年の財政検証では低下傾向にあった過去の実績を踏まえて設定された。専門委員会は、さらに名目GDPに対する貯蓄の割合を表す「総貯蓄率」との関係に着目。総貯蓄率は総投資率より高く、その差は経常黒字に相当する。経常収支の先行きは赤字化する見方と黒字が継続する見方とさまざまだったため、総投資率は30年かけて総貯蓄率の推移に遷移するパターンと、従来と同様の方法で設定したパターンを設けた。

「労働投入量」は、21年の財政検証では将来推計人口を基に、労働力需給推計と、過去の傾向から作成したフルタイム雇用者と短時間雇用者の見通しから算出した「総労働時間」を用いた。今回も今年2月に日本再興戦略を踏まえて取りまとめられた労働力需給推計を活用して、同様の手法で総労働時間を算出。その結果、24年から42年にかけて、労働市場への参加が進むケースでは年平均0.3%の減少。一方、労働市場への参加が進まないケースでは年平均0.8%の減少となった。

また、コブ・ダグラス型生産関数は供給側の状況だけを考慮したものとの指摘から、より中立的な推計とするため初期値に用いる足下のGDPを潜在GDPに置き換えた。そして8つのTFP上昇率を軸に各パラメータを組み合わせ、36年度から20 年、25年、30年と複数の期間における整合性のとれた実質経済成長率や被用者1人当たり実質経済成長率、利潤率の平均値が推計された。

なお、被用者1人当たり実質経済成長率は「実質賃金上昇率」に相当する。利潤率は実質長期金利の設定に用いられる。

年金時代