年金時代

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員

第6回 「移換」と「移管」を混同してはイカン!?

転退職者の企業年金資産を他の制度に持ち運ぶことを「移換」と言いますが、新聞・書籍やWebサイトでは「移管」という表記もしばしば目にします。一体どちらが正しいのでしょうか?

文書作成ソフトで一発変換されない「移換」

わが国の企業年金制度では、加入者が他の企業に転職する際に、それまでに蓄積した自身の年金資産を、転職先の企業年金制度等へ持ち運ぶしくみが構築されています。このしくみは、2001年の確定拠出年金制度の導入を機に「ポータビリティ」という用語で知られるようになりましたが、わが国では「移換」という用語が古くから用いられています。厳密には、退職者の年金資産を社外に移すことを「移換」、中途採用者の年金資産を自社に受け入れることを「受換」と言います(出典:企業年金連合会ホームページ「用語集」より)。

しかし、この「移換」という用語、辞書を引いてもなかなか見つからなければ、文書作成ソフトや日本語入力ソフトでも一発で変換されないなど、企業年金の分野以外では全くと言って良いほど見かけません。世間一般では、「管轄・権限を他に移す」という意味の「移管」という言葉がむしろ広く用いられており、マスメディアはおろか専門誌ですら「移換」と「移管」が混在している事例が広く散見されます。果たして、一体どちらが正しいのでしょうか?

年金法令上はすべて「移換」である!

結論から述べますと、確定給付企業年金法、確定拠出年金法、厚生年金保険法の条文上は、すべて「移換」という表記で統一されており、「移管」は一切使われていません。年金分野ではなぜ「移換」が用いられるのでしょうか?

これは筆者の推論ですが、移管とは本来「権利・権限の移転」を意味するのに対し、移換は「器(年金制度)は変われど年金資産の権利は一貫して加入者自身に帰属」しているという意味が込められているのではないかと考えます。もっとも、株式投資の世界では、証券会社間での株式の預け替えを「移管」と称していたりするため、先程の推論があくまで推測の域を出ないのは、如何ともし難いものがあります(汗)。

 

 

※本稿は、『年金時代』2016年11月号に掲載した「誰かに教えたくなる企業年金ABC⑭:紛らわしい企業年金用語(その1)~「移換」と「移管」~」の内容を再編成したものです。

【今回のまとめ】

年金の実務家たる者、「移換」と「移管」を使い分けできないようでは「遺憾」である!
谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員
厚生年金基金連合会(現:企業年金連合会)で約10年にわたり記録管理・数理・資産運用等の業務に従事。全労済協会などを経て、2010年りそな銀行入社。社会保険労務士、証券アナリスト(CMA®)、1級DCプランナー、DCアドバイザー。2015年より日本年金学会幹事。
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