年金時代

香取 照幸(かとり てるゆき)/駐アゼルバイジャン日本国特命全権大使

第12回 どっちが先進国? アゼルバイジャンのIT事情【後編】「汚職・賄賂との戦い」

住民のクレーム対応と職員のメンタル対策はなかなかなもの

で。本題に入ります。閑話休題。

前回、ASANセンターという、この国の「電子政府」の取り組みについて紹介しました。

IDカード一枚で、ワンストップ・ペーパーレスで各種行政手続・行政サービスが迅速に受けられる。実際に「電子政府」が機能するとどうなるのか、ハード・ソフト両面でのITインフラをきちんと整備すればこれだけのことができる。

この国ではその姿を具体的に見ることができます。

今回は、電子政府を実現することのもう一つの大きな意味、「汚職と腐敗の根絶」について考えます。

その前に。このASANセンターには、前回お話ししたこと以外にも、私が感心したことがいくつかありました。今日の本題に入る前に、ちょっとだけお話ししたいと思います。

第一は、「住民のクレーム対応」です。

センター内に、こういう端末がありました。

アゼルバイジャン語で「Electric Complaint Pavilion」と書いてあります。不平不満の受付端末、ってことのようです。見ると、スカイプ。要するにテレビ電話です。

「サービスの内容や職員の対応に不満があるときは、これでセンターの事務局に直接文句言うのよ」。そばにいた住民に聞くと、そういう答えが返ってきました。

IT版目安箱、ってところでしょうか。いや、それ以上ですね。相手がいて話を聞いて対応してくれるんですから。クレームは当然記録され、各センターの「評価」に反映されるそうです。

もう一つは職員のメンタル対策。窓口を担当する職員のメンタルヘルス対策です。

日本でもそうですが、市役所の窓口とかコールセンター、カスタマーセンターなど、対人サービスを担当する部署の職員はすごくストレスが溜まります。うまくいかないと怒り出す人もいるし、時には罵声を浴びせる人も残念ながらいます。どこの国でも同じです。メンタルを病んでしまう職員も当然発生します。

ASANセンターには、窓口担当職員のための休憩室が用意されています。

自然光の柔らかい照明があり、静かな落ち着いた部屋で、音楽を聴いたり軽い運動をしたりできます。熱帯魚の水槽なんかもあって、気持ちが休まります。

職員は勤務時間中、定期的に席を外してそこで「癒しの時間」を過ごすことができます。

日本の自治体やコールセンターで、こういう職員の健康対策をやっているところはどのくらいあるんでしょうか。なかなかやるじゃん、大したものだと思いました。

真面目な話、こういった対策は日本でも必要だと思います。対人サービス、特に窓口業務をしている職場は標準装備でやるべきですね。

これって労働基準局の仕事でしょうか。ぜひ真剣に考えて欲しいです。

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香取 照幸(かとり てるゆき)/駐アゼルバイジャン日本国特命全権大使
東京都出身。1980年東京大学法学部卒業後、厚生省入省。在フランスOECD事務局研究員、年金局年金課年金制度調整専門官、埼玉県生活福祉部老人福祉課長、厚生省大臣官房政策課企画官(高齢者介護対策本部事務局次長)、厚生労働省政策統括官(社会保障担当)・内閣官房内閣審議官(社会保障・税一体改革担当)併任、年金局長、雇用均等・児童家庭局長などを経て2016年6月辞職。2017年3月より現職。著書に『教養としての社会保障』(東洋経済新報社)
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