年金時代

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員

第9回 鵜呑みは禁物!「グローバル年金ランキング」のカラクリ②

某外資系コンサル会社が毎年秋ごろに発表する「グローバル年金指数ランキング」について、今回は、このランキングで順位を上げる方策について解説し、それを通して国際比較の難しさとその結果を鵜呑みにすることの無意味さについて言及します。

日本の年金制度のランキングを上げるためには?

前回は、マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング(2017年度)において、日本の年金制度は給付の十分性(Adequacy)と制度の持続性(Sustainability)に対する評価が芳しくないことを確認しました。それでは、このランキングで日本の順位を引き上げるためには、どのような方策が必要なのでしょうか?

●マーサー「グローバル年金指数ランキング」 https://www.mercer.co.jp/newsroom/2017-global-pension-index.html

まず十分性の項目をみると、最もウエイトの大きい「所得代替率」が4.4点と低調なほか、次いでウエイトの高い「家計貯蓄率」が1.0点、「私的年金の年金受取の促進」に至っては0点と評価されています(それぞれの項目は10点満点で評価)。日本では、退職一時金制度が企業年金制度よりも先行して普及した歴史的経緯から、ほとんどの企業年金制度で一時金での受け取りが広く利用されていますが、このランキングでは一時金給付は老後所得保障に資しないとの理由から全く評価されていません。所得代替率(=年金額/現役時代の所得)の評価が低いのも、企業年金の給付が考慮されていないためと考えられます。年金受取のほうが一時金受取よりも老後所得保障の機能が高いという考え方自体は否定しませんが、その一方で、家計貯蓄率(=非消費額/可処分所得)が高いと十分性が高いとの評価もしており、一貫性がありません。

また、持続性の項目をみると、最もウエイトの大きい「少子高齢化の進展状況」(平均寿命と公的年金支給開始年齢との差、2035年の高齢者比率、過去7年間の合計特殊出生率etc…)が1.4点、そして「政府債務の対GDP比率」は0点と評価されています。つまるところ、日本のように少子高齢化が急速に進展していてかつ政府債務も莫大な国では、どんなに完璧な年金制度を構築してもこのランキングで高順位につけるのはどだい無理な話なのです。

どうしてもこのランキングの順位を上げたいのであれば、「給付額の引き上げ」や「支給開始年齢の引き上げ」などの改正を実施せよという話になりますが、給付の引き上げには負担(掛金)の引き上げがつきものですし、支給開始年齢にしてもたとえば90歳に引き上げてランキングの順位を上げたところで、それが年金制度として本当に意味のある改正だとは到底思えません。

年金を必要としない国ほど順位が高くなる矛盾

このランキングは、公的年金だけでなく私的年金(企業年金・個人年金)も含めて包括的に評価しているものの、たとえば、健全性(Integrity)の評価は私的年金に対するものであり公的年金は一切考慮されないなど、項目によって評価対象が公的年金なのか私的年金なのかがまちまちです。また、私的年金が整備されていない国ほど全体の評価が低くなる傾向にありますが、日本は、確定給付企業年金や確定拠出年金などの制度が整備されているにもかかわらず、このランキングの評価に用いられているOECD(経済協力開発機構)の統計データによる把握が今ひとつなため、私的年金自体が正当に評価されていない感があります。

さらに、このランキングの最大の問題点は、「年金を必要としない若い国ほど順位が高くなる」という矛盾を抱えていることです。そもそも年金制度は、いずれ到来する高齢化社会に備えることを目的に設立されるものですが、このランキングでは、年金制度が役割を発揮する時期(=少子高齢化が進展する段階)が近づくに連れて、年金制度の持続可能性が低いと評価される傾向にあります。たとえるなら、家を買うために一生懸命貯蓄してきたのに、いざ購入のために貯蓄を取り崩そうとすると「残高が減るから問題だ」と評するようなものです。表面的なランキングや数値だけにとらわれると、手段と目的をはき違えて評価してしまう懸念があります。

「限界」を踏まえたうえで「活用」を

このランキングについては上記以外にも言及したい点は色々ありますが、ここで申し上げたいのは、制度も歴史風土も異なる各国の制度を「画一的」な基準で単純比較することは難しいということです。上位を占めているデンマーク、オランダ、オーストラリアの年金制度のしくみを日本に導入したからといって、日本のランキングが急上昇するという性質のものではないことを、まず理解する必要があります。

それでは、国際比較に全く意味が無いのかというと、そうではありません。このランキングでも、日本の年金制度の課題として「私的年金の加入率の低さ」が挙げられていますが、マクロ経済スライドの導入等により公的年金の給付水準の低下が避けられないなか、私的年金の加入率の引き上げにより公私の年金制度全体の給付水準の底上げを図ることは、改善の一つの方向性になるものと筆者は考えます。

【今回のまとめ】

国際比較には「限界」があることを踏まえたうえで「活用」することが重要である。ランキングや数値だけを鵜呑みにしていては、本質を見誤る。
谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員
厚生年金基金連合会(現:企業年金連合会)で約10年にわたり記録管理・数理・資産運用等の業務に従事。全労済協会などを経て、2010年りそな銀行入社。社会保険労務士、証券アナリスト(CMA®)、1級DCプランナー、DCアドバイザー。2015年より日本年金学会幹事。
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