年金時代

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員

第10回 「待期」は「期待」の裏返し!?

    ~「待期」と「待機」正しいのはどっち!?~

年金の専門用語で、「移換」とともに誤植が多いのが「待期」という用語です。一目見ただけでは「待機」の変換ミスじゃないかと見紛うのですが、さて、本当のところはどうなのでしょうか?

文書作成ソフトで一発変換されない「待期」

社会保険や生命保険には「待期」という概念があります。待期とは、加入資格の取得や給付の支払いを即座に行うのではなく、一定期間の経過を待ってから実施することを言います。社会保険では、雇用保険の基本手当(失業手当)の支給では「求職の申込みをした日以後7日間」の待期期間が設けられているほか、健康保険の傷病手当金では「療養のため労務に服することができなくなった日から起算して3日間」の待期期間が設けられています。

わが国の企業年金制度では、従業員が試用期間中であることなど合理的な理由がある場合において、「一定の勤続期間」あるいは「一定の年齢」に到達する従業員のみを加入者とし、加入が認められるまでの期間を待期期間とする設計が認められています。また、年金受給資格を有するものの受給開始年齢に到達していない受給権者のことを「受給待期者」とも称します。

しかし、この「待期」という言葉、辞書を引いてもなかなか見つからなければ、文書作成ソフトや日本語入力ソフトでも一発では変換されません。世間一般では、自宅待機や待機児童などに代表される「待機」という言葉のほうがポピュラーであり、書籍や雑誌の記事によっては、「待期期間」と「待機期間」、あるいは「待期者」と「待機者」が混在している事例が広く散見されます。果たして、一体どちらが正しいのでしょうか?

企業年金や社会保険では、「待機」ではなく「待期」が正解!

結論から述べますと、企業年金や社会保険の法令では、すべて「待期」という表記が用いられています。これは、待機は「機会が来るのを待つこと」を意味するのに対し、待期は「時期が来るのを待つこと」を意味することに由来します。機会の到来(待機)が万人に等しく提供されるかどうかが定かでないのに対し、時期の到来(待期)すなわち時間の流れは万人に平等であり、待機よりも均一性・均等性が高いと言えます。加入者の権利性が重んじられる企業年金や社会保険では、「時期が到来しないこと」以外の理由で加入や給付に制限を設けることは恣意的であり、制度の趣旨からすれば本来は容認されないことなのでしょう。

ともあれ、待期が正しいか待機が正しいか迷った際は、「待期は期待の裏返し」と覚えておきましょう(笑)。それでは皆さま、良いお年をお迎えくださいませ。

 

【今回のまとめ】

年金の実務家たる者、「待期」と「待機」を間違えて、お客さまの「期待」を裏切ることがあってはならない!
※本稿は、『年金時代』2016年12月号に掲載した「誰かに教えたくなる企業年金ABC⑮:紛らわしい企業年金用語(その2)~「待期」と「待機」~」の内容を再編成したものです。
谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員
厚生年金基金連合会(現:企業年金連合会)で約10年にわたり記録管理・数理・資産運用等の業務に従事。全労済協会などを経て、2010年りそな銀行入社。社会保険労務士、証券アナリスト(CMA®)、1級DCプランナー、DCアドバイザー。2015年より日本年金学会幹事。
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