年金時代

香取 照幸(かとり てるゆき)/駐アゼルバイジャン日本国特命全権大使

第26回 マクロ・ミクロ両面から公的年金制度を考える その2

みなさんこんにちは。
本稿は外務省ともアゼルバイジャン大使館とも一切関係がありません。全て筆者個人の意見を筆者個人の責任で書いているものです。内容についてのご意見・照会等は全て編集部経由で筆者個人にお寄せ下さい。どうぞよろしくお願いします。

(承前)

今回は「年金シリーズ」の第2回。2004年年金改正の意義、特にマクロ経済スライドの意義について考えます。

その前に。
5月20日はRoyal wedding、イギリスのヘンリー王子とメーガンマークルさんの結婚式でした。当日はBBC国際放送はもちろんのこと、CNNもFrance24も特別番組を組んでほぼ1日ウインザー城からの実況中継をしていました。
ここバクーでも、結婚式の時間に合わせてイギリス大使公邸でCelebrating Garden Partyが盛大に催されました。
公邸の庭に巨大なディスプレイが設置され、参加者みんなでBBCの実況中継を見ながら週末の午後を過ごしました。

 

では本題。

2004年年金改正の意義

もう一度前回お示しした人口構造の変化を示した図をご覧下さい。

公的年金について考える場合でも日本経済について考える場合でも同じですが、「現役世代と高齢世代の人口構成比」で考えるのは正確ではありません。「実際に付加価値を生み出している=働いている人数」と「養ってもらっている人数」のバランスで考えるのが正しいです。

2015年の人口は約1億2,700万人、15歳から64歳までの生産年齢人口は約7,700万人、実際に働いている人数(これを労働力人口と言います)は6,600万人(*)。15歳から64歳までの男女全てが働くわけではない(+少数ながら65歳以上でも働いている人がいる)からです。
2030年には生産年齢人口は約6,700万人にまで減少し、労働力人口は経済が停滞して労働市場への参加が進まないケースだと5,300万人にまで減少すると予測されています。他方で高齢者人口は2040年までは増え続け、その後人口減少世代が高齢期に入るので減少していきます。

*ここでは年金の話をしているので作図は70歳以上の労働力を除いた数値で示しています。

つまり今後20年から30年という期間が、労働力人口が減るのに高齢者は増え続けるという一番厳しい時代だということです。繰り返しますが、そこを乗り切れるかどうかが社会保障にとって一番の課題であり、同時に日本社会・日本経済全体の問題です。

注:この課題を解決する抜本対策は、支え手=働く人を増やし総人口に占める労働力人口の割合を増やす―増やせないまでもせめて維持する―しかありません。
少子化対策はもちろん大事ですが、今年産まれたこどもが支え手になるまでには20年かかりますから同時に足下の対策が必要です。元気な高齢者には働いてもらう、より多くの女性が普通に働けるようにする、若い世代をフリーターなどで無駄に使わないでちゃんとフルタイムで働いてもらう、ということです。
大きな視点で公的年金制度の持続可能性、財政の安定と老後の所得保障の両立を考えるのなら、雇用と年金をセットにした制度設計が是非必要です。現役の雇用と所得の保障が公的年金制度の安定とその人自身の老後保障につながるからです。
その意味で、雇用と年金をセットにした制度設計が是非必要です。「普通の人が普通に働いて普通に暮らせる」ために、雇用と年金は一体的に考えるということです。

「日本社会の課題」とか言って他所任せにして公的年金制度は自分では何も改革しないのか? もちろんそんなことはありません。
この「胸突き八丁」とも言うべき厳しい25年間を乗り切って公的年金制度を長期的に安定させるため、厚生労働省は2004年に大きな公的年金の制度改革を行い、4つの仕組みを導入しました。

これはもう、みなさん十分ご存じと思いますが、改めておさらいしておきます。
一つ目は上限を固定した上での段階的保険料の引き上げ、
二つ目は基礎年金国庫負担の2分の1への引き上げ、
三つ目は積立金の活用(計画的な取り崩し)、
そして四つ目は「マクロ経済スライドの導入」です。

保険料は段階的に引き上げられ、2017年に到達しました。もうこれ以上保険料は上がりません。つまり現役の負担は増えません。
基礎年金国庫負担2分の1は社会保障・税一体改革による消費税引き上げで恒久財源が確保され、実現されました。消費税は年金受給世代を含め全ての世代が等しく負担するものです。
積立金は今後元本・運用益を計画的に取り崩して年金給付に充てられます。
そして、2012(平成24)年の法改正で特例水準解消が行われ、マクロ経済スライド発動の条件が整いました。マクロ経済スライドは2015年度から機能しています。
制度改正後10年以上を経て、ようやく2004年改革フレームが完成したわけです。

次ページ:政権交代後民主党も認めた高性能の給付水準自動調整機能

ここから先はログインしてご覧ください。

香取 照幸(かとり てるゆき)/駐アゼルバイジャン日本国特命全権大使
東京都出身。1980年東京大学法学部卒業後、厚生省入省。年金局年金課課長補佐、埼玉県生活福祉部老人福祉課長、厚生省大臣官房政策課企画官(高齢者介護対策本部事務局次長)、厚生労働省政策統括官(社会保障担当)・内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)併任、年金局長、雇用均等・児童家庭局長などを経て2016年6月辞職。2017年3月より現職。著書に『教養としての社会保障』(東洋経済新報社)
年金時代