年金時代

香取 照幸(かとり てるゆき)/駐アゼルバイジャン日本国特命全権大使

第28回 マクロ・ミクロ両面から公的年金制度を考える その4(最終回) 

みなさんこんにちは。
本稿は外務省ともアゼルバイジャン大使館とも一切関係がありません。全て筆者個人の意見を筆者個人の責任で書いているものです。内容についてのご意見・照会等は全て編集部経由で筆者個人にお寄せ下さい。どうぞよろしくお願いします。

(承前)
さて、今回は「年金シリーズ」の最終回です。
前回は、オプション試算で示した「非正規労働者への被用者年金適用の拡大」についてお話ししました。
今回はその続き。オプション試算の第三、「保険料拠出期間の延長と受給開始年齢選択制の導入」についてお話しします。

平均寿命の伸長に合わせた現役期間=保険料拠出期間の伸長

前回、マクロ経済調整期間をできるだけ短くする、公的年金財政の長期的安定を早期に達成して給付水準の低下を回避するには「支え手を増やす」ということが大事、という話をしました。
さて、この「支え手を増やす」ですが、別の視点から考えてみましょう。

公的年金制度の基本構造はミクロでもマクロでも同じです。ミクロで考えると「現役のうちに引退後を含めた一生分の所得を確保する」ということですし、それを束にしてマクロで考えれば「現役世代が生んだ付加価値で引退世代に年金を給付する」ということになります。1人でやるか、社会全体でやるかだけの違いです。
人口が高齢化する、高齢者が増えるというのは、平均寿命が長くなった、一人一人が長生きするようになったことの結果に他なりません。とすれば、もし平均寿命(引退時点での平均余命)が10年伸長したとするなら、そのうちの何年かは働く期間にして引退年齢を後ろ倒ししなければ、ミクロで見てもマクロで見ても、これまでどおりの収支バランスは成り立たないことになります。

この約50年間に日本人の平均余命は10年近く伸びました。しかし就労期間はそれに見合って伸びていません。平均余命が伸びた分ほぼ老後期間が伸びているような状態です。

ミクロでバランスが取れれば、マクロでもバランスが取れます。平均余命の伸びに見合って就労期間を延ばすことでバランスを取ることができれば、マクロ経済スライドが適用された場合でも、調整期間が短くなって受給水準は維持されますし、そもそも年金制度加入期間が長くなりますから年金額もアップします。

スウェーデンでは、平均余命の伸びに対してどの位就労期間を延ばせば給付水準が維持できるかを表にして示しています。例えば1930年生まれと1995年生まれを比較し、65歳時点での平均余命は6年9ヶ月延びているので、引退年齢を4年4ヶ月延ばすとバランスする(給付水準が維持できる)、という具合です。

この話をすると、「なんだ、結局やっぱり支給開始年齢を引き上げるってことじゃないか」と言う人が出てきそうですが、そういうことではありません。
繰り返しますが公的年金は社会経済の縮図です。「平均寿命の伸長にあわせて働く期間を長くする」というのは社会全体の持続可能性を確保するためにも必要なことです。そのことを年金の側からみればこういうことになります、というだけのことです。
この話は「引退年齢をどう考えるか」と言うことで、本丸は言うまでもなく労働政策・雇用政策・労働市場政策です。雇用が保障されなければ就労期間を長くすることはできないし、就労期間を長くすることができなければ引退年齢を遅らせることはできません。公的年金の受給開始も動かすことができません。
なので、雇用政策と一体となった公的年金制度改革。これが是非必要です。「普通の人が普通に働いて普通に暮らせる」仕組み、雇用と年金は一体的に考えるということです。

引退年齢を遅らせることができれば、現役期間=年金加入期間=保険料支払期間が長くなります。そうすれば、当然その分年金額も高くなります。

オプション試算の結果によれば、同じ65歳支給でも、現行の「40年拠出モデル」を「45年拠出モデル」にして基礎年金の加入期間の上限(40年)を45年にするだけで、基礎年金額がその分高くなり、所得代替率は6%ポイント以上高くなります。

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香取 照幸(かとり てるゆき)/駐アゼルバイジャン日本国特命全権大使
東京都出身。1980年東京大学法学部卒業後、厚生省入省。年金局年金課課長補佐、埼玉県生活福祉部老人福祉課長、厚生省大臣官房政策課企画官(高齢者介護対策本部事務局次長)、厚生労働省政策統括官(社会保障担当)・内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)併任、年金局長、雇用均等・児童家庭局長などを経て2016年6月辞職。2017年3月より現職。著書に『教養としての社会保障』(東洋経済新報社)
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