年金時代

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員

第15回 元本確保型の反対語は「元本変動型」だと!?

確定拠出年金(DC)における運用商品の分類は、「元本確保型商品」と「それ以外の商品」に大別されるのが通例ですが、近年は、後者のことを「元本変動型」と称する雑誌やWebサイトが増えつつあります。およそ日本語の意味を知っていれば、到底使用すべきではないのですが……

DCの投資教育で近年目につく「元本変動・・型」という用語

確定拠出年金(DC)における運用商品の分類のうち、元本確保型商品(法令上の表記は「元本確保型の運用の方法」)は法令・通達等で明確に定義されているものの、元本確保型以外の商品についてはそうした定義が明確でないことから、「それ以外の商品」あるいは「投資信託等」と表記されるのが通例です。

ところが近年、後者を指すものとして元本変動型という用語が用いられつつあります。おそらく、元本確保型とは正反対のものであることを強調する観点から用いられているのでしょう。しかし、これが個人のSNSでのつぶやきであればまだ笑い話で済ませられますが、大手金融機関のパンフレットや、果ては著名なファイナンシャル・プランナー(FP)の記事でも多用されている現状を鑑みるに、業界のいち実務家としては看過できません。

値動きで変動するのは「元本」ではなく「価格(時価)」である

そもそも元本(がんぽん)とは何でしょうか。金融広報中央委員会のWebサイト「しるぽると」によれば、元本とは「金融商品の購入・投資に充てた資金の額。いわゆる元手」のことを意味します。

例えば、100万円で購入した投資信託が50万円に値下がりした場合、これを「元本が50万円に目減りした」と表するのは誤りです。元本とは最初の購入資金に充てた100万円のことであり、購入後に価格がどう上下しようが、最初に100万円で購入したという事実は変わりません。したがって、上記の状況は「価格(時価)が50万円に下がった」と表すべきです。元本は、投資家が意図的に資金の追加または取り崩しを行う場合のみに変動(正確には「増減」)します。

また、元本と時価を厳密に区分することは、資産運用のパフォーマンス(収益率)測定を行ううえでは大前提です。前述の100万円で購入した投資信託が50万円に値下がりしたケースでは、収益率はマイナス50%(=(時価50万円÷元本100万円)-1)となります。しかし、元本が50万円に目減りしたと認識してしまうと、収益率は0%(=(時価50万円÷元本50万円)-1)となってしまい、正確なパフォーマンス測定が困難になります。

いずれにせよ、「変動するのは価格(時価)である」というごく基本的な事実さえ認識していれば、「元本変動型」がいかに珍妙な日本語かをご理解いただけるかと思います。表層的な分かりやすさを優先するあまり、本質がおろそかになり却って理解を妨げてしまう典型的な事例ではないでしょうか。

【今回のまとめ】

「元本変動型」などという珍妙な用語を使用して恥じない金融機関やFPは、たとえ大手(あるいは著名)であっても、信用するに値しない!!

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員
厚生年金基金連合会(現:企業年金連合会)で約10年にわたり記録管理・数理・資産運用等の業務に従事。全労済協会などを経て、2010年りそな銀行入社。社会保険労務士、証券アナリスト(CMA®)、1級DCプランナー、DCアドバイザー。2015年より日本年金学会幹事。
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