年金時代

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員

第16回 最強のトンチン年金は「公的年金」なんだけどね

「人生100年時代」が喧伝されている昨今、「トンチン年金」タイプの個人年金保険が一部で流行しているようです。しかし、長生きリスクに備えるという意味では、もっと効率的な制度があることをご存じでしょうか?

「トンチン年金」ってナニ?

ここ数年、トンチン年金タイプの個人年金保険が相次いで開発され、売れ行きもそこそこ好調なようです。「トンチン」とは、契約者集団内で死亡者の持分を生存者に移転することにより、生存者により多くの給付を保障するという「死んだら掛け捨て&生き残った者勝ち」のしくみのことで、考案者であるイタリアの銀行家ロレンツォ・トンティ(Lorenzo Tonti)の名に由来しています。現代では「生存保障性」という意味で用いられることが多く、保険商品において「トンチン性を高める」と言う時は、一般的には死亡保障を少なくして生存保障を手厚くすることを意味します。

現在わが国で販売されているトンチン年金保険の商品設計をみると、70歳から年金受給を開始した場合、おおむね90歳以前に死亡してしまうと受取総額が払込保険料総額を下回るものの、90歳を超えて長生きすると受取総額が払込保険料総額を上回るのが一般的です。つまり、元を取るまでに約20年かかる計算になります。

公的年金は「トンチン年金+遺族・障害保障」という高機能ぶり!!

しかし、わが国には、長生きリスクに備える上でじつに高機能な制度があることをご存じでしょうか? じつは、公的年金こそ最強のトンチン年金と言っても過言ではありません。

公的年金は長生きリスクに備える保険なので損得計算は適切ではありませんが、例えば、現在の国民年金保険料1万6,900円(月額)を40年間毎月納めた場合の保険料払込総額811万2,000円と、保険料を40年間納めた場合の年金月額6万4,941円(平成30年価格)を比較すると、なんと10年5か月で元が取れる計算になります。仮に、年金額が2割減額(月額5万1,953円)されたとしても、13年1か月で元が取れる計算です。さらに、公的年金には老齢給付だけでなく遺族・障害給付も組み込まれており、その商品性の高さはトンチン年金保険とは比べものになりません。

公的年金がこれだけ効率的なのは、国庫負担(税金)が投入されていることもありますが、全国民をまとめて強制加入させるため、一部の層(長生きする自信のある層)だけがこぞって加入する民間の個人年金保険よりも保険料水準が低くなることも大きな要因です。つまり、終身給付を提供するなら強制加入の公的年金が最も効率的なのです。逆に、終身給付を提供しない公的年金など、民業(企業年金&個人年金)圧迫以外の何者でもないと思うのは、私だけでしょうか。

 

今回のまとめ

公的年金を無視してトンチン年金保険だけで「人生100年時代」に備えようとするのは、じつにトンチンカンな行為である!!

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員
厚生年金基金連合会(現:企業年金連合会)で約10年にわたり記録管理・数理・資産運用等の業務に従事。全労済協会などを経て、2010年りそな銀行入社。社会保険労務士、証券アナリスト(CMA®)、1級DCプランナー、DCアドバイザー。2015年より日本年金学会幹事。
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