年金時代

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員

第17回 日本の指数改善にみる、グローバル年金ランキングの「限界」

当コラムでも以前(第8回第9回)取り上げた某外資系コンサル会社公表の「グローバル年金指数ランキング」ですが、今年(2018年)のランキングでは日本の指数に改善傾向がみられました。しかし、このランキングにおける順位上昇と実際の年金制度の改善とはあまり関係が無いようで……。

日本の年金制度は改善している!?

2018年10月22日、外資系コンサルティング会社のマーサーとオーストラリア金融研究センター(ACFS)は、「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数」の2018年ランキングを発表しました。ランキング首位はオランダで、2012年より6年連続で首位を堅持したデンマークを僅差で抑えて、7年ぶりに首位に返り咲いています。

<参考リンク>
・マーサー「グローバル年金指数ランキング」(2018年度)を発表 日本の年金制度は34ヵ国中29位https://www.mercer.co.jp/newsroom/2018-global-pension-index.html

このランキングの問題点は当コラムでも過去(第8回第9回)に取り上げていますが、日本はこのランキングでは毎年下位に低迷せざるを得ない面があるため、結果が公表されるたびに「日本の年金制度は欠陥だらけ」、「東南アジアや南米の新興国よりも下位だなんて……」といった論調が幅を利かせているのが現状です。

ところが今年の日本は、名目上の順位こそ29位ですが、前年(2017年)に比べると相対順位(30ヵ国中29位→34ヵ国中29位)および総合指数(43.5→48.2)が上昇するなど、いくぶん改善傾向がみられます。とりわけ、持続性指標の中で最もウエイトの大きい「労働力人口に占める私的年金の加入割合」が2.7点から5.5点へ倍増(評価項目は10点満点)していることが、最大の改善要因となっています。

OECDの統計に大きく依存している実態

しかし、わが国の私的年金(企業年金・個人年金)の適用割合は、ここ1・2年でそんなに急増したのでしょうか? 考えられるのは、2017年1月から加入対象が拡大された個人型確定拠出年金(iDeCo)の影響です。iDeCoの加入者数は、2018年8月末時点で100万人の大台を超えたものの、確定給付企業年金の901万人(同年3月末時点)や企業型確定拠出年金の686万人(同年7月末時点)に比べると、まだまだ及ばない水準です。わが国の私的年金の適用割合拡大の要因をiDeCoだけに求めるのは、無理があります。

ところが、このランキングの詳細レポートには、日本の改善要因として「OECDの統計による・・・・・・・・・・年金制度の適用範囲の拡大」との記述があります。じつはこのランキングでは、年金制度を評価するための各種指標のほとんどをOECD(経済協力開発機構)の各種統計に依存しています。しかし、OECDのGlobal Pension Statistics(グローバル年金統計)は、国や項目によって網羅されているデータがまちまちで、網羅性や正確性を疑問視する声もかねてからあります。

今回のランキングでわが国の私的年金の適用割合が上昇したのは、わが国の私的年金の適用状況がOECDの統計にようやく反映されたことが背景にあるものと考えられます(2016年から反映)。つまり、このランキングでは、いくら私的年金制度を実際に整備したところで、それがOECD統計に反映されていないと「無かったもの」として取り扱われるようです。まあ、これはマーサー社側だけの問題ではなく、実態をきちんと統計に反映しないOECD側にも問題があるのですが……。

しょせんは「分析コラム」、斜め読みするのが正しい遊び方

以上の通り、このランキングの本質は、各国の状況を精緻に調査した「学術調査」というよりも、国際統計から数字を大雑把に拾って整理した「分析コラム」であると筆者は考えます。しかし、多種多様な項目をできるだけ網羅しようとする製作者の本気度がうかがえる、良質なコラムに仕上がっています。よって、「好きな芸能人ランキング」や「ベストジーニスト」などと同様、グローバル年金ランキングも「おっ、今年はこんな感じか~」と斜め読みしながら楽しむのが、大人の流儀というものです。

 

今回のまとめ

仕事も遊びも本気で嗜むのが大人の流儀だが、グローバル年金ランキングごときで「日本の年金制度は終わっている!!」と本気で目くじらを立てる学者・専門家は、無粋の極みと言わざるを得ない。

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員
厚生年金基金連合会(現:企業年金連合会)で約10年にわたり記録管理・数理・資産運用等の業務に従事。全労済協会などを経て、2010年りそな銀行入社。社会保険労務士、証券アナリスト(CMA®)、1級DCプランナー、DCアドバイザー。2015年より日本年金学会幹事。
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