年金時代

稲田 耕平(いなだ こうへい)/特定社会保険労務士、稲田社労士事務所・東京管理協会代表

第1回 なぜ、健康経営の機運は高まっているのか

従業員の健康づくりをどのように取り組むのか。生産性向上や企業イメージの改善をどう進めるのか。経営者が課題としてとらえているこうした事柄は、「健康経営」の実践が大きな手立てとなります。しかし、具体的に健康経営をどう行ったらよいのか、迷っている経営者は少なくありません。これまで、経営者の身近な相談相手となってきた社会保険労務士は、健康経営の普及と推進に関しても重要な役割を担える専門家です。本連載では、特定社会保険労務士で東京商工会議所の健康経営アドバイザーの資格をもつ、稲田耕平さんに、健康経営とその具体的な取り組みについてご紹介いただきます。

はじめに

企業規模に関係なく事業の継続的発展を望むならば、従業員の健康保持増進を積極的に取り組んでいかなければならない時代となっています。その取り組みを後押しする施策の一つとして「健康経営」がクローズアップされてきています。

WHO(世界保健機関)では、「労働者の健康なくしてビジネスの繁栄はない」として、世界健康職場モデルを提唱しています。このモデルでは、健康的な職場の構成要素として、物理的な職場環境や心理社会的な職場環境とともに個人の健康資源、地域との共生も位置づけています。まさに、これからの企業経営には、従業員一人ひとりが健康で、イキイキと働き生産性を高めることが可能と言える健康経営は必要不可欠と言えます。

「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。

健康経営とは

日本の健康経営の先駆者と言える「特定非営利活動法人 健康経営研究会」は、健康経営について、次のように定義しています。「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することを意味しています。

従業員の健康管理・健康づくりの推進は、単に医療費という経費の節減のみならず、生産性の向上、従業員の創造性の向上、企業イメージの向上等の効果が得られ、かつ、企業におけるリスクマネジメントとしても重要です。

職場環境と従業員の健康との関係

1日24時間のうち、職場に関連する時間は8時間以上です。起きている時間で例えるならば、半分以上は職場環境と密接な関係にあります。まさに、職場環境が従業員の健康状態に多大な影響を与えると言っても過言ではありません。

例えば、毎日のように時間外労働が続き、また、休日出勤が多く発生すれば、こころも身体も疲弊し、活力や労働生産性は低下することでしょう。そこに、ハラスメント等の職場の人間関係の悪化が加われば、メンタルヘルス不調の原因にもなり、長期間の休職、ひいては退職につながることも考えられますし、一番あってはならない過労死や過労自殺につながりかねません。それは、企業にとっても従業員やその家族にとっても、悲しい結末が待っています。

実際、このような職場環境で働き続けていると、「自分は会社に大切にされていない」と感じ、帰属意識も徐々に失われていくことなることでしょう。

ここで、職場環境・業務内容と健康の関係性について一例を挙げてみましょう。

私の顧問先企業でヒアリングしたところ、パソコンを長時間使用するIT関連業種や長時間同じ状態で勤務する長距離運転手では、肩こりや腰痛、眼精疲労を慢性的に抱えていたり、交代制勤務等の不規則勤務の人、人の生命に関係する大変ストレスの多い医療従事者や介護従事者は、喫煙・飲酒等の生活習慣に問題を抱えていたりする従業員が、多数存在することを確認しています。

まさに経営者は、少なくとも健康診断やストレスチェック等を実施し、健康障害リスクと職場環境との関連性を確認し、早急に職場環境を見直していかなければいけません。

一昔前の企業(特に中小企業に多く見られる)では、従業員の健康管理について、自己責任だとか、法令に基づく最低限の義務を果たせばよいとか、福利厚生の一環として行えばよいとかの認識でいることが少なくありませんでした。しかし、企業の継続的発展を望むならば、10年先、20年先を見据えて、経営的な視点かつ戦略的に、企業の利益追求と従業員の健康増進の両立をめざす覚悟が必須と言えるでしょう。

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稲田 耕平(いなだ こうへい)/特定社会保険労務士、稲田社労士事務所・東京管理協会代表
健康経営アドバイザー制度の構築に関与し、「健康経営」を中小企業へ普及することをライフワークとしている。東京都社会保険労務士会 健康経営・働き方改革推進本部健康企業育成WG座長、東京商工会議所 健康経営アドバイザー制度支援WG社労士チームリーダーほか。
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