年金時代

第4夜 第4回年金部会「被用者保険の適用拡大」、第5・6回「雇用の変容と年金」の議論を巡って その1

店主:権丈善一(けんじょう・よしかず)慶應義塾大学商学部教授。社会保障審議会年金部会委員、同部会年金財政における経済前提に関する専門委員会委員。社会保障制度改革国民会議委員など歴任。

常連客:坂本純一(さかもと・じゅんいち)JSアクチュアリー事務所代表。厚生労働省年金局数理課長として2004年(平成16年)年金制度改正を担当。

新規来店客:藤森克彦(ふじもり・かつひこ)日本福祉大学福祉経営学部教授、みずほ情報総研主席研究員。第38回日本年金学会総会・研究発表会のシンポジウムで「厚生年金の適用拡大」について研究報告。

店員:年金時代編集部

今回の「居酒屋ねんきん談義」では、第4回から第6回の年金部会の資料をつまみとして、店主の権丈善一氏、常連客の坂本純一氏、そして、雇用と年金の専門家、藤森克彦氏も加わり、ねんきん談義に大いに花を咲かせていただきました。
● 第4回「被用者保険の適用拡大」(9月14日)
● 第5回「雇用の変容と年金(主として高齢期の就労と年金に関して)」(10月10日)
● 第6回「雇用と変容と年金(高齢期の長期化、就労の拡大・多様化と年金制度)」(11月2日)

居酒屋で談義する左から権丈氏、坂本氏、藤森氏(撮影協力:番屋 神田駅前店)

 

第4回年金部会「被用者保険の適用拡大」を巡って

厚生年金の適用拡大の大切なこと①基礎年金の給付水準を上げる

権丈:まずは、「被用者保険の適用拡大」についてです。ここは、10月26日に開催された日本年金学会のシンポジウムにおいて、厚生年金の適用拡大について研究発表された藤森さんにお願いすることにしましょう。

日本年金学会は2018年10月26日にシンポジウム「2019年財政検証に向けて」を開催した。シンポジウムのオーガナイザーは「居酒屋ねんきん談義」の権丈店主、今回の「居酒屋ねんきん談義」のお客さん藤森さんは「労働力減少社会における公的年金の進むべき方向性―「厚生年金の適用拡大」をめぐって―」で、また、常連客の坂本さんも「保険料拠出期間の延長と繰下げ増額支給の活用」を研究発表。ちなみに、前回のお客さん玉木さんも「「長生きリスク保険」としての公的年金の再認識」を発表。「居酒屋ねんきん談義」、人材豊富です(笑)!

藤森:厚生年金の適用拡大では、大切なことが2つあります。1つは、あまり知られていませんが、適用拡大によって基礎年金の給付水準が上がっていくことです。これまで公的年金保険制度の大きな課題として議論されてきたのは、マクロ経済スライドによって基礎年金の給付水準が低下していくことでした。しかし、適用拡大を行えば、基礎年金の給付水準が上昇していきます。これは、現在の公的年金の抱える課題への対応として、非常に重要です。

前回の財政検証においてもオプションⅡの②は、月収5.8万円以上の全ての被用者を適用拡大の対象として試算をしています。この場合の適用拡大の対象者は1,200万人に拡がり、基礎年金の所得代替率が7.3ポイントも高まるのですね。これはかなり大きな上昇です。

●適用拡大による基礎年金の給付水準の上昇

出所:藤森氏が日本年金学会のシンポジウムで使用したスライド「労働力減少社会における公的年金の進むべき方向性―「厚生年金の適用拡大」をめぐって―」(2018年10月26日 日本福祉大学/みずほ情報総研 藤森克彦)より。

編集部:なぜ適用拡大によって基礎年金の給付水準が上昇するのでしょうか。

藤森:まず、適用拡大によって、第1号被保険者であった短時間労働者が、第2号被保険者に移っていきますので、第1号被保険者が減少します。一方、国民年金積立金は、第1号被保険者が第2号被保険者に移っても、厚生年金に移管されるわけではないので、第1号被保険者の「一人当たりの国民年金積立金」が増加し、給付水準を下支えする積立金効果が大きくなります。その結果、マクロ経済スライドによる調整期間が早期に終了し、将来の基礎年金の所得代替率が上昇していくことになります。最近では、年金局は次のような資料をつくっているようです。

●適用拡大が基礎年金水準に与える効果

出所:第4回社会保障審議会年金部会2018年9月14日資料1「被用者保険の適用拡大について」厚生労働省年金局。

編集部:年金学会では、こうした基礎年金の給付水準上昇は「世代内の所得再分配」を強化することにつながると言っていましたが、これはどういうことですか。

藤森:先ほど申し上げた通り、第一段階として、適用拡大によって基礎年金の給付水準が上昇していきます。そして、第二段階として、厚生年金においては、基礎年金の給付水準の上昇を前提にして、報酬比例部分の財政均衡を行うことになります。なぜなら、厚生年金の保険料は固定されているので、基礎年金の給付水準が増加した分、報酬比例部分に振り向ける財源を減らさなくてはならないためです。その結果、報酬比例部分のスライド調整期間は伸び、給付水準は低下します。厚生年金の被保険者にとっては、基礎年金が増えて報酬比例部分が減るので、再分配効果がより強く発揮されることになりますね。

ここでお示ししたいのが、2017年のユース年金学会における権丈研究会の発表レジメです。これは「基礎年金の給付額上昇による世代内の所得再分配」を表したもので、横軸は月額賃金で、縦軸は右が「年金月額」、左が「所得代替率」となっています。適用拡大が進むと、低所得者の年金月額が上がり、かつ所得代替率も上がっていきます。一方、高所得者では、年金月額が下がり、かつ所得代替率も下がっていきます。「世代内の所得再分配機能」が強化されることが示されています。

●基礎年金の給付額上昇による世代内の所得再分配

出所:「労働力減少社会における公的年金の進むべき方向性―「厚生年金の適用拡大」をめぐって―」(2018年10月26日 の日本福祉大学/みずほ情報総研 藤森克彦)より。

藤森:なお、シンポジウムにおいて、会場から「国民年金から厚生年金に移動した被保険者の積立金は、厚生年金保険の積立金にしていくべきだという考え方もある。そうなったら、基礎年金の給付水準は高まらないのではないか」というご質問がありました。そのときには、きちんとお答えできなかったのですが、私は「厚生年金に移動した被保険者の積立金は、厚生年金の積立金にしていくべき」という考え方は妥当ではないと考えています。ひとつは、国民に共通の基礎年金の給付は国民全体で支えていくという理念が重要なのだということです。この点は、事業主にご理解いただきたい点ですね。

そして、もう1つは、いまは転職が珍しくない時代ですので、第1号被保険者が第2号被保険者になったり、あるいは第2号被保険者が第1号被保険者になったりということが、以前よりも頻繁に起こるようになりました。現在、企業で働く従業員も、フリーランスになったり、農業を始めたりして、第1号被保険者になるかもしれません。とすれば、基礎年金の給付水準を高めていくことは、第2号被保険者から第1号被保険者になった従業員が、高齢期に貧困に陥ることを予防することにつながります。広い目でみれば、従業員の高齢期の防貧機能の強化に合致するものだと思います。

権丈:もっと即時的な話をすると、積立金を国民年金に残しておくと、国庫負担が増えるというかたちで、実は元がとれる。だから、被用者にとっては保険料が上がらないまま、給付が増える。これに、だれが反対するの、いいんじゃないのそれっていう世界の話なんだよね。

坂本:自営業の人の子どもがサラリーマンになったりすると、厚生年金保険は自営業者の子弟によって支えられてきたことになりますから、国民年金に積立金を残しておくことは、ひとつのお礼として置いていくという理解はできるのではないかと思います。

権丈:1985年のときに基礎年金制度ができて、財政調整してもいいという理由はそこにあったわけですよね。結局、サラリーマンになっていくにしても、自分の親は国民年金にいるという状況なわけですから。

坂本:主に農業から移動して行ったわけですよね。

藤森:親が国民年金にいるということからも、「国民に共通の基礎年金の給付は国民全体で支えていく」という理念が重要ですね。

ところで、基礎年金の給付水準が高まると、基礎年金の財源の半分は国庫負担ですので、国庫負担も増えます。では、それをどうやって賄うのかということが大きな課題になります。私は、厚生年金の適用拡大は、医療保険における国民健康保険の加入者を被用者保険に移すこととセットで行われるので、この部分の財源を活用できるのではないかと考えています。というのは、厚生年金の適用拡大に伴って、国民健康保険の加入者は減少することになります。そして、国民健康保険の財源には国庫負担が投入されていますので、国民健康保険の加入者が減少すれば、国民健康保険の国庫負担も減少することになります。そこで、基礎年金の給付水準上昇に伴う国庫負担の増加分は、国民健康保険の国庫負担の減少分で相殺することが一案として考えられます(下記図表参照)。

●基礎年金の給付水準上昇に伴う、国庫負担の上昇をどう賄うか?

出所:「労働力減少社会における公的年金の進むべき方向性―「厚生年金の適用拡大」をめぐって―」(2018年10月26日 の日本福祉大学/みずほ情報総研 藤森克彦)より。 

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