年金時代

第4夜 第4回年金部会「被用者保険の適用拡大」、第5・6回「雇用の変容と年金」の議論を巡って その2

店主:権丈善一(けんじょう・よしかず)慶應義塾大学商学部教授。社会保障審議会年金部会委員、同部会年金財政における経済前提に関する専門委員会委員。社会保障制度改革国民会議委員など歴任。

常連客:坂本純一(さかもと・じゅんいち)JSアクチュアリー事務所代表。厚生労働省年金局数理課長として2004年(平成16年)年金制度改正を担当。

新規来店客:藤森克彦(ふじもり・かつひこ)日本福祉大学福祉経営学部教授、みずほ情報総研主席研究員。第38回日本年金学会総会・研究発表会のシンポジウムで「厚生年金の適用拡大」について研究報告。

店員:年金時代編集部

あけましておめでとうございます。今年も「居酒屋ねんきん談義」をよろしくお願いします。

さて、新春の「居酒屋ねんきん談義」は、「第4夜 第4回年金部会「被用者保険の適用拡大」、第5・6回「雇用のの変容と年金」の議論を巡って その2」といたしまして、昨年開催された第5回および第6回の年金部会の資料をつまみとして、店主の権丈善一氏、常連客の坂本純一氏、そして、雇用と年金の専門家、藤森克彦氏も加わり、ねんきん談義に大いに花を咲かせていただきました。

●第5回「雇用の変容と年金(主として高齢期の就労と年金に関して)」(10月10日)
●第6回「雇用と変容と年金(高齢期の長期化、就労の拡大・多様化と年金制度)」(11月2日)


居酒屋で談義する左から権丈氏、坂本氏、藤森氏(撮影協力:番屋 神田駅前店)

第5・6回年金部会「雇用の変容と年金」を巡って

「支給開始年齢」「受給開始可能期間」「受給開始時期」の概念整理で改正議論をブレさせない

編集部:年が明けてしまったようですが、「被用者保険の適用拡大」に続きまして、「雇用の変容と年金」をテーマにご談義いただきたいと思います。このテーマにつきましては、年金部会では第5回、第6回で検討しています。
そこで、年金局が部会に提出した資料を見ますと、第5回では、平均寿命が延びてきたことで、高齢期が長くなってきたことが示され、第6回は、その高齢期において就労する人も増えてくるとともに、働き方も多様化してくる資料が提示されています。
年金部会はこのような議論の流れでしたが、「居酒屋ねんきん談義」では、この2回の部会での議論を踏まえて、第5回と第6回を行き来しながら幅広く「雇用の変容と年金」ということで、ご自由にご談義いただいて結構です。

権丈:そうであれば、まず一番は、11月2日の第6回年金部会に提出された資料1の最初にある「年金制度における「支給開始年齢」「受給開始可能期間」「受給開始時期」の整理」ですね。いつまで経っても支給開始年齢と受給開始年齢の違いがわからない学者、いつまで経っても支給開始年齢の引き上げを書くメディアに対して、厚労省は、もういい加減にしろよっと腹を立てて、この資料を作ってるんじゃないでしょうかね(笑)。年金局自身が、これまで受給開始年齢という言葉を、たとえば「60歳から70歳まで受給開始年齢を選べることができます」というように使っていたのですけど、「受給開始年齢」は少しレベルが高い概念だったのか、学者をはじめ、理解できない人がずっといました。だから、年金局は「受給開始年齢」という言葉を使うのを止めて、これを「受給開始可能期間」と「受給開始時期」の2つに分けますよっ!と宣言した。僕は、2011年ぐらいから「支給開始年齢」と「受給開始年齢」という言葉を使い分けて、これで充分だろうと思っていたのですけど、世間は、思った以上に頭が悪かった(笑)。


出所:第6回社会保障審議会年金部会2018年11月2日資料1「雇用の変容と年金(高齢期の長期化、就労の拡大・多様化と年金制度)」厚生労働省年金局。

権丈:週刊誌なんかは、年金局は支給開始年齢の引き上げを目論んでいるって感じで記事を書けば、PVを稼げるし、読者達の怖いもの見たさで雑誌も売れるから書きたいんだろうけど、支給開始年齢の引き上げなんてバカなことはやるわけがないじゃないかって何度言えばいいのかですね。

参考:年金を75歳までもらえなくなるって本当?――日本は受給開始を自由に選択できる制度? (東洋経済オンライン)

藤森:私は2011年ごろに、権丈先生がお書きになられた「日本の公的年金制度は、実質的には60歳から70歳までの間での『受給開始年齢自由選択制』である」という文章を読み、とてもわかりやすい説明だと思いました。
重要なのは、60歳から70歳のどの年齢で年金の受け取りを始めたとしても、平均的な死亡年齢まで生きた場合の「年金給付総額(=年金月額×年金受給期間)」はほぼ同じになるように設定されている点ですね。つまり、65歳より早く受給を開始した場合、65歳からもらい始めた時に比べて、より長い期間、年金を受けとれるものの、年金月額は減額されてしまう。一方、65歳より後に受給を開始した場合は、年金の受け取り期間は短くなるけれども、年金月額は増額されます。換言すれば、年金財政としては概ねニュートラルであり、受給開始年齢を65歳よりも後ろにしたからといって、年金給付総額が減少するわけではありません。なお、「概ねニュートラル」と申し上げたのは、年金給付総額を推計するために設定した死亡率、スライド率、運用利回りは設定時点において最適な見通しとなっていますが、実際の実績はこの前提と少しずつ乖離していくことが考えられるためです。
増額された年金をもらいたければ、できる限り長く働いて、65歳よりも後で受給を始めるという選択肢があります。これは、とても大きいことです。講演会でこのことをお話しすると、「65歳よりも後でもらうようにして、65歳で亡くなったら、損するのではないか」と質問を受けることがあります。しかし、公的年金は保険です。「長生きしても何とか生活していける」という安心感をもちながら亡くなるまで暮らせたのならば、公的年金保険から効用を得ているといえるではないでしょうか。生涯無事故だった元ドライバーが、「自動車保険に入って損をした」と考えないのと同じです。

編集部:「受給開始年齢の選択」と「支給開始年齢の引き上げ」との違いをわかりやすくご説明いただけますか。

藤森:「支給開始年齢の引き上げ」は、自由選択ではなく、一律に受給開始年齢を65歳よりも後ろにするというものです。また、支給開始年齢の引き上げは、すでに年金を受給している高齢者の年金給付総額には影響しませんが、将来世代の年金給付総額を減らすことになります。
「支給開始年齢を引き上げるべき」と主張する人は、「年金給付総額が減少するので、少子高齢化によって厳しくなる年金財政を改善できる」と考えているのだと思います。しかし、日本はすでに「マクロ経済スライド」という少子高齢化の進展に合わせて年金給付総額を自動調整する仕組みを導入しています。しかもマクロ経済スライドは、将来世代のみならず、すでに年金を受給している高齢者の年金給付総額も調整していきます。マクロ経済スライドがあれば、支給開始年齢の引き上げは必要ないし、世代間の公平性という点からはマクロ経済スライドの方が優れていると言えるわけです。
こうした「受給開始年齢自由選択制」と「支給開始年齢の引き上げ」の違いを理解しないと、「年金局は支給開始年齢の引き上げを目論んでいる」という誤った見方をしてしまうのだと思います。

権丈:いつまで経ってもそうした誤解が解消できないから、年金局は怒っちゃって、用語を再定義するよっというセレモニーが必要だったんでしょう。

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