年金時代

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員

第18回 企業年金を含む「老後資産形成」に視野を広げた議論を

個人型確定拠出年金(iDeCo)やNISAの創設・普及により、国民の老後資産形成を支援するための制度や税制はかつてないほど充実してきました。その一方で、諸制度が乱立して細分化・複雑化しているとの指摘も聞かれるようになり、議論は私的年金(企業年金・個人年金)にも波及しつつあります。

企業年金・iDeCo・NISAに共通の「非課税貯蓄枠」を検討

政府税制調査会(政府税調)では、近年、経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方を議論する中で、私的年金を含めた「老後の生活に備えるための自助努力を支援する公平な制度のあり方」について言及を重ねています。この背景には、企業年金を含めた老後資産形成に関連する諸制度は、就労形態や制度によって利用可能対象が一部の層に限定されていたり、同じ制度内でも非課税枠が異なる場合があるため、個人の働き方やライフコースに影響されない制度・税制の構築が必要との問題意識があるものと推察されます。

2018年10月23日に開催された第19回税制調査会(総会)では、老後資産形成のための手段(企業年金、中小企業退職金共済、iDeCo、国民年金基金、年金財形、NISA、個人年金保険etc.)について、細分化された諸制度のあり方を総合的に検討する方針が示されたほか、諸制度に共通の非課税貯蓄枠を設ける「日本版IRA」「国民退職所得勘定」の検討も併せて提唱されました。

老後の備え等に対する自助努力(資産形成)への主な支援措置の現状

(出所)第19回税制調査会(2018年10月23日開催)資料[総19-3]p.13より抜粋。

今般の政府税調における議論は、ともすると私的年金課税と金融所得課税とで別箇に議論されがちだったテーマを、「老後資産形成」という観点から総合的・包括的に検討する方針を打ち出した点では、大変意義のあるものとなっています。また、既存の諸制度間のバランスに配慮しつつ、まずは制度の統廃合ではなく非課税枠の統合を目指すという方向性も、高く評価することができます。

社会保障審議会「企業年金部会」が「企業年金・個人年金部会」へと改組

上記の流れを受けたかどうかは定かではありませんが、企業年金に関する政策議論の場である社会保障審議会企業年金部会は、本年から社会保障審議会企業年金・個人年金部会へと改組されます(出典:第7回社会保障審議会年金部会資料(資料4))。同部会の事務局である厚生労働省年金局企業年金・個人年金課は2017年1月に企業年金国民年金基金課から改称しており、今般の改組からは、同部会における議論の対象が企業年金の枠内に留まらず、個人年金を含めた私的年金ひいては老後資産形成全般のあり方に波及することが想起されます。

一方で、議論の対象が拡大することにより、企業年金を他の制度よりも税制上優遇することの根拠が改めて問われることになります。企業年金は文字通り企業単位で導入されるのが通例で、大企業の正社員が利用者の大半を占めている実態があります。中小企業に勤める従業員や非正規従業員、さらには自営業者など広く国民全体に老後資産形成の支援の道を拓く観点からは、企業年金ありきで考える必然性はもはや無いのかもしれません。

しかし、今後議論されるであろう「公的年金と私的年金の役割分担のあり方」や「拠出・運用・給付の各段階を通じた体系的な課税のあり方」等のテーマは、企業年金の分野では半世紀以上前から検討・議論されています。先ほど「企業年金ありきで考える必然性は無い」と書きましたが、逆に、老後資産形成を論じる上では企業年金の管理・運営で培われてきた経験・ノウハウが欠かせないことだけは確かです。いずれにせよ、政府税調や企業年金・個人年金部会においては、諸制度の歴史的な成り立ちや性格・役割を無視した単純なイコールフッティング(equal footing:条件の同一化)論ではなく、骨太かつ本質的な議論が展開されることを期待します。

 

今回のまとめ

そのうち当コラムも、「企業年金ABC」から「私的年金ABC」あるいは「老後資産形成ABC」に改称する日も近い!?

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員
厚生年金基金連合会(現:企業年金連合会)で約10年にわたり記録管理・数理・資産運用等の業務に従事。全労済協会などを経て、2010年りそな銀行入社。社会保険労務士、証券アナリスト(CMA®)、1級DCプランナー、DCアドバイザー。2015年より日本年金学会幹事。
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