年金時代

稲田 耕平(いなだ こうへい)/特定社会保険労務士、稲田社労士事務所・東京管理協会代表

第4回 健康経営の導入事例(その1)

第1回目「なぜ、健康経営の機運は高まっているのか」では定義や背景等を、第2回目「健康経営を応援する制度とメリット」ではさまざまな健康経営に関する制度等、健康経営に関する総論を解説させていただきました。第3回目「健康経営の実践~中小企業での取り組み例と健康経営アドバイザー~」では中小企業が健康経営に取り組む5つのSTEP、健康経営アドバイザー、各種専門家による連携等を解説させていただき、実践への一歩として何をすればよいのかご理解いただけたかと存じます。さて第4回目は、より健康経営の企業への導入方法についてイメージしていただくために、「健康経営の導入事例」をご紹介いたします。

*「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。

従業員の多数が悪い健康状態であることが明らかに

今回ご紹介する健康経営を導入した会社は、埼玉県において戦後まもなく創業した金属加工の会社です。創業者から引き継いで現在は、息子である2代目の社長が会社の舵取りを行っています。従業員は男性15名、女性2名の合計17名(すべて正社員)で会社を運営しています。

従業員の年齢層は、40~60歳代が多く慢性的に体調不良を訴える者が多く、このままでは将来への不安があるため、若い世代の採用を積極的に図っています。しかし、加工や組み立ての業務は地味なイメージがあり、現在の売り手市場を反映し、ハローワークや求人誌に求人募集を掲載しても応募ゼロの状態が1年間続いていました。

そこで、社長は以前から課題に感じていた従業員の方々の健康状態を確認することにしました。改めて従業員の定期健康診断の結果を精査してみたところ驚きの連続で、よく今まで平気で経営を行っていたなぁと社長自ら反省したそうです。テレビ等で知ってはいましたが、メタボ傾向の者が多く、血圧、コレステロール、血糖値の数値が悪化している状況でした。

社労士とともに課題を把握

そこで社長は、日頃、「企業の健康」について相談にのってもらっているA生命保険会社の田中さん(健康経営アドバイザー)に相談しました。田中さんは現状把握のため、社長にヒアリングしたところ、多くの問題点が見られたので、健康経営エキスパートアドバイザーであり、社会保険労務士でもある鈴木先生を紹介しました。

社会保険労務士の鈴木先生と社長は、再度、現状を把握・分析し、従業員からアンケートも実施して、さまざまな問題点を浮き彫りにしました。例えば、健康状態の悪化の原因の一つに、工場勤務のため体を動かす機会がないこと、また、公共交通機関がないため従業員全員が自動車またはバイクで通勤しており、一日の歩数は2,000歩程度の状況で、明らかに運動不足の傾向が見られました。アンケート結果によると、プライベートにおいても運動習慣がないとのことでした。

定期健康診断の結果を精査したところ、メタボに該当する者が40%を超え、高血圧や高血糖に該当しているにもかかわらず、要治療のものは1名のみでした。また、一部の従業員においては、業務中にボーッとしていることが多く、ミスが目立っている実態も見えてきました。

これでは、生産性も低くなり業績にも影響しますし、危険な機械を使用し作業を行うことも多いので、社長は不安になり個別面談をしたところ、業務中のミスは、肥満による睡眠障害(寝不足)が原因となっていることも判明しました。

次ページ:いよいよ健康経営の取り組みへ。

ここから先はログインしてご覧ください。

稲田 耕平(いなだ こうへい)/特定社会保険労務士、稲田社労士事務所・東京管理協会代表
健康経営アドバイザー制度の構築に関与し、「健康経営」を中小企業へ普及することをライフワークとしている。東京都社会保険労務士会 健康経営・働き方改革推進本部健康企業育成WG座長、東京商工会議所 健康経営アドバイザー制度支援WG社労士チームリーダーほか。
年金時代