年金時代

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員

第19回 意外とあいまい!? 私的年金の定義とは?

企業年金に関する政策議論の場であった社会保障審議会企業年金部会が本年(2019年)から「企業年金・個人年金部会」に改称されるなど、私的年金(企業年金・個人年金)のあり方に関する議論が今後ますます活発になることが予想されます。ところで、そもそも「私的年金」って何を意味する用語なのでしょうか?

私的年金 = 公的年金以外・・の年金

前回(第18回)もお話した通り、昨年から今年にかけて、政府税制調査会(政府税調)や社会保障審議会企業年金・個人年金部会において、私的年金を含めた老後資産形成あるいは引退後所得保障に関する議論が白熱しつつあります。

ところで、この「私的年金」という言葉、一般的には公的年金以外の年金(企業年金・個人年金)全般を指す用語だとされています。しかし、中には「わが国の年金制度は一般に公的年金、企業年金及び私的年金に区分されている」だの、あるいは「私的年金とは、生命保険契約、生命共済に関する契約に基づく年金」などの誤用も散見されており、人や団体によって定義が曖昧に用いられています。

OECD(経済協力開発機構)の「Private Pensions: OECD Classification and Glossary」によると、私的年金の定義は「一般政府以外の機関が管理する年金制度」とされており、企業(職域)年金と個人年金は私的年金に内包されていることがうかがえます。

私的年金制度の分類

(出所)「Private Pensions: OECD Classification and Glossary」p.15を基に、筆者翻訳。

 

企業年金・個人年金部会が取り扱う「私的年金」の範囲は、意外と狭い!?

2019年2月から社会保障審議会企業年金部会が社会保障審議会企業年金・個人年金部会へと改組されたことにより、同部会における議論の対象が「企業年金」だけでなく「個人年金」を含めた「私的年金全般」へと波及する──と筆者は前回のコラムで書いたのですが、ひとつ大きな点を見落としていました。そもそも同部会では、議論の対象である企業年金・個人年金の範囲をどのように位置付けているのでしょうか?

社会保障審議会企業年金・個人年金部会運営規則(平成31年2月22日改正)には具体的な記載は見当たりませんでしたが、同部会の事務局を務める厚生労働省年金局企業年金・個人年金課(2017年1月に改称)の所管事務は、厚生労働省組織令(平成12年政令第252号)にて次の通り規定されています。

(企業年金・個人年金課の所掌事務)
第百二十八条 企業年金・個人年金課は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 確定給付企業年金(企業年金連合会を含む。次号において同じ。)及び石炭鉱業年金基金並びに確定拠出年金及び国民年金基金に関する制度の企画及び立案に関すること。
二 確定給付企業年金及び石炭鉱業年金基金並びに国民年金基金に関する制度の数理に関すること。
三 石炭鉱業年金基金及び国民年金基金に対する監督及び助成に関すること。
四 確定給付企業年金事業(企業年金連合会の事業を含む。)及び確定拠出年金事業に関する監督に関すること。

つまり、同課ひいては同審議会がつかさどる「個人年金」の範囲には、国民年金基金と個人型確定拠出年金(iDeCo)しか含まれておらず、個人年金の代表格である個人年金保険などは議論の対象外となる恐れがあります。さらには、同じ厚生労働省(雇用環境・均等局)が所管しているにもかかわらず、中小企業退職金共済(中退共)や財形年金貯蓄(年金財形)も議論の埒外とされる公算が大きいでしょう。しかし、一昔前ならともかく、現在ではNISAやつみたてNISAなどの制度が数多く存在しており、これらの制度との関係性を考慮せずに私的年金のあり方を論じるのは適切ではないと考えます。

ともあれ、企業年金・個人年金部会の委員各位には、そうした所管分野の壁に臆することなく、私的年金ひいては老後所得保障全般のあり方について、骨太かつ本質的な議論を展開していただきたいものです。

今回のまとめ

「私的」年金の定義があいまいな専門家・団体・Webサイトに対しては、間違いをどんどん「指摘」するべき!!

谷内 陽一(たにうち よういち)/りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員
厚生年金基金連合会(現:企業年金連合会)で約10年にわたり記録管理・数理・資産運用等の業務に従事。全労済協会などを経て、2010年りそな銀行入社。社会保険労務士、証券アナリスト(CMA®)、1級DCプランナー、DCアドバイザー。2015年より日本年金学会幹事。
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