年金時代

稲田 耕平(いなだ こうへい)/特定社会保険労務士、稲田社労士事務所・東京管理協会代表

第5回 ワーク・エンゲイジメントを高める

前回の「健康経営導入事例」により、中小企業の健康経営への取り組み等の流れをイメージしていただいたことと思います。さて第5回目は、健康経営の実践や健康経営優良法人認定をめざすうえで、知っておきたいキーワードについて解説します。

今回は、健康経営優良法人の認定基準にもあります「健康経営の実践に向けた基礎的な土台づくりとワーク・エンゲイジメント」のワーク・エンゲイジメントを取り上げます。

*「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。

生産性の高い職場は心の元気がカギ!

わが国における職場のメンタルヘルス不調の問題は、生産性向上やリスクマネジメントの視点からも、重点的に解決しなければならない課題です。

従来のメンタルヘルス不調対策は、うつ病などのメンタルヘルス不調の未然防止(第1次予防)、早期発見や早期対応(第2次予防)、メンタルヘルス不調により休業した従業員の適切な復職支援や再発予防(第3次予防)が行われています。第1次~第3次予防については「弱みを支え、治療や予防」に重きを置いており、これはこれで必要な対策です。しかし、少子高齢化が急速に進み、生産年齢人口が減少している状況では、高齢者、女性、障害者等の多様な人材が求められているとともに、各々の事情による仕事との両立の課題や、労働力の質の向上による生産性向上が求められています。以前から経営者の一部では、従業員の健康状態に配慮しすぎると、生産性は低下するのではないかと懸念されていることも実態として存在し、従業員の健康と経営は互いに協調することなく展開されてきた現状もありました。

そこで注目され始めているのが「健康度の高い従業員による生産性の高い職場づくり」の視点です。企業が継続していくためには、従業員一人ひとりが健康で、かつ、生き生きと仕事に取り組むことが重要です。まさに「心が元気で活力のある状態」に注目し、メンタルヘルス対策の活動範囲を拡大しつつあるということでしょう。

ワーク・エンゲイジメントとは何か?

日本の第一人者である、慶應義塾大学総合政策学部の島津明人教授は、ワーク・エンゲイジメントの考え方をわかりやすくまとめています。ワーク・エンゲイジメントは、下記の3つの要素から構成された複合概念であること、一時的な情動状態ではなく、持続した感情と認知によって特徴づけられるとしています。

また、ワーク・エンゲイジメントは、バーンアウト(燃え尽き)の対概念と位置づけられています。ワーク・エンゲイジメントを正確に理解するには、関連する他の概念との違いを知ることが必要です。

図表2のワーク・エンゲイジメントに関連する概念を解説します。

初めの概念は、「ワーカホリズム」との関係です。この概念は活動水準が高く、仕事に多くのエネルギーを注いでおり、この点はワーク・エンゲイジメントと共通していますが、図表3のとおりの特徴があります。

次の概念は、「バーンアウト」との関係です。ワーク・エンゲイジメントは、仕事への態度・認知が肯定的で活動水準が高いのに対し、バーンアウトは仕事への態度が否定的で活動水準が低い状態を言います。つまり、バーンアウトしている人は、仕事で疲れ切っていて「仕事するのはもう勘弁…」と思い、仕事への自信をなくし、そのため仕事で生き生きすることはできない状態です。「もっと仕事がしたい」と思えるワーク・エンゲイジメントとは対極の考え方をします。

最後の概念は、「職務満足感」との関係です。ワーク・エンゲイジメントも職務満足感も、仕事へ態度や認知はポジティブな側面を持ち合わせていますが、ワーク・エンゲイジメントが「仕事をしているときの自分」をとらえた感情や認知を指しているのに対して、職務満足感は「仕事や職場環境そのもの」に関するものを指しています。

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稲田 耕平(いなだ こうへい)/特定社会保険労務士、稲田社労士事務所・東京管理協会代表
健康経営アドバイザー制度の構築に関与し、「健康経営」を中小企業へ普及することをライフワークとしている。東京都社会保険労務士会 健康経営・働き方改革推進本部健康企業育成WG座長、東京商工会議所 健康経営アドバイザー制度支援WG社労士チームリーダーほか。
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