年金時代

田中 亮子(たなか あきこ)/特定社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー、栄養士

第2回 健康経営が求められる背景と健康経営の現状

連載第2回では、特定社会保険労務士・栄養士の資格をお持ちで、健康経営エキスパートアドバイザーでもある田中亮子さんにご登場いただきます。健康経営のニーズが高まっている社会的背景に関して、具体的な数字などを用いてご紹介いただくとともに、健康経営の現状や課題などについてご解説いただきます。

*「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。

健康経営が求められる背景

①生産年齢人口の減少と従業員の高齢化

健康経営が求められる背景の一つが、生産年齢人口の減少と従業員の高齢化です。日本が超高齢社会ということは皆さんご承知のとおりで、定年延長や従業員の再雇用制度により60歳を超えても働く環境の整備が行われてきましたが、65歳以上であっても健康で働ける環境を整えていくことの必要性が高まっています。

また、健康寿命と平均寿命の差異は、2016年の統計で男性は8.84歳、女性は12.35歳となっています。WHOでは、健康とは「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と定義しています。この中の社会的な健康には、社会的なつながりや社会的な役割があることが含まれています。よく定年して引退すると健康状態が悪化する人が多いという話を聞きますが、できるだけ長く“現役である”ということは、社会的健康を維持し、健康寿命の延伸にも効果的であるといえます。

 

②人手不足

厚生労働省の統計によると、日本の有効求人倍率は1993年度より1.0倍を下回り、2006年度~2007年度にいったんは1.0倍を多少は上回ったものの、その後、2013年度までは1.0倍を下回る状態が続いていました。しかし、2014年度に1.09倍と1.0倍を上回ってからは右肩上がりで、2018年度は1.62倍となり、1973年度以来45年ぶりの高水準となっています。

このことからも、労働市場で人手不足が発生していることがわかります。地方での人材不足は特に深刻で、著者が地方で健康経営の普及セミナーの講師を務めさせていただいた際、人材不足解消への効果のお話をすると、受講者の方々の関心が一気に高まることを実感します。

また、せっかく採用した従業員が、結婚・出産・育児・介護などさまざまなライフイベントで退職することになるリスクを最小化することが必要です。健康経営に取り組むことで従業員に寄り添う企業体制をつくることにより、従業員が働きやすい環境ができ、さまざまなライフイベントの際も両立して働き続けることを選択することが増え、従業員の定着につながります。

さらに、現在の若年世代は、就職先を選ぶポイントとして、福利厚生の充実や従業員の健康と働き方に配慮しているかを考慮しているという調査結果もあります。実際に「健康経営優良法人」を取得した企業からは、「求人に対する応募者が増えました」、「内定者の辞退がなくなりました」という求人に対する効果が一番大きかったという声を多く聞きます。

 

③国民医療費の増大

高齢化と医療の高度化により、国民医療費は年々増加しています。厚生労働省の発表では、2017年の国民医療費は43.7兆円で1990年の20.6兆円から倍増しています。この国民医療費はこのままでいくと、2025年には54兆円まで増加すると試算されています。現状のままでは、国や医療保険者の財政が逼迫し国民皆保険の維持が危ぶまれる状況です。現在の国民医療費の多くを占める生活習慣病は、発症する前の現役世代から予防に取り組むこと、または発症してしまっても早めに対処して重症化を防ぐことが重要です。

健康経営に取り組むことは、企業が負担する健康保険料の負担を抑えるだけでなく、従業員とその家族の現在の健康や、高齢化した際の医療制度の維持をするという観点からも、大変有意義であるといえます。さらには、従業員が生き生きとして発想力が向上することでイノベーションの拡大や生産性の向上により、企業の業績および企業価値の向上につながります。

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田中 亮子(たなか あきこ)/特定社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー、栄養士
株式会社いなだコンサルティング取締役、メープル社会保険労務士事務所代表。中小企業から大企業まで幅広い規模の会社の勤務経験を活かし、人事労務の相談や各種社会保険の相談に応じる。社労士と栄養士の2つの専門知識を活かし、顧客企業先の健康経営の推進サポートを行っている。
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