年金時代

谷内 陽一(たにうち よういち)/第一生命保険株式会社 団体年金事業部 課長

第21回 企業年金の次なる課題は「働き方改革」への対応

2019年12月25日に公開された「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」(以下「議論の整理」)を踏まえ、2020年3月3日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」)が国会に提出されました。ところで、今後の企業年金のあり方を考える上で重視すべきは、この「議論の整理」だけなのでしょうか?

私的年金の制度改正議論は一巡したが……

2019年12月に公表された「議論の整理」では、今後の私的年金(企業年金・個人年金)の制度改正の方針について、実務上対応可能な課題については早期に制度改正に着手する一方、「拠出時・給付時の仕組み」や「税制のあり方」などの根幹的な課題については引き続き丁寧に検討を継続するとの方向性を示しました。これを受けて、2020年3月3日に改正法案が閣議決定・国会提出されたことは、前回のコラムでお伝えした通りです。

ともあれ、私的年金の制度改正に関する議論はひとまず終息し、今後は、上記の改正法案の施行に係る実務的対応が求められます。

企業年金でも「働き方改革」への対応が必要に!?

ところで、改正法案が国会に提出されたとなると、私的年金のあり方について議論する機会は当面無いだろうと思われがちですが、ここにきて注目されつつあるのが働き方改革への対応です。

働き方改革と言うと、「時間外労働の上限規制」や「有給休暇取得の義務化」などが大きく取り上げられていますが、とりわけ企業年金・退職金では、高齢者の就業促進(定年延長・雇用延長等)および非正規雇用の処遇改善(同一労働同一賃金)の2点が大きく関わってきます。

前者については、現在国会に提出されている改正法案でも、60歳以降の加入要件の緩和や受給開始時期の選択肢の上限拡大等の措置が盛り込まれています。一方、後者の同一労働同一賃金への対応については、同一労働同一賃金ガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)において退職手当(退職金・企業年金)について原則的な考え方や具体例は提示されていないことや、司法の場でも確定的な判断がまだ下されていないことから、多くの企業では検討を後回しにしている状況です。

しかし、そもそも同ガイドラインでは、「(原則的な考え方や具体例が示されていない場合についても)不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる」としており、退職金・企業年金についても、正社員とパート・有期社員との違いについて「均等待遇・均衡待遇」という同一労働同一賃金のあり方に抵触しないか検討する必要があります。また、前述の「議論の整理」でも、確定給付企業年金および企業型確定拠出年金の加入者資格については、「同一労働同一賃金ガイドラインの「基本的な考え方」を踏まえた取扱いがなされるべきであり(中略)その旨を法令解釈通知においても明記し、周知すべき」と言及しており、同一労働同一賃金の考え方が企業年金にも及ぶ可能性を示唆しています。

なお、派遣労働者については、待遇決定に際し「労使協定方式」を用いる場合、退職手当(一般的な退職金制度、前払い退職金、中小企業退職金共済・確定拠出年金等への加入等)を導入する必要があります。しかも、同一労働同一賃金の適用時期は、パートタイム・有期雇用労働者については大企業で本年(2020年)4月1日から、中小企業で翌年(2021年)4月1日からとされていますが、派遣労働者については企業規模を問わず2020年4月1日から施行とされており、非正規雇用労働者の待遇の差異についてその合理性を早急に点検・検討することが求められています。

いずれにせよ、均等待遇・均衡待遇の点検・検討は、退職金・企業年金においてもいずれは「待ったなし」の状況になることが予想されます。企業年金の実務担当者としては、目先の対応課題がほぼ解消しつつある今のうちから検討に着手しておきたいところです。

 

今回のまとめ

働き方改革や同一労働同一賃金については、Web年金時代でも興味深いコラムが掲載されているので、情報収集に是非ご活用いただきたい。

谷内 陽一(たにうち よういち)/第一生命保険株式会社 団体年金事業部 課長
厚生年金基金連合会(現:企業年金連合会)で約10年にわたり記録管理・数理・資産運用等の業務に従事。全労済協会、りそな銀行などを経て、2019年第一生命入社。社会保険労務士、証券アナリスト(CMA)、1級DCプランナー、DCアドバイザー。2015年より日本年金学会幹事。
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