年金時代

On-line居酒屋ねんきんの店主が著者に聞く――是枝俊悟さん『35歳から創る自分の年金』を語る

2019年財政検証に基づき社会保障審議会年金部会が議論してきた年金改正法案は現在国会で審議中です。というわけで、年金部会の議論も「論点の整理」(令和元年12月27日)で一段落。部会の議論を「肴」(失礼なたとえで申し訳ありません、「居酒屋」ですから。)に談義を交わしてきた「居酒屋ねんきん」も開店休業中。
そこへ店主の権丈せんせーがつぎに仕込んだ「肴」(「企画」のことです。)を持ち込んできました。曰く、「暇してないか? これからの年金の議論を担っていく若い人たちに「来店」してもらい、その著書について語ってもらおうか」と。しかし、いまは緊急事態宣言発令中。そこで、「ZOOM使ってやってみようか」と店主。というわけで、別に暇してるわけではないのですが、「On-line居酒屋ねんきん」開店と相成りました。開店の初日、『35歳から創る自分の年金』の著者・是枝俊悟さんにご来店いただきました――朝の9時からOn-line居酒屋オープンです。【編集部】
緊急事態宣言下、ZOOMインタビューする居酒屋ねんきん店主の権丈善一さん(左)と著者の是枝俊悟さん。

著者:是枝俊悟(これえだ・しゅんご)大和総研金融調査部研究員
1985年生まれ。2004年千葉県立千葉東高等学校卒業、2008年早稲田大学政治経済学部卒業、大和総研入社、金融庁出向を経て2016年より現職。社会保険労務士、CFP®、証券アナリストなどの資格を持ち、証券税制を中心として金融制度や税財政の調査・分析を行う。

聞き手:権丈善一(けんじょう・よしかず)
Web年金時代での「居酒屋ねんきん」店主として、座談会をとりしきり、インタビュアーも担当する。最近「オンラインへGO!!!」を開店したとのこと(http://kenjoh.com/online/)。

『35歳から創る自分の年金』
著者:是枝 俊悟
発行:日本経済新聞出版社
定価:本体1,500円+税
発刊:2020年3月

 

高校の同窓会がこの本を書くきっかけになったんです

権丈:きょうは、是枝さんが、『35歳から創る自分の年金』でどういうことを書きたかったのかを存分に話してもらえればと思います。

是枝:よろしくお願いします。

権丈:あとがきにあったけど、この本を書こうと思ったのは、同窓会だよな。あの話がこの本の全部を語っているくらいおもしろかったです。そのあたりから、始めてもらいましょうか。

是枝:それでは、同窓会の話をすると、わたしが昨年(2019年)の暮れに高校の同窓会に出席したんですが、わたしの高校がある程度の進学校だったということはあるのでしょうけど、それでも33歳、34歳の時点で子どもをもちながら、クラスの女性が同窓会にたくさん出て来れるということ、そして出席した女性が、たまたまそのときは全員でしたけど、働いていました。そしてその話しぶりから、どうやら社会保険に入っていることをうかがわせる働き方をしているんです。それまで、わたしはモデル世帯を中心に年金の未来図を考えていたんですが、今後の経済成長率を保守的に見積もると、モデル世帯が受け取る年金額は年を追うごとに減っていく見通しになっていくんです。
モデル世帯というのは、片働き夫婦世帯なのですが、同窓会での出来事が、この本に書いたように、今後において厳しい経済状況を想定してもなお、女性の働き方が変化していくことによって、後に生まれた世代ほど女性がより高い収入を得て働くようになっていくことを踏まえると、保守的な経済成長率を前提としてもなお、将来に向かって、世帯の生涯賃金は増え、世帯の年金額も増えていく明るい未来図を描くことができるようになったのです。

権丈:ほんっとおもしろい話で。年金で言うモデル世帯って、別に世の中に存在する標準世帯、平均世帯なんかではぜんぜんなくって、2004年の年金改革のときに、片働き夫婦世帯の年金水準の所得代替率が50%を切りそうになったら制度を見直そうねという基準、ベンチマークとして設けただけだもんね。

是枝:そうなんですよね。わたしの本の56頁の図表2-4と59頁の図表2-6をご覧ください。

出所:是枝俊悟『35歳から創る自分の年金』56頁
出所:是枝俊悟『35歳から創る自分の年金』59頁

権丈:この2つの図は、えらい良かったけど、この図を対談で紹介しても良いかな?

是枝:大丈夫ですよ。では、わたしがこの本で言いたかったこと、つまり、共働きはこれからの若い世代に明るい未来図をもたらすということを、この2つの図表で説明したいと思います。
図表2-4は、モデル世帯をベースとした年金のイメージを示しています。いまの60代の方の年金はこういう姿なんでしょうが、平均年収500万円くらいのところにモデル世帯があります。そのモデル世帯が受けるモデル年金額が250万円くらいになっています。
いっぽう、わたしたちの世代から見ると、年金は59頁の図表2-6のような姿になっていて、いま、夫婦で1人分の稼ぎしかないモデル世帯は、同世代内で比較的低所得の世帯になってしまっているんじゃないかと思うんです。そして、モデル世帯よりも世帯の生涯賃金が上の世帯がかなりあります。モデル世帯であれば、世帯の生涯賃金が2億円で年金額は250万円くらいということになりますが、世帯の生涯賃金が共働きで4億円まであるとすれば、年金額も夫婦で300万円を超えて、400万円近くになります。

権丈:いい図だなあ。そうでありながら、公的年金制度は高所得から中・低所得者に再分配をやっているとところがなかなか立派なんだよね。みんなすぐに忘れるけど(笑)。
それは年金制度を定額部分と報酬比例部分の2階建てにしたからだけどね。だから、1954年年金改革で作られたこの仕組みは堅持していかなければならない。それにしても、世のなかには、年金は低くなるぞ、低くなるぞという情報のバイアスがあるから、是枝さんのこの図は、結構インパクトがあるし、君たちの世代の将来像を映しているからストーリーとしてもおもしろい。

是枝:厚生労働省が財政検証結果を出した際にも、モデル世帯イコール共働き世帯2人分として、1人当たり賃金が同じだとしたら、年金額は同じという資料を出していましたが、それはそのとおりなんですけど、モデル世帯の賃金を単純に2で割ると、相当な低所得になってしまいますよ。

公的年金の負担と給付の構造(世帯類型との関係)出所:第9回社会保障審議会年金部会2019年8月27日資料4「2019(令和元)年財政検証関連資料」13頁

編集部:「公的年金の負担と給付の構造」を示した資料は、「1人当たりの賃金水準が同じであれば、どの世帯類型でも年金月額、所得代替率は同じ」であることを示すために描かれていて、ポイントは、世帯類型が年金額を決めるのではないことを示すためでしたね。

権丈:この図について付け加えておけば、2004年の年金改革のときに男性の厚生年金の報酬比例部分は夫婦で半分ずつですよという規定をもうけることによって、夫は第3号被保険者の保険料を負担しているという解釈ができるようになったんだよね。この図の「夫のみ就労の世帯」の報酬比例部分の真ん中に破線が引かれているのはそういう意味だろう。1985年の第3号被保険者制度ができるときにそこまでやっておけばよかったんだけど、やっぱり時代の限界というか、当時は、離婚分割の規程なんてできなかったんだろうね。

2004年の年金改革の真っただなか大学生活を送る

権丈:ところで、是枝さんは1985年生まれで、2008年に大学を卒業されてますね、そうすると2004年の年金改革の真っただなかに大学生活を送っていたわけですね。

是枝:まさにそうです。

権丈:是枝さんが、多感で吸収力抜群だった大学生のときに、年金の分野で年金破綻論や年金大改革論に接することになったわけですね。

是枝:まさしくそのとおりですね。2004年に書かれた高山憲之さんの『信頼と安心の年金改革』が、わたしが年金を勉強した最初の本でした。

権丈:その後の2009年には年金問題から政権交代にまで発展して、是枝さんが大学を卒業する2008年のころ、年金はもう大混乱の時期ですね。

是枝:最低保障年金とか、年金制度を一元化するとか、そういう議論が盛んで、それをどう考えればいいのか、どう説明すればいいのか、わたしも苦慮していました。

権丈:ぼくもこの前、井戸美枝さんが出版された本(『一般論はもういいので、私のお金「答え」をください!』)のなかで、井戸さんと対談をしていて、そのなかでも触れているんだけど、年金制度の議論が大混乱しているときの記憶がある人たちが、いま30歳代なんだよね。だから、あのときの経験が将来の年金に抱く不信感みたいなところに通じているんだと思ってるんだけど。

是枝:そもそも年金扶養比率(1人の老齢・退職年金相当に受給権者を、何人の被保険者で支えているかを示す指標)が厳しいから、漠然と年金に対する不安みたいなものが噴出したということもありました。

権丈:是枝さんの本でおもしろかったのは、学生時代に手にした本から、いまに至るまでの本が、巻末の「参考文献一覧」に掲載されてるところ。つまり、ちゃんと乗り越えて、いまに至っているところがおもしいと思う。大学に入学した2004年に高山さんの本を手にして年金に出会い、今回の著書では、「おわりに」で僕はお礼を言ってもらったりしている(笑)。2004年からの16年間、いろいろと悩んだんだなっということはわかるよ。

わたしたちの世代は親世代よりはるかに子育てがしやすい

権丈:是枝さんの著書のなかに、「子育てをすることによって年金の意味がよくわかるようになる」というような文章があったかと思うんだけど、そのあたりのところにも是枝さんのパーソナリティーが出ているんだと思うんですよね。

是枝:いったん新型コロナウイルスのことを除いて話しますが、いま子育てをしていて、親世代よりもはるかに子育てがしやすい環境になっていることを実感します。正確に言うと、夫婦共働きを続ける場合の子育て支援は親世代よりはるかに大きくなっています。育児休業給付金もあり、保育所についても3歳以上は実質無償、そもそも子どもを産んでも仕事を続けられる環境自体が親世代では一般的でありませんでした。そして、親世代やバブル世代と比べて、わたしたちの世代が貧しくなっているのかというと、世帯所得で見ると決してそんなことはないのです。二極化が進んでいるという側面があるとはいえ、平均値は上がってきています。それは自分たちの世代がなんとかがんばってきたという面ももちろんありますが、親世代やバブル世代や氷河期世代が苦しみながらも制度を整えてきた面も大きい。その恩恵をわたしたちは受けていることを実感しているところです。

権丈:ぼくは昔から、記録としては2008年の社会保障国民会議のときがあるけど、子育ての社会化は出生率の回復とか、そんなことは二の次でよくて、子育て費用の社会化をすることによって、高齢期と子育ての扶養の社会化のバランスが図られる、言い方を変えれば、子育て支援の制度が準備されれば、高齢者の制度が憎まれなくなる。
だから、さきほど、是枝さんが言っていた、あとがきのストーリーがすごくいいんだよね。30代に入って高校の同窓会に参加して、時代が変わってきていることを実感したということ。みんな子育てをしながら、共働きじゃないかと。ぼくの本の『ちょっと気になる社会保障』の「知識補給」には、知り合いの記者が書いた「あってよかった介護保険」という文章を紹介しているけど、あの文章も40代で参加した高校の同窓会での話。明らかに、前の世代とはいろんな意味で違うよね。
是枝さんの書きぶりはやさしいものの見方みたいなところがあって、新しい世代の人たちの年金の本なんだという印象を持ちました。もうぼくたちおじさんたちは、みんなで退散して、新しい世代の人たちで、年金を語ってもらう時代になったんだということだね。だから、ぜひともこの本は若い人たち、30代の人たち、そして20代の人たちに読んでもらいたいと思っているんですよ。

編集部:ところで、権丈さんは、制度を理解できていない人たちに対して、「その理解、間違っているよ」とご主張されてきたのですが、ようやく、年金の世界ではいろいろあった「誤解」について決着がつき、そのあとに年金について論じる若い人たちは、年金がつぶれるとか、積立方式がいいとか、厚生年金を民営化すべきとかというような議論に煩わされたりすることなく、どうすれば自分が選んだ働き方や生活スタイルに応じて、自分に合った年金の受け方を選択できるのか、自分に合った年金を創ることができるのかということを、ほんとうに自然に考えられるような環境になったんだと思いますね。

権丈:いまはもう、多くの人が公的年金保険の意味を理解して、自分に合った年金を創るかの時代、桃太郎侍の「断じて許し難し。桃太郎、天に代わって鬼退治致す!!」の時代は終わったってことだよ(笑)。

劇的に老後の生活水準が変わるのが共働きをするか否かの選択です

権丈:ところで、一般の人は30代で、自分がもらう年金のことなんか、真剣に考えるんですかね。

是枝:年金のことまでは考えないでしょうが、ただ、老後のことを意識し始めるのはこのくらいなのかなと思います。資産運用の機会を増やしたり、あるいは貯蓄率を引き上げたりするようなやり方でもいいんですが、それよりも劇的に老後の生活水準が変わるのが共働きをするか否かの選択なんだと思います。いまはとにかく女性の就業率を上げる。女性の賃金を上げる、世帯収入を増やす。それによって年金制度を持続可能にするというストーリーをわたしは描いています。
年金の大改革が行われる2004年にわたしは大学生になり、最初は積立方式に夢をもったり、年金一元化に希望をもったり、あるいは全部民間で運営すればいいのではないかと、いろいろなことを考えたりしました。しかし、結局、年金制度を根本的に変えることはできないということがだんだんわかってくるなかで、一番大事なことは働き方の問題だと気づきました。結局、権丈さんがよくおっしゃるよう、就業者と非就業者の比率を維持できるならば、年金制度は大丈夫なんだと。その比率を何とか維持するために働く人を増やす政策をしっかり実行していく。そしてそのうえで、就業者をなるべく多く、できればすべて社会保険に入れるということを進めていく。その2つのことができれば年金制度はどうにかなるのでしょう。

コロナ禍で女性の就業率が逆戻りしないかが一番の懸念です

編集部:是枝さんは、共働きという選択肢によって年金の明るい未来図を描かれましたが、コロナ禍はこの未来図にどう影響を及ぼすとお考えでしょうか。

是枝:これまで十数年すごいスピードで上昇してきた女性の就業率が逆戻りしてしまうのではないかということが一番の懸案です。いまは子どもの命さえも危ないような状況ですので、無理してでも働き続けてくださいとは言えませんが、いま働いている方には、とりあえず労働法なり社会保険制度などの権利をしっかり使って休めるものなら休んで、なんとか仕事を辞めずにとどまってほしいです。企業の側には、雇用調整助成金や小学校休業等対応支援金、持続化給付金など新たに作られた制度も使いつつ、なるべく雇用を保ちながら耐えてほしいです。もし女性が一度に仕事を辞めてしまって、長い間労働市場に戻らなくなると、長期的な成長率を大きく引き下げてしまい、年金の未来にも大きな影を落とします。
いっぽうで希望もありまして、いままで必ず対面で会社に出なければできないと思っていた仕事についても、結構な部分がオンラインでできるということがわかってきました。今回のコロナの危機が多様な働き方で、場所が離れていても時間の制約があっても付加価値を提供することができるということを気づかせる契機になるんだとしたら、長期的な経済成長率や就業率がコロナ前よりもプラスの方向に働く可能性もあります。まさにいま試されているんだろうと思いますね。

権丈:そうだね、過去には女性労働はずっと景気変動のバッファーだったんだよね、今回、女性の就業が本物なのかどうか、ここはちょっと試されるところだよね。

是枝:それにはやっぱり女性だけの問題でなくて、男性の問題も大きいんだろうと思います。だから、いまこういう状況を経ても働き続けたいと思うかどうかということは、やっぱりパートナーとしての夫がどう家事・育児の負担を分担するか、中長期的なキャリア・ビジョンをどう共有するかということが、女性が働き続けたいと思えるかどうかということに大きくかかわってくると思っています。

権丈:そうだね。そういう話を、年金論の一環として、どんどんやってもらいたいですね。年金界って、なんかずっと根暗だった(笑)。
おっと、予定の何倍もの時間となってしまいましたが、きょうはありがとう。

一同:どうもありがとうございました。

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