年金時代

On-line居酒屋ねんきんの店主が著者に聞く――佐藤麻衣子さん『30代のための年金とお金のことがすごくよくわかって不安がなくなる本』を語る

ある日、居酒屋ねんきん談義の店主から、「暇してないか? これからの年金の議論を担っていく若い人たちに「来店」してもらい、その著書について語ってもらおうか」との連絡が。しかし、いまは緊急事態宣言発令中。そこで店主は「ZOOM使ってやってみようか」と。・・・というわけで、別に暇してるわけではないのですが、「On-line居酒屋ねんきん」開店と相成りました。前回ご来店の是枝さんの著書のタイトルには「35歳から創る~」とありましたが、第2回目となる今回は「30代のための」を書名に掲げる佐藤麻衣子さんです。その著書『30代のための年金とお金のことがすごくよくわかって不安がなくなる本』について語っていただきました。【編集部】
今回もZOOMを使って、居酒屋ねんきん店主の権丈善一さん(上)が佐藤麻衣子さんにインタビューしました。

著者:佐藤麻衣子(さとう・まいこ)ウェルス労務管理事務所代表
1981年神奈川県生まれ。成城大学経済学部経営学科卒業後、上場企業の経営企画室にて主にIR(株主向け広報)業務を担当。信託銀行へ転職し、窓口において投資信託・保険などをコンサルティングセールス。信託銀行退職後、税理士事務所、社会保険労務士法人等に勤務しながら、社会保険労務士試験に合格。2015年ウェルス労務管理事務所を開業、19年研修事業拡大のため株式会社ウェルスプラン設立、代表取締役に就任。社会保険労務士のほか、CFP(日本FP協会)、1級ファイナンシャル・プラニング技能士、証券外務員一種、企業年金管理士(確定拠出年金)などの資格を持つ。

聞き手:権丈善一(けんじょう・よしかず)慶應義塾大学商学部教授
1962年福岡県生まれ。2002年より現職。専門は社会保障・経済政策。『Web年金時代』での「居酒屋ねんきん」店主として、座談会をとりしきり、インタビュアーも担当する。『再分配政策の経済学』シリーズⅠ~Ⅶ巻、人気のへのへのもへじの本は、今年2月に『ちょっと気になる社会保障 V3』に成長。最近「オンラインへGO!」を開店したとのこと(http://kenjoh.com/online/)。


『30代のための年金とお金のことがすごくよくわかって不安がなくなる本』
著者:佐藤 麻衣子
発行:日本実業出版社
定価:本体1,400円+税
発行:2018年7月

 

49頁のイラストがこの本のすべてを語っている

権丈:きょうは佐藤さんに存分にこの本のことを語ってもらいたいと思います。さっそくだけど、ぼくとしてはこの本の49頁に掲載のイラストをぜひとも紹介したいんだよね。

佐藤:こちらですね。

権丈:まあ言ってみれば、この本はそういう本だよね。

佐藤:そうですね。

権丈:佐藤さんは、公的年金のことをよく理解してくれていて…っと、ついついぼくは、公的年金の立場になって話をしてしまうんだけど(笑)、世の中の人たちに仕事でいろいろと年金の話をするときに、きっと、このイラストに描かれているような感じなんだろうね。

佐藤:そうですね。

権丈:右側からセールスマンが「年金は破綻シマース」、「将来は暗いデース」、「若い人は損シテマース」と若者に近寄ってくる。すると、若者は「え!」と飛び上がってびっくり。すると、若者の隣にいる女性、佐藤さんかな、彼女が「きちんと事実を調べてくださいね!」、「はた迷惑な…」とびしっと言っている。

佐藤:公的年金がなかったら大変です。土台となる社会保険がなければ安定したライフプランを立てられないし、世の中の格差もいまよりもっと広がってしまいます。

権丈:だね。

編集部:佐藤さんのプロフィールを拝見すると、以前、金融機関において、投資信託・保険などのコンサルティングセールスをされていたということなんですが、佐藤さんご自身は、信託銀行で保険商品を取り扱っていたときに、どのような販売のしかたをされていたのでしょうか。

佐藤:豊かな老後生活を過ごすには、年金だけでは足りないということはお伝えしていました。足りない分は自分できちんと確保しておきましょう、いまある資金については増やしておきましょうというスタンスでお客様には対応していました。とはいえ、わたしが働いていたのは信託銀行だったので、どちらかというとある程度の資産をお持ちの方がお客様でしたから、お客様の資産運用の目的が公的年金で足りない部分を確保するということよりも、定期預金では増えないからほかに有効な資産運用ができる金融商品はないか、というようなご相談が多かったですね。

編集部:佐藤さんは自身の著書である『30代のための年金とお金のことがすごくよくわかって不安がなくなる本』で、具体的なライフスタイルをお示しになって、不安の解消に努めていますが、佐藤さんご自身、年金に対して、不安がらなくてもいいと確信するようなご経験がなにかあったのでしょうか。

佐藤:親が年金をもらい始めたことが、制度に対する信用ということでは大きかったですね。わたしの父は高校を卒業してからずっと会社員として働いていました。働いている間ずっとしっかり厚生年金に入っていたので、ちゃんとした額の年金をもらっているんです。

編集部:そうなんですよね、年金って、実際にちゃんと支払われているという事実が制度に対する信頼感を生むんですね。そして、実際にもらうようになるとそのありがたみを実感するんです。若い人は30年先、40年先のことですから、まだそのリアリティーがないというのはどうしようもないのですが、イラストの男のように、そこにつけこむのはほんと許しがたいです。ちなみにわたしの母親は厚生年金を受けています。しかも、介護保険を利用して特別養護老人ホームに入所しているのですが、自己負担は母親の厚生年金ですべて賄い、わたしからの持ち出しはありません。親の年金制度のおかげで、子としてのわたしもそのありがたさを十分に実感しています。だから、年金制度改革を妨害しようとするキャンペーンは、将来の持続可能性の確保ということも妨げることになりますから、制度改革が遅れることで、マクロ経済スライドによる調整期間は長期化し、将来の給付水準の減少は大きくなってしまいます。そう考えると、年金を政争の具にすることは、将来世代から過去にさかのぼって、責任を追及されてもしょうがないのではないかとさえ思いますね。

権丈:保険って安心感が便益なわけだから、年金保険が破綻しているって、政治家や学者や記者の話は、年金保険の便益をゼロにして、保険料の負担だけを感じさせるものだったから、なぐってもよかったよね。

編集部:権丈さんなら、ほんとうになぐりかねませんね(笑)。

「親にできるだけ働いて欲しい」と思うのは親不孝ではない

権丈:いやいや…。
佐藤さんのこの本を手にしたとき、おもしろいなあと思ったのが、77頁にある「『親にできるだけ働いて欲しい』と思うのは親不孝ではない」という文章。日本中、いや世界中探しても、佐藤さんしか言えないじゃないかな。厚生労働省が言ったら叩かれる(笑)。そういうことを語ってくれる人が登場したということなんだろうね。そこで、そういう感性を持つ佐藤さんが、この本を書こうと思ったきっかけ、動機について、ちょっと話していただいていいですか。この章には、「「世代間格差」のデータに考慮されていない3つのポイント」とか、若い人たちに分かってもらいたいことがずらりと書かれていますけど、きょうは、「親にできるだけ…」のあたりを。

第2章の目次は以下のとおり。
第2章 親や子どもの立場から年金を考えると違う景色が見えてくる
第1節「親の年金が減る」のは実は大問題
・「世代間格差」のデータに考慮されていない3つのポイント
・いまの高齢者の年金がなくなったら困るのは現役世代
・「保険機能」があるからこその「無意識の安心や信頼」
「親にできるだけ働いて欲しい」と思うのは親不孝ではない

佐藤:わたしは、大学卒業後、最初は正規の会社員、その後非正規社員となり、そしていまは独立しているんですが、働き方が変わるといまの収入だけでなく自分の将来設計や万一の保障の面がすごく変わってしまうということが気になっていました。自分の周りにはフリーランスとして働く人も増えていますが、特に変わるのが年金なので、30代の人に年金について知ってもらって、ぜひライフプランを意識して働き方を選択して欲しいと思ったのが最初のきっかけです。また、親が年金をもらい始めて気づいたのですが、年金制度が親の生活を支えてくれているからこそ、私は自由な選択ができる。私的扶養の社会化はとても大きなメリットだということを実感しました。そして何より、子どもを出産したことで「次の世代の社会」という視点が生まれました。うちの子は一人っ子で頼れる親族が少ないこともあり、何かあったときにその生活を支えてくれる制度として、年金制度をよい形で残していきたいと思うようになったんです。そのためにはまず、ひとりひとりが制度を知って自立した生活設計をたてられることが大切だと考えました。わたしはいわゆる氷河期世代と呼ばれる年代で雇用環境にも恵まれず、同世代は年金に対してネガティブな印象を持っている人も多いんですが、ここで悲観することなく、30代からライフプランをベースに長期的な家計管理やキャリアプランを考えていけば、老後破綻を回避して自分らしく生きていくこともできるのではないかと思ったんです。

権丈:いまは社労士として独立されていますが、独立を考えるようになったのは?

佐藤:仕事と子育てとの両立の中で、時間と場所にとらわれない働き方をしたかったというのが一番の理由です。社労士としては、中小企業の働き方改革支援を仕事の一つにしているのですが、たとえば、女性が活躍する社会をどう構築していくかということや、子どもを育てながら仕事ができるという働き方改革に取り組むことって、すごく意味のある活動だと思っています。そういう意味のある仕事をもっとやりたくて、独立するかたちを選択しました。

権丈:さらに本を書くところまで問題意識を高めていくところがおもしろいね。ぼくにとって興味深いのは、どうしてこうした考え方をする習慣を身につけているのかなということ。
たとえば、この本のなかで、1983年生まれの人を9つのパターンで説明していて、佐藤さん曰く「9つのライフスタイルをつくって将来のお金を見える化しました!」と。そしてそれぞれ約70年先のシミュレーションを行っている。そういう発想を持てば、時代とともに物事がどう動くかを懸命に考えるようになる。懸命に将来どうなるんだろうかと考えようとする人は、懸命にその判断材料を得ようとして過去を見る。
この本には「1980年代半ばからの30年で変わったものを振り返る」という節を設けて、佐藤さんが生まれた1981年から、1983年の東京ディズニーランドの開園やファミコンの登場とかに触れながら、いままででどのように世の中が変化してきたのかをみんなにわかりやすく説明して、それをベースに、将来を語ろうとしてるよね。物事が歴史的に見えていて、偶然と必然の中で物事は変遷していくものだと考えている。そういう観点をもっているから、財政検証がプロジェクション、投影であることがすんなりと理解されている。佐藤さんは、こういった視点でライフプランのセミナーでもアドバイスをされているわけですか。

佐藤:そうですね、最近、「ファクトフルネス」(データや事実にもとづき、世界を読み解く習慣)という本がすごく流行ったじゃないですか。年金もまさにそんなイメージがあって、ほんとうに事実を見たら、制度はいいものだし、もし年金制度がなかったら親の老後を子どもが直接支えなければならないとか、今より大変になるケースも多いはずです。ライフプランシミュレーションをすると万が一の保障や老後生活の設計において、公的年金保険があったほうがいいということがとてもよくわかります。そして、「将来は暗いデース」、「若い人は損シテマース」というのは誤った認識で、たとえば、わたしの母は子どもの頃おやつにお砂糖をなめていたらしいんですけど、そんな人いまはいないじゃないですか(笑)。年金以外の部分ではとても豊かになっているという事実を無視して、世代間の議論をするのは、あまり意味がないです。

権丈:そういう事実を複合したかたちで、歴史の中に存在する公的年金は議論してもらいたいんだよね。そうした感性に沿って、「『親にできるだけ働いて欲しい』と思うのは親不孝ではない」という話も出てくる。

佐藤:先がどうなるかわからないということでは、公的年金の財政検証もそうですが、将来は不確実なので、今の状況から将来をシミュレーションして適切な対策を考えていくしかありません。でも、確実にわかっていることは、長く働き続けることができれば困ることは少ないということ。収入が続くということのほかに、やはり社労士の仕事をしていて思うんですが、働くことは生きがいであり、誰かの役に立って付加価値を生み出すことでもあります。できるだけ長く働くことは自身だけでなく社会全体の豊かさにつながっています。働く期間が長くなれば年金に頼る部分も少なくてすむし、ずっと元気でいられたら医療費も減るかもしれない。そういうことが実現できる社会になれば、これからは世代に関係なく本当に困っている人にちゃんとお金が回せるようになる。高齢の親が働くのは嫌だとか、つらいというイメージはあると思うんですけど、社労士の仕事をする中では、昔よりも確実にハラスメントをなくそう、多様性を受け入れよう、だれもが働きやすい職場をつくろう、というような流れになってきていると感じます。気持ちよく働ける職場が増えれば長く働くのも悪くないし、いろんな問題がポジティブに解決できると思います。親に楽しく仕事に行って働いてもらえると子どもとしても安心しますしね。

権丈:働くこと自体に意義や価値があるんだよね。昔と比べて多くの人が若返ったのに、社会参加できないのは辛いよ。

佐藤:そうですね。それに、役に立つとか、新しい価値って、以前とはとらえ方が変わってきていると感じます。昔は働くという概念ではとらえられなかったことが、「働くこと」「仕事」として成立するようになっています。いまは働き手も減っていますし、おじいちゃん、おばあちゃんになったとしても、たとえばコーチングとか家事代行とか時代の新しいニーズに応じて無理なく働ける道は開かれていくのではないかと思います。テレワークの普及も働き方の可能性を広げて高齢者の社会参加を後押ししてくれそうですしね。

権丈:「親にできるだけ働いて欲しいと思うのは親不孝ではありません」という話、どんどん言ってください、ぼくらじゃダメだ(笑)。

佐藤:はい。

年金をとりまく環境は、ずいぶん明るくなったね

権丈:佐藤さんは、以前、ユース年金学会に顔を出していたよね。

「年金に関する学術研究を目的とする学会である日本年金学会と、年金に関する専門研究機関である公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構との共催により、大学のゼミや学部生の研究グループが集まって、年金に関するプレゼンを行っていただく機会」(日本年金学会のホームページより)として、2016年11月に第1回ユース年金学会を開催。このなかで、慶應義塾大学商学部の権丈ゼミの学生は「どうしてマクロ経済スライドのフル適用は実行されないの?」と題して、退職者団体、労使、政治家、財務・厚労省にインタビューを実施している。

佐藤:はい、行きました。そのときに見た先生のゼミ生が作った動画は衝撃でした。退職者団体に学生さんが直撃インタビューしていた動画です。あれはすごくよかったです。学生さんががんばるのを見て、わたしも何かをしなければと思い、本を書き始めたようなものでした。

権丈:たしかに2016年12月にユース年金学会で、学生たちが退職者団体にインタビューに行ったのを見て、本を書き始めて、2018年7月に本が刊行されたんだね(笑)。

編集部:年金時代でもあのときのユース年金学会を取材しました。あの動画は衝撃でしたね。
退職者団体は年金の既得権を守ることを、組織の目的にしているようなところがあるんですが、インタビューを受けた退職者団体の事務局は、マクロ経済スライドをフル適用することで、いまの受給世代から将来世代に仕送りをして、孫、曾孫たちの年金の給付水準をなるべく高めに維持することになるということを理解され、2017年には退職者団体組織として機関決定をするんですよね。

権丈:だね。筋の通った制度、考え抜かれた制度というのは強いね。

編集部:「考え抜いた制度は強い」という話しは、8年くらい前にしてましたね

「インタビュー・公的年金の将来を見据えて=「大切なことは考え抜いた制度を作ること」慶應義塾大学商学部教授 権丈善一氏」(『月刊 年金時代』2012年1月号)

権丈:佐藤さんも、この本のなかに、高齢者の人たち、退職した人たちとも話し合いましょうと書いていますよね。

佐藤:そうです。その意味では、マクロ経済スライドは、世代間の所得再分配を図っていくわけですから、利害関係にある双方が対話をして、思いを確認し合うことは重要なことです。

権丈:しっかりと対話をして、公的な年金制度をちゃんと機能させていきましょうと。こういうスタンスはなんかいいねぇ、年金について語る新しい世代だね。

佐藤:ユース年金学会も大きな衝撃だったのですが、権丈先生がご執筆された『ちょっと気になる社会保障』についてもちゃんと知識補給、V3への更新もして、勉強させていただいております。

権丈善一氏の『ちょっと気になる社会保障』は2016年に第1版、2017年に『ちょっと気になる社会保障 知識補給増補版』、2020年に『ちょっと気になる社会保障 V3』と第3版まで発行されている。表紙に「へのへのもへじ」が描かれていることから、著者自身は「へのへの本」と呼んでいる。

権丈:お世辞もうまいね(笑)。あのへのへの本って、結構、社労士やファイナンシャル・プランナーが読んでくれて、その関係で、彼らとのつながりがトーンとできたんだよね。

佐藤:ほんとうにそうですね、へのへのもへじの本は、年金制度のしくみや意義が、ほんとうにわかりやすく書かれているので、年金制度を理解するには最適な1冊で、わたしも原稿執筆の際には大いに参考とさせていただきました。わたしの本の出版社が参考文献は書かない方針だったので、本の中で紹介できなくて残念でした。

権丈:たしか佐藤さんとはじめてあったのは、あの本がきっかけで開催された2018年4月のFP向けの勉強会だったよね。

佐藤:そうです。あのときは、大江(英樹・加代)ご夫妻とか、田村(正之)さんとか、井戸(美枝)さんとか、竹川(美奈子)さんから、前野(彩)さん、松崎(典子)さんとか、もう、なんか本で見たことのあるすごい人たちが40人くらい集まっていて、緊張しました。あのとき、ちょうど本の校正をやっていて、先生のお話を聞きながら本に書いてあることの答え合わせをしてました。

権丈:そんなにすごい人たちが来てるって、まったく知らなかったから、ぼくは最初に、大学で出しているテストをみんなにやってもらったんだよね。失礼しました…。
その翌日くらいに、Facebookに「FPも気になる社会保障」というグループがつくられて、あれからみんなで、話題はお構いなしで遊んでる(笑)。いまは80人くらいいるかな。あのグループから、小さなネットワークがいくつも生まれてきてるし。

佐藤:そうですね。あのグループから、今度は、若い士業やFPの人たちで「年金・雇用・資産形成フォローアップ勉強会」をはじめました。

権丈:佐藤さんの行動力はすごいよ。佐藤さんが中心になって、倉重(公太郎)さんたちも従えての勉強会に発展したね(笑)。

佐藤:先生や、厚労省の伊澤課長にも報告してもらい、その後は、みんなで懇親会ですね(笑)。
本の中では、わたしたち30代にとっては、iDeCoとかNISAとか、キャリアアッププランとか、自助努力がすごく求められている世代なのですが、そうした自助努力をどの程度やればいいのかを考えるときに、どうしても将来は不確実ですし、それをいろいろな前提をおいて、所得代替率というもので投影してみたところで、わたしの年金とお金はどうなるのかというと、経済状況にもよるしやっぱりわからない。しかし、わからないながらも仮説を立ててどうにかこうにかライフプラニングをすることで、将来の年金とお金を「見える化」しました。いわば、プラニングは思考を整理していくためのツールなのですが、とりあえず暫定的にプラニングをしていくことで、思考停止にならないことが大事です。不確実であることを前提に、状況の変化に応じてどうしたら乗り越えていけるかを自分の頭で考える。そうやってライフプランを更新しながら生きていけば、いまの時代なりの豊かな生き方は実現できると思います。

編集部:年金時代では権丈さんを2004年頃からずっと見ていますけど、やっぱり、2016年の『ちょっと気になる社会保障』を出されたあたりから、FPや社労士のファンができてきて、年金の周りの雰囲気が随分と明るくなってきましたよね。はじめは、記者たちを仲間にしていって、報道が随分と変わっていったわけですけど、まだまだ知る人ぞ知るという感じでしたし。

権丈:うん、メディアには、学者への尊敬という呪縛から解放される必要があったですね。何人かの記者が、おれのほうが賢いんちゃうか、わたしのほうが将来のことを真剣に考えてるんじゃないかしらと悟って先陣を切ってくれたら、あとは堰を切ったように流れが変わった
その後、『ちょっと気になる社会保障』、あの本が、みんなで一緒の明るい戦いに変えてくれたかも。「おわりに」に書いてる「ポピュリズムと闘う静かなる革命戦士」さんたちが、いまやいたるところでぜんぜん静かでなく(笑)大暴れされているし。

堀勝洋上智大学名誉教授の最終論文(『週刊 社会保障』2020年1月20日号)などもご参照ください(権丈氏注)。

でっ、あのへのへのもへじの本は、実は、一週間で書いてるんだよね。2014年の12月24日に書き始めて30日にはできてる。ぼくは、年金局長だった香取(照幸)さんが政策統括官のときにつくった「社会保障の教育推進に関する検討会」の座長をやっていたんだけど、そのときに、高校の授業参観に、年金時代も取材にきていて、記者たちみんなで行ったよね。

編集部:授業を受けた生徒に、「年金制度に不安を持っていますか」と質問したら、ひとりの女生徒が何の気負いもなく、「私たちが、普通に結婚して、子どもを産んで、普通に生活していけば年金って問題ないんですよね」と答えるんですね。これには、わたしも権丈さんと「聞きましたか?」、「聞いた、聞いた」と顔を見合せ、うなずき合って、感激しましたね。

権丈:そうそう。あのときのことは、『月刊 年金時代』が取り上げてくれて、ぼくがあの日のことを書いてるね。帰りがけに、記者の1人が、「社会保障に対するあの素直な理解はなんなんでしょう。大人になるとどうして歪むのかなぁ。やっぱりメディアかなぁ」と話していて、みんなで大ウケ――ごめんね、おじさんたちの思い出話で。

レポート=社会保障教育を授業参観した」(『月刊 年金時代』2013年1月号)

佐藤:いえ、とても楽しいです(笑)。

権丈:あのときの授業をやってくれた先生から、2014年12月24日に連絡を受けてね。年金制度は賦課方式だからダメ、積立方式にするべしとかいう話を信じている高校の先生たちがシンポジウムを開くということで、そこに彼ら高校の先生達があがめ奉る大学の先生とかも呼ぶから、厚労省の検討会に協力している授業参観をやった先生も壇上に上がることが求められたっていう話だったわけ。要するにつるし上げ。
連絡を受けた僕からは、「社会保障教育に協力してもらっている先生がご登壇されるのだから、検討会座長のわたくしと厚労省の教育担当者も、シンポジウムに出席しますので事務局にお伝えください」と返事を出して、そのシンポジウムが開催される2015年3月の前に、本を出すことにした。連絡が届いた12月24日の夜に本を書き始めて30日には書き終わってたね。あの時は、「前途多難な社会保障教育」という、世の中に迷惑をかけてきたトンデモ研究者や記者たちを名指しで批判した文章から書き始めている。
その後、そのシンポジウムの開催は諸般の事情?からお流れになったらしいから、へのへの本をさわやかバージョンにするために、「前途多難な社会保障教育」を『年金、民主主義、経済学』に移して、『ちょっと気になる社会保障』を出したという感じだね。へのへの本は、ほんとうは怒りが書かせてる(笑)。

編集部:『年金、民主主義、経済学』35講の「前途多難な社会保障教育」はそういう事情で書かれてるんですか。社会保障教育、年金の情報発信に携わる人たちには、ぜひ読んでもらいたい文章ですよね。
そして、権丈さんの言う、そのあたりの経緯とあの時代の雰囲気、手に取るようにわかりますね。この5月に成立した年金改革は、与野党協議の上で成立しています。2004年年金改革、14年の改革と2回とも強行採決だった時代を知っているわたしたちから見れば感慨深いものがあります。今回は、与野党で協議して、適用拡大をさらに進めよう、被保険者期間の延長に要する財源について一緒に考えていこうという附帯決議まで出してみんなでこれからやっていきましょうということになってます。権丈さんも書かれていましたけど、年金政治の大きな転換点なのでしょうね。

「2020年年金改革は野党炎上商法の潮目になるか――コロナ下での与野党協議が示した年金の未来」(『東洋経済オンライン』2020年6月20日号)

編集部:佐藤さんたち新しい世代の人たちは、権丈さんたちがやってきた世界をどう思われますか。

佐藤:権丈先生の書かれているのを見ていると、いろいろとびっくりすることがあって、わたしたちからみると、世の中の誤解に対して正しいことをおっしゃってくれる人という感じなんですけど、足を引っ張っていた人たちがいっぱいいたことには、ほんと驚きでした。積立方式にすれば問題は解決するとか、政争の具とされてきた歴史とか、いまに至るまでいろいろな経緯があったんですね。もっと早くから建設的な議論ができていたら、次世代のための見直しも遅れずにいたのではないかと残念に思いました。いまはだいぶ考えも変わっていると思いますし、これからは、必要な見直しも進んでいくのではないかと期待しています。

権丈:いまはもう、年相応に気の良いおじさんで、これからの余生は、目指せ好々爺でいきたいところ…
きょうは、ほんとうにありがとうございました。これからのご活躍を大いに期待しています。

佐藤:こちらこそ、こうした機会を与えていただき、ありがとうございました。

編集部:権丈さん、佐藤さん、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。

年金時代