2021/11/30掲載
数理の目レトロスペクティブ|#4 世代間の公平性という議論
平成16年改正のときの論点のひとつに「世代間の公平性」があった。少子高齢化の進展のもと、給付水準が抑制され保険料が引き上げられていく中で、現在の若齢世代は支払った保険料に見合う給付を受け取れないかもしれない、という素朴な感情が、この議論を引き起こしたと考えられる。現在〈2007年〉の厚生年金の保険料率は15%弱であるが、2017年からは18.3%になる。一方で給付水準は徐々に削減され、現在〈2007年〉よりは2割弱低くなる見通しであることから、支払った保険料に見合う給付を受け取れず、高齢世代に比べ不公平ではないかという印象が出てくるのであろう。
この議論の難しい点は、議論の前提が社会保険制度の趣旨と相容れないものであることと、異なる時点の金額の比較が本当にできるのかという問いに答えがないことにある。前者については、老齢、障害、遺族という人生における経済リスクにより困窮化することを防ぐのに、貯蓄や私保険で解決できなかったので社会保険が生まれてきたという歴史的経緯が忘れられている。社会全体で強制的に所得の一部を経済リスクに遭遇した人に移転することで、困窮化を防止できたのである。貯蓄が実現できなかったことを可能にした制度を、貯蓄の物差しで測ろうとするから話が歪むのである。