年金時代

石渡 登志喜(いしわた・としき)/社会保険労務士・年金アドバイザー

病院長の妻は遺族厚生年金の収入要件を満たせるのか

医師のA男さんはクリニックの院長及び医療法人の理事長を務めていましたが、白血病で死亡しました。妻のB子さんには、医療法人の理事としての給与収入と不動産収入を合わせて年間960万円の収入があり、クリニックは長男が引継ぐ予定となっています。一見、B子さんは遺族年金の収入要件を満たさないように思えます。しかし、事実を丁寧に聞き取っていくと、クリニックの窮状が浮かび上がってきました。

【事例概要】

死亡者:A男さん (昭和31年3月20日生まれ:65歳)
・医師。クリニックの病院長・医療法人の理事長
・令和3年4月10日、急性骨髄性白血病で死亡

請求者:B子さん (昭和36年7月15日生まれ:60歳)
・医療法人の理事として登録
・令和3年5月1日、理事を退任して非常勤理事へ
・  同日   、長男(X大学病院の研修医)が理事長に就任
・令和3年10月1日にクリニックを休止
・令和3年12月15日に来所

夫が死亡、妻の前年収入は約1,000万円

医師である夫A男さんが急性骨髄性白血病で死亡したので、遺族厚生年金の請求をするために妻B子さんが来所されました。B子さんの話と持参された書類(戸籍謄本、死亡診断書)、A男さんの加入歴を見ていくと次のことがわかりました。

まず、A男さんは医療法人の理事長兼クリニックの病院長であり、唯一人の医師として医療行為を行いながら診療所の経営を行っていました。

一方、B子さん持参のマイナンバ-により確認できた前年収入として、クリニックで名目的な理事に登録し、給与収入(年間840万円)がありました。もう1つ、親から相続した土地を診療所の駐車場として賃貸し、その不動産収入(年間120万円)もありました。

厚生年金保険の被保険者(以下「適格被保険者」という。)が死亡した場合、死亡した者の配偶者(以下「生存配偶者」という。)で、当該死亡の当時、適格被保険者によって生計を維持したものには、遺族厚生年金が支給されます。

そして、適格被保険者によって生計を維持した生存配偶者とは、適格被保険者と生計を同じくしていた配偶者で年額850万円以上の収入または年額655.5万円以上の所得(以下、上記の収入額または所得額を「基準額」という。)を将来にわたって有すると認められる者以外のものとされています(厚生年金保険法第42条第2号、第58条第1項第4号、第59条第1項、厚生年金保険法施行令第3条の10及び平成6年11月9日庁文発第3235号社会保険庁運営部年金指導課長通知)。

本件の場合、A男さんが適格被保険者であったこと、A男さん死亡の当時、B子さんが戸籍上の配偶者であって、両名が生計を同じくしていたことについては明らかです。しかし、B子さんの前年の収入は基準額以上であるため、配偶者に生計を維持されていたとは言えず、A男さんの死亡に基づく遺族厚生年金の支給は認められないと思われました。

 

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石渡 登志喜(いしわた・としき)/社会保険労務士・年金アドバイザー
電子計測器メーカーで資材部長・営業部長・厚生年金基金常務理事を経験。定年退職後、社会保険労務士事務所開業。千葉県内の年金事務所の年金相談員経験者。豊富な相談事例をもち、雑誌、書籍等多数執筆。
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