年金時代

勝島 一(かつしま はじめ)/コア・コム研究所㈱主席フェロー

第8回 労働者協同組合の短時間労働者について

前回は労働者協同組合における就労期間について考えましたが、今回は短時間労働者について取り上げたいと思います。

労働者協同組合法は、今年の10月1日(2022年10月1日)に施行されますが、同日に、短時間労働者の健康保険・厚生年金保険の適用拡大に係る法律改正が施行されます(なお、本稿では以降、健康保険・厚生年金保険を社会保険と呼ぶこととします。)。

労働者協同組合法は、第1条(目的)の冒頭で「生活との調和」について言及しています。以下に抜粋します。
「この法律は、各人が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就労する機会が必ずしも十分に確保されていない現状等を踏まえ(略)多様な就労の機会を創出することを促進するとともに(略)」(下線は、筆者追加)

各人が就労と生活との調和を保つ方法の1つとして、短時間労働という働き方も含まれていると想定され、労働者協同組合にとっても短時間労働者の取り扱いは注目すべき事項と考えています。

短時間労働者の社会保険適用拡大の概要

2016年9月以前は労働時間が短い(週の労働時間が通常の労働者の4分の3未満)労働者には、社会保険が適用されていませんでした。2016年10月以降は4分の3未満の労働者も、いくつかの要件を満たした場合は、適用されることになっています。

要件は下の表の通り事業所と短時間労働者のそれぞれに定められており、2016年以降3回にわたり徐々に拡大するスケジュールとなっています。

注:日本年金機構のホームページの表を基に筆者作成。

今年(2022年)の10月以降は、事業所の規模の要件が今までの「常時500人超」から「常時100人超」へ、短時間労働者の勤務期間が「継続して1年以上使用される見込み」から「継続して2カ月を超えて使用される見込み」へ緩和されます。

ちなみに、短時間労働者の欄にある4つの要件は全て満たす必要があります。例えば、賃金、勤務期間、適用除外の項目を満たしていても、週の所定労働時間が19時間であれば適用になりません。

2024年10月以降は常時50人超の事業所まで適用対象が拡大されます。なお、50人以下(2024年9月以前は100人以下)の事業所も、労使の合意があれば、適用事業所になることができるとされています。

労働者協同組合では永続的なパート・アルバイトは想定されていない

短時間労働者としては、一般にパート・アルバイトが該当すると思いますが、労働者協同組合では、法律により、組合員以外の事業への従事は制限されています。具体的には、法律第8条第2項で「組合の行う事業に従事する者の4分の3以上は、組合員でなければならない。」とされており、組合員以外は、組合の事業に従事する者の4分の1以下に限られています。

労働者協同組合は、組合員が事業に従事することが原則であり(法律第3条「組合員が組合の行う事業に従事すること」)、業務の繁忙期における人手不足対応等、事業活動に柔軟性を持たせる趣旨で一定程度許容されているものです。すなわち、週の労働時間が短くても永続的に事業に従事するのであれば、組合員となることが想定されているということです。

従って、労働者協同組合では短時間労働者であったとしても、社会保険について組合員の福利厚生として捉えることになります。

労働者正社員制度

労働者正社員という制度があります。これは、所定の労働時間こそ短いのですが、賃金や退職金の計算方法などがフルタイムの正社員と同等のものが適用されている社員制度です。労働者正社員制度の要件を満たす場合は、所定の労働時間の長短によらず(4分の3以上や20時間以上の制約なく)、社会保険が適用されることとされています。

短時間正社員とは、フルタイム正社員と比較して、1週間の所定労働時間が短い正規型の社員であって、次のいずれにも該当する社員のことを言います。

①期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している
②時間当たりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法等が同種のフルタイム正社員と同等
※フルタイム正社員…1週間の所定労働時間が40時間程度(1日8時間・週5日勤務等)で、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結した正社員

(出所:厚生労働省 多様な働き方の実現応援サイト)

問48 短時間正社員について、今回の適用拡大によって取扱いに変更はあるか。
(答)短時間正社員は、従来どおり、所定労働時間の長短にかかわらず、被保険者資格を取得します。

(出所:日本年金機構ホームページ掲載の「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集(令和4年10月施行分)」)

労働者協同組合では、短時間正社員制度との親和性が高い組合もあるように思います。短時間労働者の検討の際には選択肢になるものと考えます。

社会保険適用に係る労働者と使用者のコンフリクト

短時間労働者が新たに社会保険の適用となる場合、労働者にとっては保険給付が増えることが期待されます(社会保険は負担と給付がリンクする関係にあるため、給付が増えると負担する保険料も増えます。なお、新たに適用になる場合には、労使折半になることもあり、保険料は適用前よりも下がる場合があります。)。労働者は仕事と生活との調和、家計への効果なども踏まえて、自身にとって好ましい労働条件の幅が広がると言えます。

使用者にとっては、社保完備による求人の訴求効果などのプラス面もありますが、一方で社会保険料の労使折半による財政的負担が発生します。財政面にのみ着目した場合、使用者には、社会保険適用者を増やさないインセンティブが働く可能性が考えられます。

従って、労働条件を社会保険適用要件に照らして調整する場合、労働者と使用者でコンフリクトが生じる可能性があります(労働者も適用回避を希望する場合など、コンフリクトが生じない場合もあり得ます。)。しかし、組合の持続可能性ということから、財政面での検討は当然必要ではありますが、ここで組合の基本原理に立ち返ってみますと、「生活との調和を保ちつつ」就労する機会を確保するのが労働者協同組合の目的ですし、「生活との調和」を保障するのが社会保険です。そうであれば、労働者を使用して営利を目的に事業を行う企業は言うに及ばす、「営利を目的としてその事業を行ってはならない」労働者協同組合についても、労働者性を有する組合員に対して、社会保険の適用は財政面に優先されるべき項目だと考えます。労働者協同組合が存続して、「生活との調和」を保てない組合員がいたのでは、労働者協同組合の目的からして本末転倒だと言っていいでしょう。

まとめ

労働者協同組合では、組合員の意見が反映される仕組みであり、いわば組合のルールを組合員自身が作るため、組織(組合)の存続と労働者(組合員)の「生活との調和」とのバランスを取った運営がなされるものと考えます。このような運営ができることは、持続可能性の高い組織の要件の1つではないかと筆者は考えています。労働者協同組合はこの点において持続可能性の要件を備えており、社会に広く発展していくものと期待しています。

勝島 一(かつしま はじめ)/コア・コム研究所㈱主席フェロー
年金数理人。日本アクチュアリー会正会員。 1990年東京大学卒業。信託銀行にて、厚生年金基金や確定給付企業年金などの企業年金に関する数理計算業務、年金数理人業務、数理システム開発業務に従事。その後、有限責任監査法人トーマツ(デロイト・トーマツ)にて、大手、中堅、中小企業に対する確定給付企業年金及び確定拠出年金の導入・変更の制度設計コンサルティング、退職給付会計に関する債務及び費用の計算・助言、IFRS導入支援、M&Aにおける年金デューデリジェンスを手がける。退職金・年金に関するセミナーも多数実施。2020年7月より現職。著書に『リストラするくらいなら給与を下げて退職金を増やしなさい』(共著、中央経済社、2021年)がある。
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