年金時代

法律で読む平成29年度の年金額の改定

1月27日、厚生労働省ホームページで平成29年度の年金額改定に関するプレスリリースが掲載され、平成29年度の年金額改定のための「参考指標」が公表された。これらの参考指標をもとに、法律に基づいて平成29年度の年金額の改定についてみてみたい。

大山 均(おおやま ひとし)年金図書編集者

1 年金額改定のための基礎的数値

まず、公表された指標では、物価変動率▲0.1%、名目手取り賃金変動率▲1.1%、マクロ経済スライドによるスライド調整率▲0.5%となっている。そして、このうち名目手取り賃金変動率が▲1.1%となった根拠について、

物価変動率(平成28年の値)(▲0.1%)×実質賃金変動率(平成25~27年度の平均)(▲0.8%)×可処分所得割合変化率(平成26年度の変化率)(▲0.2%)

とされている。これをもう少しわかりやすく実際の数値で示してみると、

物価変動率(平成28年の値)(0.999)×実質賃金変動率(平成25~27年度の平均)(0.992)×可処分所得割合変化率(平成26年度の変化率)(0.998)=名目手取り賃金変動率(0.989)

となる。
これらの基礎的な数値のほかに、マクロ経済スライドによるスライド調整率がある。この調整率は▲0.5%とされているが、その根拠は、

公的年金被保険者数の変動(平成25~27年度の平均)率(▲0.2%)×平均余命の伸び率(▲0.3%)=スライド調整率(▲0.5%)

とされている。これも、わかりやすく実際の数値で示すと、

公的年金被保険者数の変動率(平成25~27年度の平均)(0.998)×平均余命の伸び率(0.997)=スライド調整率(0.995)

となる。

2 国民年金法による基礎年金額の改定

満額の老齢基礎年金は法律で定められた年金額に改定率を乗じて得た額である。国民年金法第27条では次のように規定している。「老齢基礎年金の額は、78万900円に改定率(次条〔第27条の2〕第1項の規定により設定し、同条(第1項を除く。)から第27条の5までの規定により改定した率をいう。以下同じ。)を乗じて得た額(その額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)とする。」
そして、第27条の2から第27条の5まででは改定率の改定について規定している。具体的には、第27条の2ではマクロ経済スライドによる調整期間以外の期間における新規裁定者の年金額の改定率の改定について、第27条の3ではマクロ経済スライドによる調整期間以外の期間における既裁定者の年金額の改定について、第27条の4ではマクロ経済スライドによる調整期間における新規裁定者の年金額の改定率の改定について、そして第27条の5ではマクロ経済スライドにおける調整期間における既裁定者の年金額の改定率の改定について、それぞれ規定している。
現在は、すでにマクロ経済スライドによる調整期間中にあるので、新規裁定者および既裁定者ともに、第27条の4および第27条の5によって改定率を改定することになる。
第27条の4および第27条の5では、それぞれ賃金変動率(名目手取り賃金変動率)と物価変動率、それにマクロ経済スライド調整率の変動に応じた改定方法が場合分けされている。
先にみたとおり、平成29年度については、名目手取り賃金変動率が0.989で物価変動率が0.999であるため第27条の4第2項第3号の「名目手取り賃金変動率が1を下回り、かつ、物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回るとき」に該当するので、新規裁定者については物価変動率で改定することになる。また、既裁定者については第27条の5第2項第1号の「物価変動率が1を下回るとき」に該当するため、同じく物価変動率で改定することになる。
したがって、基礎年金については、新規裁定者、既裁定者ともに平成29年度は物価変動率0.999によって前年度(平成28年度)の改定率(0.999)を改定することになる。この結果、0.999×0.999=0.998となり、平成29年度の年金額は「0.1%の引下げ」となる。

3 厚生年金保険法による再評価率の改定

厚生年金保険法では、年金額の改定は、平均標準報酬月額および平均標準報酬額の「再評価率」を毎年度改定することによって行うものとされている。
厚生年金保険法では、第43条の2から第43条の5で再評価率の改定について規定している。
具体的には、第43条の2ではマクロ経済スライドによる調整期間以外の新規裁定者の再評価率の改定について、第43条の3ではマクロ経済スライドによる調整期間以外の既裁定者の再評価率の改定について、第43条の4ではマクロ経済スライドによる調整期間における新規裁定者の再評価率の改定について、そして第43条の5ではマクロ経済スライドによる調整期間における既裁定者の改定について、それぞれ規定している。
厚生年金の年金額改定について注意しておきたい点は、再評価率の改定といっても、「昭和33年3月以前」の期間から当該年度までの再評価率を一律に改定することにはなっていない点である。つまり、当該年度(平成29年度)、前年度(平成28年度)、前々年度(平成27年度)そして3年度前の年度(平成26年度)については、4年度以前の各年度とは別の改定方法となっている。
厚生年金の場合も、基礎年金の場合と同様に、名目手取り賃金変動率、物価変動率、マクロ経済スライド調整率の変動に応じた改定方法が場合分けされている。
今回の、名目手取り賃金変動率0.989、物価変動率0.999、マクロ経済スライド調整率0.995となった場合には、新規裁定者については、第43条の4第4項第3号の「名目手取り賃金変動率が1を下回り、かつ、物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回るとき」に該当し、再評価率の改定は第43条の2第2項から第4項によることになる。
第43条の2第2項では、第1号で前年度の再評価率を可処分所得割合変化率で改定すべきことが、第2号では前々年度と3年度前の年度の再評価率を物価変動率に可処分所得割合変化率を乗じて得た率で改定すべきことが規定されている。また第3項では、対象となる年度の指定がなく、物価変動率を基準として改定することが規定されている。そして第4項では、当該年度の再評価率について、前年度の再評価率を可処分所得割合変化率を乗じて改定することが規定されている(第3項の規定は、4年度以前の各年度の再評価率の改定を規定しているものとなる)。
次に、既裁定者についてみると、第43条の5第4項第1号の「物価変動率が1を下回るとき」に該当し、「第43条の2第4項並びに第43条の3第1項及び第2項」によって改定することになる。
第43条の2第4項では、当該年度の再評価率について、前年度の再評価率を可処分所得割合変化率を乗じて改定することが規定されている。また、第43条の3第1項および第2項では、第1項で物価変動率を基準に改定することを規定し、第2項では、前年度については可処分所得割合変化率で、前々年度および3年度前については物価変動率に可処分所得割合変化率を乗じて得た率で改定することが規定されている(第1項の規定は、4年度以前の各年度の再評価率の改定を規定しているものとなる)。
こうして、厚生年金の場合にも、新規裁定者と既裁定者は同じ改定方法で再評価率を改定することになる。

4 平成12年改正法附則による従前額改定率の改定

最後に、本来水準の年金額と並んで比較対象となるいわゆる従前額保障の年金額計算に必要な従前額改定率の改定についてみてみる。
従前額改定率の改定については、平成12年改正法(平成12年法律第18号)附則第21条第4項で規定している。それによると、従前額改定率は「厚生年金保険法第43条の3第1項又は第3項(同法第34条第1項に規定する調整期間にあっては、同法第43条の5第1項又は第4項)の規定の例により改定する」ものとなっている。したがって、平成29年度の従前額改定率は、厚生年金保険法第43条の5第1項または第4項によることになる。
これは、前述の既裁定者の再評価率の改定と同じ方法に基づくことを意味しており、前述のとおり「物価変動率が1を下回るとき」に該当するので、「第43条の2第4項並びに第43条の3第1項及び第2項」によって改定することになる。これらの規定をみてみると、第43条の2第4項では当該年度の再評価率の改定、また第43条の3第2項では前年度、前々年度および3年度前の年度の再評価率の改定の規定となっている。したがって、第43条の3第1項の規定が従前額改定率の改定にふさわしい規定となる。
こうして、平成29年度の従前額改定率は平成28年度の従前額改定率を物価変動率0.999で改定することになる。

 ●平成29年度年金額算出のための基礎的数値

基本となる数値・名目手取り賃金変動率: △1.1% → 0.989
(物価変動率)0.999×(実質賃金変動率)0.992×(可処分所得割合変化率)0.998≒0.989
・物価変動率: △0.1% → 0.999
・マクロ経済スライド調整率: △0.5% → 0.995
(公的年金被保険者総数変動率)0.998×(平均余命伸び率)0.997≒0.995

年金額改定率および再評価率の改定

<年金額改定率の改定>
国民年金法第27条の4第2項第3号(新規裁定者)、第27条の5第2項第1号(既裁定者)の規定により、新規裁定者・既裁定者ともに物価変動率0.999により改定することとなる。
平成29年度は、平成28年度の年金額改定率0.999を物価変動率0.999で改定する。
・平成29年度の年金額改定率(新規裁定者・既裁定者): 0.999×0.9990.998
Ex. 老齢基礎年金額:780,900円×0.998≒779,300円
(月額:779,300円÷12≒64,941円)
障害基礎年金の子の加算額:224,700円×0.998≒224,300円
(月額:224,300円÷12≒18,691円)
<再評価率の改定>
厚生年金保険法第43条の4第4項第3号(新規裁定者)*1第43条の5第4項第1号(既裁定者)*2の規定により、再評価率を改定することとなる。
*1 新規裁定者:第43条の4第4項第3号→第43条の2第2項から第4項までに基づき改定。
*2 既裁定者:第43条の5第4項第1号→第43条の2第4項並びに第43条の3第1項及び第2項に基づき改定。
新規裁定者・既裁定者ともに以下のように再評価率を改定
4年度前まで年度の再評価率: 物価変動率(0.999)で改定
・前々年度・3年度前の再評価率 :物価変動率×可処分所得割合変化率(0.999×0.998)で改定
・前年度の再評価率: 可処分所得割合変化率(0.998)で改定
・当該年度の再評価率: 可処分所得割合変化率(0.998)で設定

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