年金時代

ESG投資とは何か? 企業年金はどう関わるか?【前編】

2015年12月12日に何があったか、と聞かれて何か思いつくだろうか?国連気候変動枠組条約第21回締結国会議という漢字の無駄遣いのような会議である重要な協定が締結された日だ。この会議は俗にCOP21と呼ばれ、この名称をご存知の読者も多いであろう。COP21のこの協定はパリ協定と呼ばれている。 パリ協定では、ある目標が定められ、この目標が経済界に大きなインパクトを与えている。場合によってはビジネスを大きく変革し、企業年金の投資にも関わりを持つ可能性がある。その目標とは「2℃目標」と呼ばれるものだ。2℃目標とは、長期目標として平均気温上昇を産業革命前に比較して2℃よりも十分低く抑えるという目標のことだ。

山本 御稔(やまもと みとし)/有限責任監査法人トーマツ パートナー兼インベストメント・マネジメントセクター統括

ビジネスモデルの変革が迫られる

2℃という温度が何を意味するのか。天気予想で見聞きする日々の温度変化と比較すれば2℃の重大さはわからない。具体的に地球の平均気温を、2℃を十分に低い状態に抑えるためには今から20年ほどあとの2050年には二酸化炭素などの温室効果ガスを現状比40~70%も削減しなければならない。そして今世紀の終り頃の2100年には温室効果ガスの排出と均衡、すなわち新たな追加的温室効果ガスがゼロになるようにしなければならないのだ。これが国際的に約束されたのである。
温室効果ガスの排出がここまで厳しくなると、近い将来に石油が使えない、火力発電が使えないといったことが現実になり得る。製造をはじめとするビジネスモデルの変化が迫られる可能性がある。今のビジネスモデルでは事業の継続が不可能になるのだ。
座礁資産という言葉がある。仮にある企業が石油の採掘権を持っていたとしよう。温室効果ガス抑制の影響で石油が使えなくなると、この採掘権も石油の保有もまったく価値を生まなくなる。保有していても使えずに価値がない資産を座礁資産と呼ぶ。座礁資産となる可能性のある資産を保有している企業の価値が、ある日を境に激減するといった話も現実に起き得る。
パリ協定は環境の話ではあるがその影響は環境にとどまらない。私たちが投資をしている企業の価値に直結する話であり、企業年金の資産運用にも関わる話なのだ。環境以外にも、俗に言うブラック企業のような社会的規範に反する行為を続ける企業は社会から排除されてしまい、事業の継続が困難になる。企業のガバナンスが整っていないと、不祥事をはじめとする事象が発生しやはり事業の継続性が危ぶまれる。環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮することなしにビジネスを続けることで、結果的にビジネスの持続可能性が脅かされる時代になっている。そしてESGの要素がビジネスに影響する可能性は日々高まっているのだ。これらは投資に関わる者が一様に認識しておくべきことだと考える。

ESG投資とは

ESG投資は環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮した投資を指す。企業にとってはビジネスがミッションだ。その際、環境、社会、ガバナンス(以下、ESG)に配慮することで、結果的にはビジネスのそして企業自体の持続可能性が高まると考えられる。持続可能性の高まりは、投資家の長期にわたる利益につながる。この考え方のもとで推進されている投資の一形態がESG投資である。
ESG投資はESGについての活動が盛んな企業を(その企業のビジネスを無視して)優遇するものではなく、本業のビジネスの持続可能性を高めるためにESGに配慮をしている企業を優遇する投資である。決して、リターンを犠牲にしてESGに配慮するというものではないことをまずは確認しておきたい。
ESG投資は従来の投資と異なるものではない。これまでは財務情報を中心に投資の判断がなされていたが、それに付加する形でESG情報を投資判断に加えるものだ。その名称も正確には「財務情報とESG情報の両方に配慮する投資」となるが長すぎるのでESG投資と呼ばれていると考えた方がいい。従来の投資よりも多くの情報をベースに投資判断を行うESG投資が重宝されることになんの不思議はない。このようなESG投資について、そしてそれを支える基盤ともいえるインベストメント・チェーンについて、またESG投資の海外における企業年金の取り組みについて知っておくことは今後の企業年金の運用に利するものだと考え、ここに本稿をまとめている。

  • 1
  • 2
年金時代