年金時代

地方議会の行政チェック―「第12回 社会保険旬報 地方から考える社会保障フォーラム」より―

「第12回 社会保険旬報 地方から考える社会保障フォーラム」(主催:地方から考える「社会保障フォーラム」事務局、後援:社会保険旬報)が4月19・20日、社会保険研究所(東京都千代田区)で開催されました。そのなかから、浅野史郎氏(元宮城県知事、神奈川大学特別招聘教授)の講演「地方議会の行政チェック」を掲載します。

「社会保障フォーラム」で講演する浅野史郎氏。

浅野 史郎(あさの・しろう)/元宮城県知事、神奈川大学特別招聘教授

議会の最も重要な役割は政策策定

今日は地方議会の議員がお集まりなので、地方議会に関連したお話をします。テーマは「地方議会の行政チェック」ですが、行政をチェックするのが、議会のメインの仕事だと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、私は、それはメインの仕事ではない、本来、地方議会の役割として一番大事なことは政策を作ることだと考えています。つまり、行政側・首長側と政策について意見を戦わし、どちらがいいのかを、住民に判断してもらえるような立派な政策を作ることが、議会の一番重要な役割なのです。そのために地方議会は二元代表制であるのです。

議会の役割には、政策策定機能と首長(行政)に対するチェック機能の二つの柱がありますが、さきほど、政策策定機能が重要だと申し上げましたが、これには歴史的な経緯があります。憲法第93条には「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する」とあります。ご存知のように、憲法の素案はGHQがつくりました。英文では、「議事機関」は“legislative assemblies”となっており、直訳すれば「立法機関」なのですが、日本語訳になったときに、「議事機関」と訳されてしまいました。これにより、憲法上、地方議会の位置づけがある程度決まってしまったのです。しかし、ここでは、原点に立ち返って考えて見ましょう。それは議事機関ではなくて、立法機関だと、つまり条例を作る機関だというところに戻って考えみたいと思います。

政策策定は「御用聞き」から始める

そこで、政策策定機能ですが、これをどうやって実行に移すかですが、私の持論ですが、まずは、住民の要望、不満を聞き出すことから始めます。そして、本日のテーマで、もう一つ大事なことは、地方自治の主役は住民だということです。だから、政策を策定する場合も、当然ながら、住民の意向が優先されなければなりません。

住民の要望や不満を聞き出すのですが、これを私は、input=「御用聞き」と言っています。「御用聞き」というのは、注文をとって歩くことです。議員さんも一戸一戸回って、注文をとっていく。いろんな要望とか、不満とか、特に行政に何を望んでいるのか、どんなことをやってほしいのか、こういったことを聞くことから始めるのです。これが議員さんの本来業務だと思うのです。

「御用聞き」ということでは、二元代表制のもう一方の首長つまり行政よりも、議員さんのほうが得意です。というのは、議員さんは数が多い。首長は一人です。しかし、首長には、行政組織があるじゃないか、多くの部下を抱えているじゃないか、と言われるかもしれませんが、行政は「御用聞き」などしません。また、議員には時間があります。これが本業ですから。それから、議員さんはふだんから親しくしている住民がいます。住民に気軽に話を聞けます。また、議員さんは選挙のこともあるので、対応が丁寧です。

また、住民の意見の収集は必ずしも戸別訪問だけではなく、いろいろな方法があります。たとえば、北海道栗山町議会では、議会基本条例があるのですが、「町民や団体との意見交換のための議会主催による一般会議を設置する」、「請願・陳情を町民からの政策提案と位置づける」ということが骨子となっています。戸別訪問して意見を集める方法もありますが、栗山町議会の議会基本条例では、住民の意見の収集がきちんとシステム化、定例化されているのです。

さて、いま、自治体に元気がないと言われています。私は、自治体に元気がないのは、その住民に元気がないということとだと考えています。そうした住民は地方自治に関心がありません。そこには、住民が自治体のことに関わらせてもらっていないということも関係しているのではないかと考えています。

自分たちの意見や要望が政策として取り上げられる議会基本条例は、実は自治体の行政、自治体の営みに関わることなのです。さらに、自分の言ったことが政策になったと知ったら、住民としてはうれしいでしょう。うれしいと思うと同時に、自分が自治体の営みに関わっている実感を持つでしょう。そうしたら、今度は参加をしてもらうことで、議会活動に対しても関心を深めることになります。それによって議会も活性化するのです。

議員提案の政策条例の成立と行政への政策実行の要請

では、具体的に、議会はどう政策を実行していけばいいのでしょう。それには、議員提案の政策条例を成立させることです。それにもうひとつは、条例の成立だけでなく、具体的な政策の実行を知事つまり行政に要請することです。

私が知事をしていた宮城県議会では、議員提案の条例が現在もどんどん増えています。平成27年度までに政策的な条例だけで28本成立させています。実は、私は議員提案の条例をつくってもらいたかったのです。それは議会と行政とが切磋琢磨することによって、地方自治が活性化すると考えたからです。

しかし、実際に条例をつくると言っても、議会にそのような経験はないので、どうやってつくっていいのか、わかりません。そこで、条例の原案は行政側がつくりました。知事の私からも手伝うように指示を出しました。そして、できたのが第1号「NPO促進条例」、第2号「暴走族根絶促進条例」だったのです。

そして、つくってみると、議会も要領がわかり、あとはどんどんつながっていき、いまや28本にもなっています。当時は、議員提案の条例の数では、1位と2位を、宮城県議会と当時北川正恭さんが知事であった三重県議会とが競っていました。

政策を策定する条例をつくるとなると、その前段階で、当然、議会内の議員同士が議論するようになります。そして、それは会派単位での議論となり、議会内の議論が活発化してくるわけです。単に、議会のなかでの議論を活発にしようと言っただけでは有効なメッセージにはなりませんが、具体的なアジェンダ(政策)をテーマとするのであれば、議論は活発にならざるを得ないのです。

政務活動費はこう使う

政策をつくるには、勉強が必要です。また、視察にも行かなければなりません。そうしたことを使途として支給されるのが政務活動費です。それは政策策定という本来の目的のために使うべきもので、政策策定を達成して初めて政務活動費の支給が報われ、その目的が達成されたと言えるのです。政務活動費が正当に使われている、そして、それを証明する領収書がちゃんとある、ということだけでは、その目的が果たされているということにはならないのです。

では、政務活動費はどう使われるべきなのでしょうか。私は、これこそ、住民からの意見聴取の場を設定したり、運営したりすることに、使ったらいいのではないかと考えます。そのように使うのであれば、政務活動費は議員個人というよりは、会派ごとにプールしたり、議会全体で使ったりする方法も考えられます。

私が知事のとき、宮城県議会では超党派で地方分権を考えるシンポジウムを開催しました。県民に参加を呼びかけ、結構立派な会議室を借りて、何百人と住民が集まりました。その設営を議会の主催でやりました。まさに地方自治のシンポジウムの開催や、地方自治に関する講演会の開催であれば、これは住民が対象となります。

それで、ちょっと話が外れますが、国政の課題ではありますが、憲法改正などに関する住民説明会は、政務活動費を使って議会が開催するのが、いいのではないかと考えます。私は、この10年以内、あるいは5年以内、いやいや3年以内かもしれません、憲法改正が発議されるのではないかと考えています。我が国の憲政史上初めて、憲法改正が発議され、国民投票にかけられるのです。その改正条項がどのような内容であろうと、国民が、あるいは自治体にとっては住民が、憲法改正について、反対か賛成かを問われることになります。投票にいかなければならないのです。

その場合には、やはり改正内容についての解説が必要です。それを、地方議会がやるべきではないかと考えます。先ほど、申し上げたように、それぞれの議員さんは、有権者である住民の方と日頃からの付き合いもありますから、「先生、これどう考えたらいいのか」と住民の皆さんから聞かれることになるかもしれません。それを個人的な関係ではなく、住民説明会というかたちで幅広く実施するのであれば、それは議会が開催すればいいのではないでしょうか。いずれにしても、こうした住民説明会などは会派として実施したり、議会として開催したりするほうが、政務活動費の使途としてもふさわしいのではないかと考えます。

議会事務局についてもお話ししましょう。議会提案の条例を議会に提出するにあたって、議会事務局に協力をお願いしたいが、人員不足で対応できない。そこで、議会事務局の人員増を市長あるいは知事に要望したいと考えているとします。

そんなとき、私の立場だったら、こう言いますね。議会事務局の人員を増やしたって条例をつくらなかったら無駄ではないかと。これは、ニワトリが先か、たまごが先かという議論になりかねないのですが、まず、実績を作ることです。泣きながらでも、歯を食いしばってでも、議員提案の条例を一つ、成立させるしかありません。そのうえで、もっと条例をつくりたいから、議会事務局の充実が必要だと要望すれば、説得力があると思います。

政策立案には予算編成でも関われる

また、政策立案ということでは、必ずしも条例だけではありません。予算編成にも関わってみたらどうでしょうか。たとえば、県庁、市庁の予算編成の場面を考えてみると、私が宮城県の予算編成をしていたときは、知事と部局とは敵味方の関係でした。新規予算を部局が要求してくるのですが、重要な要求項目は知事まで上がってきます。だいたいは、財政的に厳しいという理由で、知事は「ダメ」と判断を下します。そこを部局はどうやって突破するかと言うと、「これを実施するのに、議員さんも応援しているんですけど」とか、さらに、もうちょっと踏み込んで、「議会の総意なんですけど」とか言うわけです。そう言われると、首長に対する効果はだいぶ違ってくるでしょう。このように、部局は予算編成になると、知事を攻めてくる。そうするとそれが跳ね返されると、今度は議員さんの力を借りて、巻き返しを図ろうとするのです。

そうしたときは、こそこそやってはいけません。こそこそやるコミュニケーションを「つるんで」と言う。英語で言うと、“Under the table”。机の下で見えないようにやる。それを表に出だしてやると、“On the table”となる。そうしたコミュニケーションのとり方は「コラボして」と言い、かっこよく聞こえるのです。

部局が知事なり市長なりに了承を得なければならないときには、議員さんとも相談して、知恵や後押しをもらいながらやっているんですよ。そうするとダメだとは言えないでしょ。それで、予算要求が通ったならば、そのときには議員さんは、「この予算(事業)は、私たちが提案したんだ」と自分の手柄にすればいいんです。

また、政策の策定とは違いますが、議会のやることとして、地方自治法第99条にもあるのが、いわゆる「意見書の提出」です。地方自治法弟99条には「普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の公益に関する事件につき意見書を国会又は関係行政庁に提出することができる。」とあります。意見書のかたちで提出すれば、住民も分かります。うちの議会がこういう意見書を出した。こういうスタンスなのだということが住民にもわかるんです。こういうことも大事なことではないかと思います。

議会のチェック機能は甘くなりがち

さて、本日の本題として示された行政のチェック機能ですが、先ほども申し上げたように、行政に対するチェック機能は大事なんですが、議会のメインの役割ではありません。あくまで、メインの役割は政策の策定です。議案が知事側、首長側から提案されたときに、賛成あるいは反対というだけではなく、対案あるいは対案までいかなくても、一部修正案は提案する必要があるでしょう。

ここで、宮城県議会で私の心に残っている質疑がありますのでご紹介します。勾当台会館という県の地方職員共済組合の施設があったのですが、この施設は、地方公務員が公務とは異なる目的などで、広く使われていました。しかし、建物が古くなり、改築が必要となって、県でも改築案を作成し予算化して、議会に提出しました。

そのときに県議会でこういう質問がありました。「勾当台会館の建て替えは、民間が経営する飲食業、ホテル宿泊業などの経営を圧迫する、行政改革の時代にそぐわない、計画策定の経緯が不透明である。よって見直すべし」というのです。これを聞いて、私は、なるほど、そのとおりだな、と思いましたね。それで、県は改築計画を白紙撤回することにしました。

これで、何が言いたいかというと、これも議会の役割なのです。対案を出したわけではありませんが、筋の通った理由で、反対を表明されたのです。これには、私もその通りだと思いましたね。

とは言え、一般的には、議会の首長に対するチェックは甘いと言われています。それは、議会と首長が仲良し関係であれば、議会から首長に陳情とか要望を持っていきやすいからです。また、選挙にも関わってきます。再選とか、三選を目指す首長は、次の選挙もよほどの失政をしない限り、おそらく当選することになるでしょう。そうであれば、議会も知事を応援して、仲良し関係を維持しておきたいという気持ちも働きます。

それで、ここで一言言いたいことがあります。小池百合子・東京都知事がやっている政策です。私は大方納得しているのですが、ひとつ納得がいかないといいますか、やるべきではないと思うのが、都議会議員選挙に対する小池さんの介入です。自分の支持者を応援したり、自分の党派をつくったりする動きです。これはやってはいけないことです。都議会議員選挙は都議会議員にやらせればいいのです。本来の二元代表制ということから言っても、そこに介入することはよくない。

心配なのが、小池会派だといって当選した議員が、都政を追及しなければならないような事態が起こったときに、小池都知事を正々堂々とチェックなり、議論なりができるでしょうか。できっこないですよ。自分が所属する会派の党首みたいな存在なんだから。そういう体制は本来、二元代表制ということから考えても、望ましいかたちだとは思いません。

地方議会で地方版事業仕分けを

さて、議会のチェック機能ということに話を戻しますと、行政の施策をチェックするにあたり、私がいま考えているのが、地方版事業仕分けを地方議会でやったらどうかということです。なにも議会の場だけで質疑することがチェックではありません。これを日常業務のなかで、継続的にやるわけです。しかも、地方版事業仕分けは住民の納得も得られると思いますし、むしろ、積極的に実施を求める声が上がってくるのではないでしょうか。

つまり、要らない事業を辞めようとか、削ろうとか、そういうことをチェックしていくことによって、要らない経費つまり税金が削減できるということですから、これこそ議会のチェック機能を一番わかりやすいかたちで住民に示すことになるのではないかと考えます。

そこで、改めて二元代表制についてですが、住民によって選挙で直接選ばれる首長と、住民によって選挙で直接選ばれる議員とからなる地方議会は、ともに住民を代表する仕組みで成り立っています。この原点にいま立ち返るべきではないかと思います。ここから地方議会と首長との関係を見るならば、それを言葉で言うと、ライバル関係なんです。ライバル関係というのは敵味方ではありません。

別な言葉で言うと、議会と首長の関係は「善政競争」。これを言ったのは岐阜県知事であった梶原拓さんです。47都道府県の知事同士で、善政競争をやろうと言ったんですね。そして、三重県知事であった北川さんはこう言いました。「いいことはまねっこしよう」。政策をまねしたって、著作権とかないから、問題ありません。また、まねしてもらったほうはうれしいのではないでしょうか。これも善政競争みたいなものですね。

いまお話したのは、47都道府県知事同士の話ですが、議会と首長との関係であっても善政競争はできます。先ほど申し上げたように、議会も政策立案の機能を持った機関なのです。一方において首長のほうも、行政という機関を持ち、政策を実行しています。そして、いままで申し上げてきたように、住民に密着した政策を立案することには、議会に一日の長があります。そうしたことから、善政競争をするとしたら、議会のほうが有利なんですね。また、こうした関係を切磋琢磨というのですが、切磋琢磨というのは敵をやっつけるのではなくて、お互いに競い合って向上していくことですから、良きライバル関係でもあるんです。

さて、ここにいる皆さんも、4年に1回、議員選挙に出馬するわけですが、そのときの有権者に対するセールスポイントは何でしょうか。一方、有権者は議員をどう選んだらいいのでしょうか。そうしたときに、たとえば、「あの先生は、条例を3本も作っている」、「この予算はあの先生とあの会派がいっしょになってつくったんだよ」とか、こういうことで議員が選ばれるようになったとしたら、議会もよくなるのではないでしょうか。そうなれば、政策立案も努力しがいがあるというものです。

最後に「地方自治は民主主義の学校」ということを申し上げて、この講演を終わりたいと思います。これはジェームス・ブライスというイギリスの政治学者の言葉ですが、私が、大学の講義で学生に、こう言っているんですね、ジェームス・ブライスがいった意味とはちょっと違うかもしれませんが、「地方自治で民主主義とは何かを学べ」と言いたいのです。

もうひとつ、この言葉で私が言いたいことは、学校は学ぶところです。そこで、住民に対して、民主主義の学校に入学してくださいと、そこには地方自治学校と書いてあります。そして、そこで、地方自治に関心を持ってくださいと言いたいのです。

この学校で学ぶことはいろいろあります。住民投票をさせられることもありますし、反対運動をやるのも地方自治です。けっこう、各自治体で問題となっているがごみ処理です。たとえば、産業廃棄物施設が近所にできるということになったら、どうでしょう。地方自治に関心があるとかないとかに関係なく、住民は大騒ぎになります。「何で私たちの近くに作るんだ、ほかのところにつくれ」というような運動になったりするわけです。これは地方自治の問題なんです。こうしたことを地方自治のなかで学ぶのです。そして、こうしたことを通じて、住民は民主主義を身に付けていくのです。そうした場が地方自治だということを最後に申し上げて、この講演を終わります。

ご清聴ありがとうございました。

浅野 史郎(あさの・しろう)

1948年生まれ。宮城県仙台市出身。70年東京大学法学部卒業後、厚生省入省。85年北海道庁福祉課長となり、障害福祉をライフワークと決意。93年厚生省生活衛生局企画課長で厚生省を退職、宮城県知事に出馬、当選。2005年11月知事を3期務めて退任。その後、宮城県社会福祉協議会会長、東北大学客員教授、慶應義塾大学総合政策学部教授。09年5月ATL(成人T細胞白血病)を発症。造血幹細胞移植を受け、11年5月慶大教授に復帰。13年4月神奈川大学特別招聘教授として現在に至る。

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